ESGからリスク管理、価値創造へ。EcoVadisが予測する、サプライチェーン管理の未来
サプライチェーン管理の重要性が高まる中で、日本でも大企業から中小企業に至るまでその対応に迫られる企業が増えつつあります。特に、EcoVadisはここ数年で日本でも着実に普及しつつあるようです。世界で見ても、バイヤー企業(注:発注元となる企業)、サプライヤー企業(注:納入側の企業)とも拡大傾向は続いているのでしょうか?
アネット 世界各地で、EcoVadisはバイヤー企業、サプライヤー企業ともに増加しています。これまでに私たちは世界各地で15万社を評価し、そのうちの1500社が日常的にそのデータをビジネスに活用しています。
こうした企業はEcoVadisを活用して、サプライチェーン全体でのレジリエンス強化やサステナブルな調達に取り組み、脱炭素化を推し進めようとしています。
面白いのは、地域的に拡大の背景が異なることです。
欧州企業の場合、企業サステナビリティ方向指令(CSRD)のような法規制がサプライチェーン管理強化のきっかけとなりました。サステナビリティやサプライチェーン管理に対する的確な対応が、よりよい市場へのアクセスには不可欠となっています。
米国では、リスク管理の観点からサプライチェーン管理を強化する傾向があります。顧客や投資家が持続可能な調達活動を企業へ求めており、企業が資金を調達するためには、こうした要望に応えなければなりません。
こうした欧米での流れを受けて、アジア企業が欧米市場で事業を展開するためには、サプライチェーン管理が必須となっています。企業は、事業活動を行う地域に適用されている基準に準拠する必要があるため、各地での活動へのモチベーションは様々です。
アネット・ゲバート 氏
2024年初頭よりEcoVadisのアライアンス部門シニア・バイス・プレジデントを務める、グローバルパートナーシップおよび業界別イニシアチブを統括していますEcoVadis入社以前は、Meta(旧Facebook)にて長年にわたり要職を歴任し、シンガポールおよびカリフォルニアを拠点にNGOや教育機関向けのグローバル開発および戦略プロジェクトの推進に携わりました。また、英国ロンドンでは、自動車・輸送業界におけるサプライヤー認定業務を担当し、さらにSAPではプロジェクトディレクターとして勤務した経歴を有する。
INSEADにて経営学修士号(MBA)を取得。
(写真:稲垣純也、以下同)
日本企業にはどのような特徴がありますか。
アネット 日本には、非常に特有かつ強力なモチベーションがあると感じています。日本企業には、より優れた製品を生み出すためにはリスクとなり得る事柄をしっかり管理するという、モノづくりの精神に基づいた価値観が根付いていると感じます。持続可能な調達を単に追求するだけでなく、長期での事業継続するために必要なビジネスレジリエンスの構成要素として捉えています。
日本ではESGに関連した法規制がEUなどと比較して遅れており、企業の取り組みも不十分という批判があります。日本企業の対応状況をどう見ていますか。
アネット 日本においてもサステナビリティ開示基準(SSBJ)に則した規定の整備が進んでおり、欧州と比較して大幅に遅れがあるとは思っていません。日本企業にとっては規定や法律で求められていることを遵守するのは当然で、それ以上に、実際に持続可能な調達と持続可能なサプライチェーン管理をレジリエント構築のために実施しているのではないでしょうか。
米国でトランプ大統領が就任して以来、ESGのブームが沈静化しつつあるという声を聞くようになりました。また、欧州でもESGに対して反動の動きがあるようです。今後はどのような展開になると見ていますか?
アネット 欧州では、例えばCSRD(企業サステナビリティ報告指令)は対象範囲などについて議論されています。規制の簡素化を求めるオムニバス法案が公表されました。これにより、企業規模や業種などによりどの程度の規制が必要なのかを改めて考えることになります。
ただ、重要なのは規制が消えるのではなく、今後も存続するということです。施行の延期や要求内容が頻繁になる可能性はあっても、リスクの軽減のためには規制は不可欠です。何か問題が生じた際には、企業は適切な措置を講じたことを示す必要があります。
EcoVadisは既に18年もの間にわたって活動してきました。現在のように各種の規制が整えられる前からの取り組みではあったものの、持続可能なサプライチェーン管理には真のビジネス価値があると確信し続けています。単なるコンプライアンス対応の範囲を超えて、リスク軽減の本質であると同時に新たな市場開拓の可能性を秘めているからです。
BtoBで調達する企業の2社に1社は、サステナビリティへの取り組みがより優れた企業からの購入を選ぶとされます。サプライチェーン管理を磨き、自社のサステナビリティに関する実績を積むことにより、事業の成長が見込める時代になっているのです。
私たちは、米国で反ESGに関して何が起きているのかを把握しようと、2025年6月に、売上高10億ドル以上の米国企業エグゼクティブ400人を対象に持続可能な調達やサステナビリティの取り組みに関して調査しました。その結果、87%は、ESGに関する投資を2025年初と比較しても、同様に継続している、または増加したと回答しています。
一方、回答者の3人に1人は、ESGに関する話をする機会は減ったとも答えています。取り組みは進めているものの、口に出すチャンスは減っているのです。また、89%は、今後もESGデータやサプライヤーの取組み管理のために関連技術への投資を増やす計画であると回答しています。この結果から、サステナビリティの概念は消えておらず、規程の遵守を超えて、事業の成長と成功のために必要であると考える経営者が多いということが読み取れます。
必ずしもESGという言葉を使わずとも、企業が事業継続のために取り組むべきことになっているのでしょうか。
アネット 状況を表す言葉が「ESG」から、「リスク軽減」「価値創造」「コンプライアンス」「事業成長のための推進要因」へと移行していると考えます。表す言葉は変化していますが、サステナビリティを実現し、改善していくために必要な取り組みの核心的な部分は同じです。
EcoVadisの活用状況に、業界ごとの傾向はありますか。
アネット 航空宇宙や防衛、自動車のように大規模で複雑なサプライチェーンを持つ分野では、ビジネス上での競合関係を超えて調達分野において協力し合おうとする流れが見られます。また、消費財や化粧品のようにブランドにとって評判が極めて重要な業界でも、イニシアチブを通したサプライチェーン管理に力を入れる傾向にあります。
持続可能なサプライチェーンの構築には、競合ではなく協働が必要です。このため、同じ業界のバイヤー企業を集めて持続可能なサプライチェーン構築に向けて協働できる場を提供しています。これまでで一番先進的なのは化学品業界で、約50社のグローバル企業がバイヤー企業として参加しています。現在、化学、自動車、ホスピタリティ業界をはじめとする 12業界 を対象に、協働の機会を提供しています。
サプライチェーン管理のサービスにはSedexなどの他社によるものもあります。その中で、EcoVadisの特徴は何でしょうか。
アネット EcoVadisと他社のプラットフォームには大きく3つの違いがあります。
1つ目は、私たちには専門家による検証という信頼がおける手法があることです。EcoVadisのスコアは単なる自己評価ではありません。500名以上の専門家で構成されるグローバルチームと、彼らを補完するAIにより厳格なエビデンスに基づいて評価しています。ですから、グローバルなビジネスのための価値ある評価基準となるでしょう。
2つ目は、私たちのネットワーク力です。現在、世界で既に15万社以上が評価を受けており、そのうちの多くは、一度だけでなく複数回の評価を受けています。さらに、300万社以上をスクリーニングしており、炭素排出量に関連するデータについては10万社以上のネットワークを構築しています。
こうした強力な評価モデルを構築することにより、多様なデータの共有を実現しています。サプライヤーの負担を軽減し、市場全体における共通言語を確立します。
最後に最も重要なポイントとして、EcoVadisは是正活動を促進するノウハウを兼ね揃えています。単にスコアをつけるだけでなく、企業活動を改善するためのプラットフォームまでも備えているということです。
スコア自体は単なる数値にすぎません。それに加えて、EcoVadisは是正措置計画、eラーニング、そしてエンゲージメントのためのツールを提供し、企業の改善活動をサポートしています。また、認定トレーニングを受けたパートナーのネットワークをグローバル規模で有しており、企業活動を支援します。私たちの目的は、全ての企業を持続可能な世界へ導き、私たちのネットワークへのアクセスを提供することです。
EcoVadisが同業他社と一線を画しているのは、実際に証拠の提出を求めている点にあります。過去18年間で発展させてきたエビデンスに基づく方法論が非常に重要です。企業は単に「これが私たちの取組です」というだけでは不十分で、どのように方針を策定し、方針を実現させるための目標をどのように設定しているのか、CEOはそれを承認しているのかというような周辺情報を実際に確認したいのです。
生成AIの存在が無視できない時代となっています。EcoVadisはAIをどのように活用していますか。
アネット 生成AIはサプライチェーン・インテリジェンスにおいて強力な加速装置であり、私たちのサービスが反応型モデルから予測型モデルへと移行する手助けをしてくれます。
AIは人間よりも早く数千もの文書やデータをスキャンし、スコアカードにあるバイアスを解釈して事実に基づいて提言してくれます。迅速により高品質な内容を顧客に提供することができます。ただし、AIは人間のアナリストと完全に置き換わってしまうということではありません。
EcoVadisでは現在、AIを使って企業の回答入力を軽減するためのシステムを開発しています。企業には例えば方針や認証書などの証拠書類を提供してもらい、AIが検証します。必要な情報を探して、質問票に事前入力するのです。企業の担当者は提出前に質問票に入力された情報を確認して送信するだけで済みます。質問票への記入作業が不要となり、大幅な時間短縮ができます。
AIの将来は、実行可能かつ予測可能なガイダンスにあります。近い将来、AIは潜在的なリスクを警告するだけでなく、リスク発生前に問題を解決するための軽減策も提案できるようになると思います。また、EcoVadisのネットワークから的確な代替サプライヤーを推薦するということもできるのではないかと思います。
私たちは日々、ライブニュースを含め大量の文書をモニタリングしており、これは人の手だけでは成しえないでしょう。私たちは既に300万件を超える企業情報を保有しており、これらを毎日継続的にモニタリングしています。
日本のサプライヤー企業、バイヤー企業へは何を期待しますか?
アネット サプライヤーにおいては、顧客が何を求めているかを理解することが重要です。顧客が変化を求めるほど、サプライヤーも変化する必要性が高まります。そういう意味では、買い手側にいる全ての組織が、サプライチェーン全体における持続可能性の向上に向けて意欲と推進力を共有してほしいと考えます。
サプライヤーとバイヤーの違いは白黒はっきりしたものではありません。サプライヤーの多くは、バイヤーにもなり得ます。また、サプライヤー自身もその先に長いサプライチェーンを有していることも多い。このため、サプライヤー企業にも脱炭素化、人権、持続可能な調達に関して、サプライチェーンを積極的に管理するよう求めます。
変化の激しい時代であり、数年後の予測すら困難ですが、サプライチェーン管理においての課題はどう見ていますか。
アネット 将来のサプライチェーン管理には3つの変化が見られるでしょう。
1つは反応型から予測型への移行です。私たちは過去を振り返る姿勢から、前を見据える姿勢へと移行するでしょう。AIを活用してリアルタイムデータを参照することにより、気候変動から新たな規制までの将来リスクをモデル化し、混乱が発生する前に強靭な意思決定が可能になります。こうして、反応型から予測型へと移行していくのです。
2つ目は、ティア1からティアN(ティア・エヌ)へと管理範囲が広がることです。サプライチェーンの透明性は、1次サプライヤーにのみに求められるのではありません。最大のリスクや機会は往々にして隠れているものです。技術の発展がティア2,3あるいは4といった下層の可視化を現実のものとするでしょう。
3つめは、直線的な行動から循環型へと変化します。
「取り、作り、廃棄する」モデルは経済的にも環境的にも破綻しつつあります。したがって、私の見解では、循環性を掌握し、スマートで平等なデザインを通じて廃棄物の流れを価値の流れに変える企業が未来を創っていくと思います。
そのための最大の課題はデータとイネーブルメント(実現手段)にあるでしょう。単にデータを収集するだけでなく、数千もの断片化された情報源からそれらを結びつけていきます。最も重要なのは、サプライヤーの監査に留まらず、変化を起こすために必要なツールや資金を積極的に提供することです。こうした課題こそが、まさに最大のイノベーションが生まれる源泉となるはずです。
EcoVadis回答支援に関する資料を下記ページからダウンロードできます。
サステナビリティ本部コンサルティング部 次長
戸井田 むつみ
アナリストとしてEcoVadis、FTSE、CDPなどの各種ESG評価機関への対応支援を担当。サステナビリティサイト、統合報告書等でのサステナビリティ開示のアドバイザリーも行う。製造メーカー、不動産、金融機関など幅広い業界へのアドバイスに携わる。
※肩書きは記事公開時点のものです。

