【AIツールレビュー】企業コミュニケーションにおけるAI活用の可能性
膨大な公表資料から欲しい情報を収集し調査時間を大幅削減──企業分析プラットフォーム「KIJI」がもたらす価値
文=藤田 楓
KIJIの特徴と基本機能
検証の経緯
KIJIは、日経BPの編集DX室AI・データラボが調査活動の中で見いだしたツールです。同ラボは、AI技術動向の調査・実証実験や、データ分析を活用した報道コンテンツの開発を手がけています。2025年1月、日経BPコンサルティングに「AI企業コミュニケーション タスクフォース」が発足。これを機に、当タスクフォースでKIJIの実証実験を開始することとなりました。
主要機能の概要
KIJIの特徴は、あらゆる企業情報を統合的に扱える点にあります。主な機能は以下の通りです。
1. 企業データベースによる一元管理
企業情報やキーワード検索から、該当する企業を絞り込んで一覧表示し、オリジナルのリストとして保存できます。このリスト機能により、特定の業界や企業の継続的な動向把握が可能です。
各企業のページでは、基本情報から役員一覧まで多岐にわたる情報を一括で確認できます。情報源には、企業サイトはもちろん、プレスリリース配信サービスのPR TIMESや有価証券報告書等を閲覧できるEDINETなどの外部サイトも含まれます。企業サイトは毎日クロールされ、さまざまな企業の最新情報が常にKIJIに集約されます。
従業員数の変遷もカバーしています。1カ月、3カ月、6カ月の増減数または増減率で企業の成長を推察し、その条件で企業群を絞ることも可能です。他の企業データベースでは漏れてしまう、社会保険の被保険者が1人以下の小規模企業も収録しており、スタートアップ企業や新興企業の調査にも有効です。
画面1:KIJIの企業ページ画面例。基本情報や売上高、ニュース、役員一覧、従業員数の推移が一元的に表示される(画像提供:DATAZORA)
2. 開示情報の横断検索
IR情報、プレスリリース、ニュースに加え、統合報告書、ESGレポート、中期経営計画書などのPDF形式の開示情報を横断的に検索・分析できます。業種や時期、キーワードなど多様な条件での絞り込みが可能で、複数企業の開示情報を同時比較もできます。
画面2:KIJIの法人検索画面。条件設定による企業の抽出・リスト化とAIによる分析が可能
3. 求人情報の一元管理
複数の求人媒体に掲載された情報を一元的に検索し、企業の採用動向や人材ニーズを効率的に把握できます。
4. AIによる情報分析
収集した情報に対してGPTを使って質問でき、収集データを基に回答が得られます。複数の企業をリストにまとめ、その全社に対して「最新の事業戦略は?」「どのようなDX施策に取り組んでいるか?」といった質問を投げかけることにより、企業同士での比較分析が可能です。その結果をExcel形式でエクスポートして、独自の報告書作成にも活用できます。
画面3:企業リストに対しGPTを使って質問している画面例。複数の質問を複数の企業に投げかけ、回答を比較することも可能(画像提供:DATAZORA)
5. リスト管理とアラート機能
検索・絞り込みした企業や情報をリストとして保存しておくと、情報が更新された際にメールで通知されます。継続的な企業モニタリングに役立つ機能です。
ビジネスシーンでの活用事例
DATAZORA社長のアラム・ザンザリアン氏は、「KIJIは金融業界や営業代行業、SaaS業界の企業を中心に、営業部門、企業調査部門、取引先開拓部門などで導入が進んでいる」と言います。以下に、主な活用シーンを紹介します。
1. 営業活動・コンサルティング業務での活用
特定の条件(業種、売上規模、立地など)で企業を絞り込み、潜在顧客リストを作成。ターゲット企業の分析の効率化が期待できます。また、企業の最新情報をタイムリーに把握することで、適切なタイミングでのアプローチが可能となり、営業活動の質を高める効果が見込まれます。また、コンサルティング業務では「クライアント企業の基礎情報収集にかかる時間を従来の数日から数時間に短縮できる」とザンザリアン氏は述べています。
2. 競合分析への応用
同業他社の事業動向、サステナビリティ情報、財務指標の開示状況などを一括で調査・把握することが可能です。収集した情報は、自社の事業戦略立案に活用できます。
3. 投資調査への活用
金融機関や投資家による企業の開示情報モニタリングを支援します。特定のトピックについて複数企業の対応状況を横断的に分析できる機能は、投資判断の際の情報収集に活用できるでしょう。
AI活用による企業調査の新たな展開
DATAZORAを創業したアラム・ザンザリアン氏は、スタンフォード大学で応用数学と統計学を学び、米国のヘッジファンドTwo Sigma Investmentsで6年間、数理モデルを用いた投資戦略の専門家(クオンツトレーダー)として勤務した経歴を持ちます。同氏は「LLM(大規模言語モデル)を活用したデータパイプラインを構築することで、ユーザー固有の営業シナリオや質問に対応できるシステムを実現し、情報収集・分析業務の効率化と高度化を実現したい」と、KIJIの目指す方向を説明します。
KIJIは、複数の企業サイトやIR情報をAIで横断的に収集・分析することにより、調査業務の効率化と意思決定の迅速化を支援します。ただし、AIによる分析結果は不正確な場合もあり、重要な判断は人間による改めての確認が必要となります。
今後、KIJIのようなAIツールは、ビジネスパーソンの情報処理能力を補完し、新たなビジネス機会の創出を支援することが期待されます。日経BPコンサルティングのAI企業コミュニケーション タスクフォースでは、本ツールの検証を皮切りに、広報・IR活動におけるAI活用の可能性を探っていきます。
日経BPコンサルティング
「AI企業コミュニケーション タスクフォース」について
生成AI技術の戦略的活用を推進する組織横断プロジェクト。広報・IR部門における生成AI活用の調査・分析と、実証実験を通じたビジネス活用の検証を行い、企業コミュニケーションの高度化と新規事業機会の創出を目指している。2025年1月より調査・実証の2チーム体制で活動を展開。
サステナビリティ本部 コミュニケーション企画部
AI企業コミュニケーション タスクフォース
藤田 楓
プライム上場企業のサステナビリティ推進担当として、レポート・コーポレートサイトを通じた情報開示、外部評価向上に向けた取り組み、マテリアリティ特定等に従事。現在は日経BPコンサルティングにて、企業のサステナビリティ情報開示支援や研修教材開発に携わる。
※肩書きは記事公開時点のものです。