第1回ではAIO(AI Optimization/AI最適化)を「生成AI(人工知能)に企業情報を正しく理解してもらい、適切な文脈で語られるための考え方」として整理しました。
第2回では、企業サイトに不足しがちな情報という観点から、自社が生成AIに引用されない原因を整理しました。情報の具体性・根拠・鮮度・統一性の不足は、AIにも人にも伝わりにくい状態をつくっています。企業にとって本当に大事なのは、AIの回答に引用されることだけではありません。AIに紹介された後で、読み手が「この会社は信頼できそうだ」「もう少し詳しく見てみたい」と感じるかどうか。そこまで考えて初めて、情報発信は成果につながります。
今回は、そのために欠かせない「HIO(Human Impact Optimization/人への影響力の最適化)」という考え方について取り上げます。
連載:生成AI時代の企業コンテンツ戦略「AIOとHIO」
目次
「AIに伝わる」と、「人の心が動く」は別―AIが候補を挙げても、そこから先は人の判断
生成AIは企業やサービスについて調べる入り口として、多くのユーザーが利用するようになりました。ユーザーは膨大な情報から目的に合ったものを早く探し出し、次のアクションを起こしたいからです。実際、企業を探したり製品を比較したりするときに、最初にAIへ質問する人は増えています。ただ、AIが出した回答に対し、ユーザーがすぐにアクションを起こすかどうかは別の話です。
AIが候補を挙げてくれても、それだけで「この会社に相談してみよう」とすぐに行動するわけではありません。読み手は会社の姿勢や考え方、自社の課題との相性まで見ています。任せても大丈夫そうか、話を聞く価値がありそうか。そうした判断は、要約を読んだだけではなかなか生まれません。
第1回で扱ったAIOは、AIに正しく理解されるための考え方でした。今回は、その先にある「人がどう受け止め、どう動くか」に目を向けます。ここに関わるのが、人の心が動き行動につながるHIOという考え方です。
なぜAIOだけでは足りないのか―人はAIの答えを自分で確かめ、納得して初めて動くから
AIOだけでは足りない理由、それは読み手の情報収集のしかたを見るとよく分かります。日経BPコンサルティングの調査では、生成AI利用者の68.3%が、AIから得た情報を何らかの形で確認していると答えています。生成AIの活用率が特に高い20歳代でも67.3%と、全体とほぼ変わらない水準です。世代を問わず、多くの人がAIの回答をそのままうのみにせず、裏取りをしているのです。
生成AIの回答内容を確認する方法
画面を拡大してご覧下さい。
確認先として多いのは、「生成AIではない情報提供サイト」(全体31.2%)、「公式サイトの再検索」(同24.5%)、「記載のリンクから出典元を確認」(同21.3%)などです。つまり、企業にとって重要なのは、まさにこの「確かめに来た場面」です。この場面で企業サイトや導入事例、調査記事、一次情報が乏しいと、せっかくAIが入り口をつくってくれても読み手は興味を失います。
逆に、読んだ人が納得できる情報がきちんと用意されていれば、比較検討は前に進みます。見てもらうことだけでなく、見た後にどう感じてもらうかが、一層重要になっているわけです。
- ※1出典:【生成AI活用調査】ビジネスの現場のリアルと本音 第2回 20代の生成AI活用最前線、デジタルネイティブ世代が求める「時短」と「正確性」(日経BPコンサルティング, 2026.02.12)
HIOとは何か―AIに伝わるだけでなく、人の理解・共感・行動まで設計する考え方
そこでポイントになるのが、HIOです。
これは、日経BPコンサルティングがAIOと併せて示している考え方です。概念としてはとても分かりやすいものです。簡単にいえば、AIに伝わることだけで終わらせず、その先で人の理解や共感、行動につながる状態まで設計する、ということです。
図1 HIO(Human Impact Optimization:人への影響力最適化)とは
これからのコンテンツは「AIの読み手」と「人の読み手」の両方を前提に設計すべきです。AIに対しては、内容が整理されていて要約しやすいことが必要です。
一方、人に対しては、納得感や信頼感、共感が欠かせません。同じ情報でも、AIに届くための整え方と人の気持ちを動かすための見せ方は、必ずしも同じではありません。HIOでは、人の意識変容や行動変容にフォーカスしてコンテンツを設計・制作します。
HIOが効くコンテンツや接点―要約では伝わらない、信頼感や納得感を生む情報と体験
HIOの重要性がよく表れるのは、単なる要約では価値が伝わりきらないコンテンツです。
例えば、独自調査、導入事例、担当者インタビュー、有識者コメント、プロジェクトの背景、失敗からの改善プロセスなどは、その代表的なコンテンツです。人はそうした情報から、その会社がどんな考え方で仕事をしているか、どこまで本気で向き合っているかを感じ取ります。
特にBtoB領域では、「何をしている会社か」だけでなく、「なぜこの会社なのか」が問われます。機能や価格だけでは決めにくい商材ほど、最後の決め手になるのは、信頼感や納得感です。導入企業や事例の数、現場の具体性、言葉の温度、そうしたものが積み重なって、「この会社なら話を聞いてみたい」という気持ちが生まれます。
また、HIOを考えるうえでは、Web上のコンテンツだけでは足りません。イベントやセミナー、展示会などリアルな接点を通じた体験は人の信頼感や納得感を生み出す場になります。情報がどんどん要約される時代だからこそ、直接触れて理解・共感する体験の価値はむしろ高まっていると言えます。
AIOとHIOは、なぜセットで考えるべきか―「見つけられる」と「選ばれる」は、一体で機能する
ここで大事なのは、AIOとHIOを別物として切り分けて考えないことです。AIOはAIに見つけてもらい、正しく理解してもらうための土台です。HIOは、その先で人に納得してもらい、選ばれるための働きかけです。AIに引用されても、そこから先のコンテンツが弱ければ、商談にも問い合わせにもつながりません。反対に、どれだけ良い事例や独自の知見があっても、最初の入り口で見つけてもらえなければ、候補にすら入りにくくなります。
だからこそAIに届く設計と人に響く設計は、別々ではなく一体で考える必要があります。AIOが「見つけられるため」の考え方だとすれば、HIOは「選ばれるため」の考え方です。これからの企業コンテンツは、その両方を押さえて初めて機能します。
図2 AI時代の情報発信を「AIに引用されやすくするための情報の最適化(AIO)」と「AIに置き換えられないコンテンツの設計・制作(HIO)」の二層構造で考える
次回の記事でお伝えすること―AIOとHIOを踏まえ、これからのコンテンツ制作をどう考えるか
本記事では、AIに引用されることと人の心が動くことは別の問いであることを整理し、その両方に応えるためのHIOという考え方を紹介しました。AIOが「見つけられるための土台」であるとすれば、HIOは「選ばれるための働きかけ」です。この2つは切り分けるのではなく、一体で設計することが生成AI時代の情報発信の核心です。
では、AIOとHIOを踏まえて、実際のコンテンツ制作をどう考えればよいのでしょうか。次回は、その具体的な視点を整理します。新しい記事を増やす前にまず何をすべきか、発信テーマをどう定めるか、一次情報をどう生かすか、コンテンツをどうつながりとして設計するか。「情報をつくること」ではなく「企業の価値が伝わる形に編集すること」を軸に、これからのコンテンツ制作に必要な考え方をお伝えします。
太田 美保(日経BPコンサルティング)
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