高まる企業価値創造への可能性──定型業務の効率化からイノベーション創出まで

広報・IR部門の生成AI活用状況調査:「本格活用期」へ、リスクとどう向き合う?

2025.04.18

マーケティングリサーチ

  • コンテンツ本部 ソリューション1部/AI企業コミュニケーション タスクフォース 平野 優介

企業コミュニケーションに革新をもたらす「生成AI」。広報・IR部門では、業務効率の向上から戦略的活用まで、その可能性を模索する動きが加速している。日経BPコンサルティングが2025年3月から4月にかけて実施した調査(有効回答数102人)から、企業の最新動向と将来像が見えてきた。

<調査概要>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムを用いて2025年3月14日~4月29日に実施。広報・IR業務従事者2278人に調査を告知し、有効回答数102人を得た。 ※本記事は2025年4月18日の初回公開後、同年4月22日から29日にかけて実施した追加調査の結果を踏まえ、内容を更新したものです。 調査=日経BPコンサルティング 文=平野 優介

ChatGPTの利用が7割、機能進化で利用トレンドに変化も

回答企業の従業員規模は、100~999人が34.3%、1000~9999人が26.5%、1万人以上が22.5%を占める(図1-1)。回答者の所属部門は、広報・宣伝が52.0%、IRが26.5%、経営企画・事業企画が9.8%となっている(図1-2)。

図1-1 回答者の所属企業 従業員規模(単一回答/n=102)

図1-1 回答者の所属企業 従業員規模(単一回答/n=102)

図1-2 回答者の所属部門(複数回答)

回答者は主に、プレスリリースの作成・配信、公式メディアでの情報発信、メディアリレーション、社内報制作、企業理念浸透活動、リスク対応、社内コミュニケーション活性化、ブランド戦略立案、IR関連業務、経営層報告、市場分析などの業務に従事している。

利用している生成AIツールでは、ChatGPTが67.0%で首位を獲得。Microsoft Copilot(43.2%)、AI議事録作成ツール(21.6%)、Gemini(20.5%)と続く(図2)。

図2 利用中の生成AIツール(複数回答/n=88)

ただし、生成AIツールは急速な進化を続けており、今後の利用傾向は大きく変化する可能性がある。2025年3月までに登場した複数の最新AIモデルでは、推論能力やコーディング性能が大幅に向上し、音声・画像などのマルチモーダル入力への対応も強化された。また、自律的な情報収集が可能な「AIエージェント」サービスの展開も、新たな潮流として注目される。

個人での活用が半数近く、一部業務での試験活用も3割

生成AIツールの利用範囲では、個人単位での活用が47.1%と最多。一部業務で試験的活用が29.4%、部門全体での正式導入・積極活用が22.5%と続く(図3)。

図3 生成AIツールの利用範囲(単一回答/n=102)

自由回答からは、「全社導入」「会社として正式導入し一部担当者が活用」といった声が聞かれた。一方、「社内ルールが未整備」「社員のリテラシーにばらつき」を理由に利用を制限している企業も見られた。

満足度については、「ある程度満足だが改善の余地あり」が53.4%と過半数を占めた(図4)。

図4 生成AIツールの満足度(単一回答/n=88)

活用用途では、「会議議事録の作成」(45.5%)がトップ。「記事の収集・要約・分析」(40.9%)、「プレスリリースの自動生成・多言語化(翻訳)」(38.6%)、「企画書、プレゼン資料の作成」(35.2%)と続く(図5-1)。

図5-1 生成AIツールの現在の活用用途(複数回答/n=88)

今後の活用意向については、「広報効果測定・分析レポートの作成」(40.2%)、「SNSコンテンツの自動生成・最適化」(32.4%)、「トレンド予測・話題性分析」(31.4%)、「メディアモニタリング・レピュテーション分析」(30.4%)への期待が高い。また、「ブランディング戦略の作成支援」(29.4%)、「統合報告書・アニュアルレポートの作成支援」(27.5%)、「危機管理シナリオの作成・更新」(24.5%)にも関心が集まっている。

図5-2 生成AIツールの今後の活用意向(複数回答/n=102)

※散布図内の軸の交点は平均値を示す。横軸は現在活用中、縦軸は今後の活用意向

自由回答では、法定開示の不備を自動検知する機能や、自社の過去情報を学習した情報発信支援、対話型でのアウトプット作成など、より高度な活用への期待も示された。

生成AIがもたらす戦略的業務へのシフト

生成AI活用における課題では、「著作権侵害」「機密情報の取り扱い」への懸念が特に強く、「経営層の理解」「ステークホルダーとの関係性への影響」「記述の正確性」も主要な課題として挙げられた(図6)。

図6 生成AI活用における課題(複数回答/n=102)

生成AI活用による業務変化については、「定型業務から戦略的・創造的な業務へのリソースシフト」が68.6%でトップ。「情報収集・分析・発信の自動化・効率化の進展」(48.0%)、「AI活用・データ分析スキルの必須化」(38.2%)が続いた(図7)。

図7 生成AI活用が業務に与える影響(複数回答/n=102)

企業における生成AI活用は、「試験導入期」から「本格活用期」への転換点を迎えている。今後は活用度合いによって業務効率や生産性に差が生じ、企業の競争力を左右する可能性も高い。個人レベルでの部分的活用から組織的・戦略的活用へと移行する中で、セキュリティリスクやコンプライアンスに配慮しつつ、いかに外部知見を取り入れ、効果的に活用していくかが成功のカギとなるだろう。

日経BPコンサルティング
「AI企業コミュニケーション タスクフォース」について

生成AI技術の戦略的活用を推進する組織横断プロジェクト。広報・IR部門における生成AI活用の調査・分析と、実証実験を通じたビジネス活用の検証を行い、企業コミュニケーションの高度化と新規事業機会の創出を目指している。2025年1月より調査・実証の2チーム体制で活動を展開。

コンテンツ本部ソリューション1部
AI企業コミュニケーション タスクフォース
平野ひらの 優介ゆうすけ

記者・編集者・防災士。日経BPコンサルティング内のAI企業コミュニケーション タスクフォース所属。中央省庁関連書籍の担当を経て、2011年3月より地方行政の総合誌の記者・編集者、税務分野の月刊誌副編集長に就任。2017年9月、日経BPコンサルティングに入社。NTTデータの30周年事業、NTT東日本の東京2020大会記録事業など、大手企業の周年・イベント記録事業にプロデューサーとして多数参画。また、NTT西日本の「Biz Clip」やBIPROGYの「BIPROGY TERASU」などのビジネスメディアで取材・編集を担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。