「知を統合」して、社会課題を解決できる コンピテンシーを身に付けた人材を輩出

広島県公立大学法人 叡啓大学

2024.04.03

大学広報

  • 吉田健一

    ブランド本部 本部長 兼 ブランドコミュニケーション部長 兼 大学ブランド・デザインセンター長 兼 周年事業・デザインセンター長 吉田 健一

有信 睦弘 叡啓大学学長(左)、湯﨑 英彦 広島県知事(右) 2021(令和3)年4月に、広島県の県立大学として設置されたばかりの叡啓大学。新しい時代を切り開いていく人材の育成に力を入れ、社会を変える「実践力」と世界で通じる「教養力」を培うことを目指しているといいます。その教育ビジョンについて、有信睦弘学長と、大学の設立に尽力された湯﨑英彦広島県知事に語ってもらいました。 聞き手=大学ブランド・デザインセンター長 吉田 健一/文=北湯口 ゆかり

社会を前向きに変えるチェンジメーカーとして、これからの時代を生き抜く人材、新しい社会システムをデザインできる人材を育成すべく2021年4月に設立された叡啓大学ですが、設立に至るまでの背景をお聞かせください。

湯﨑 県知事に就任後、広島県内の産業界の方々と意見交換をする中で、共通して聞こえてきたのが「社会で活躍できる人材を大学で育成してほしい、特にグローバル人材を育ててほしい」という声でした。

ひと昔前なら、大学を卒業したばかりの新社会人を現場でトレーニングする過程で、社会が求める能力を育成していく余力が社会にも企業にもありました。しかし、バブル崩壊後の停滞期間を経て、企業には人材投資に時間を費やす余裕がなくなっています。その結果、新社会人に求められるコンピテンシー(資質や能力)と大学が取り組んでいる教育内容にギャップが生じていたのです。

湯﨑 英彦 氏

広島県知事
湯﨑 英彦 氏

そこで、広島県内の産業界や大学関係者に集まってもらい、議論を交わしました。これから必要とされる人材とはどのようなものか、その人材を育成するために必要なコンピテンシーは何か、どうすれば育成できるのかなどを話し合い、産業界の求める人材と大学が育成しようとしている学生の差を浮き彫りにしていったのです。

議論を進める中で、求める人材像や教育内容を当時の県立広島大学で実践しようと考えた時に、必要な教育プロセスが大きく異なることから、既存の大学の在り方が改めて問われていることが分かりました。産業界は大学との連携を強く求めていたからです。

社会に開かれ産学の共創関係を重視し、実社会で活躍できるコンピテンシーの育成を図る大学教育はどうすれば実現できるかを考えた時、既存の大学と異なるガバナンスを持つ新しい大学の設立が必要不可欠だという結論に至りました。

実社会で活躍するためのコンピテンシーの育成を図る教育の場として、叡啓大学が誕生したわけですね。既存の大学とはどのような点が異なるのでしょうか。

有信 睦弘 学長

叡啓大学
有信 睦弘 学長

有信 大学は、学問を通じて知識の継承と発見、蓄積に力を尽くす場と認識されてきました。大学ではさまざまな知識を学修しますが、いざ社会に出てみると「あまり通用しない」という指摘は確かにありました。

大学教員は教育者であると同時に研究者でもあるので、自身の専門領域を狭く深く研究しているのが常です。個々の専門分野を深耕し、知識を深めていくことを重視します。そうなると、学生たちが学ぶ世界も自然と専門的で狭い領域になりがちです。

ただ、大学に入学した学生全員が研究者になるわけではありません。卒業して社会に出ていくときには、社会が要求する能力や知識を身に付けておかないと、社会で活躍しづらくなってしまいます。

叡啓大学では、本質的な課題を発見できる「先見性」、解決策を立案できる「戦略性」、多様性を尊重し他者と協働する「グローバル・コラボレーション力」、自らリーダーとしてやり抜く「実行力」、高い志を持ち学び続ける「自己研鑽力」という5つのコンピテンシーの体得を目指しています。

これらの力を育成するためには、社会を俯瞰(ふかん)するための知識と自らの思いを実現するためのスキルを身につけることが必要です。混沌として先行き不透明な社会に対して、未来を創造するビジョンを描く原動力です。中でも、さまざまなバックグラウンドをもつ人々と共通言語としての「英語」を用いながら連携していくグローバル・コラボレーション力は、必須となるスキルだと考えています。ロジカルシンキング、デザインシンキングなどもそうです。そうした能力を身に付けた学生を輩出していきたいと考えています。

5つのコンピテンシーの図

5つのコンピテンシー

湯﨑 大学には研究と教育という大切な機能がありますが、叡啓大学では教育に大きく軸足を置いています。さらに、特定の専門分野を狭く深く学ぶよりも「知を統合していく能力」を育成することを重視しています。

なぜなら、社会の課題を解決するためには、さまざまな視点から俯瞰的に物事を見る目が必要だからです。その課題は国内だけにはとどまりませんから、国際的な共創力やデジタルリテラシーの育成にも力を入れています。

5つのコンピテンシーを体得するためのプログラムは、どのようなものですか。特徴的な教育スタイルなどがあれば教えてください。

吉田 健一

大学ブランド・デザインセンター長
吉田 健一

有信 私たちが育みたいのは、社会の仕組みを理解し、先行きが不透明で予測が難しい未来においても、自ら課題を発見して解決策を立案・実行し、社会にイノベーションを起こせる人材です。そのために、「修得」×「実践」をスパイラルに回す教育プログラムを構築しています。

全ての授業は少人数クラスで学生の主体的な参加を促す「アクティブ・ラーニング」スタイルを徹底し、従来のような一方的に知識を伝える形式でのレクチャーは基本的に行いません。

叡啓大学では、広島県の協力を得ながら産学連携の叡啓大学実践教育プラットフォーム協議会を組成していますが、ここに参画している企業から課題を提供してもらい、解決策を提案するという「課題解決演習(Project Based Learning、PBL)」に力を入れています。PBLを繰り返すことで、今の自分に足りない知識やスキルを自覚しながら、やり抜く力を育みます。

さらに、学生の多彩な可能性を広げられるように、体験・実践プログラムを充実させています。在学中に国外での活動を必須とし、企業や国際機関などに協力を仰いで、インターンシップやボランティア活動、留学などの学外活動に取り組んでいます。

湯﨑 社会で活躍できる人材を育成するには、大学の教育が変わるだけでは足りないと考えています。社会が求めるコンピテンシーは大学時代の4年間だけで修得しきれるものではないので、大学が変わるためには高校が変わらないといけないし、高校が変わるためには中学、小学校が変わらないといけない。未就学期から、そうした能力を身に付けて行く意識が必要です。

そこで、広島県教育委員会では広島版「学びの変革」アクション・プランを提唱。未就学期の幼児向けには「遊び 学び 育つひろしまっ子!」推進プランを策定するなど、新しい教育モデルの構築に取り組んでいます。その集大成としての高等教育を大学で実現できる流れをつくりあげたいと考えています。

これからの社会を担う次世代の力は未来の国力の源泉ですから、社会にどのような人材を確保すればいいのか、次世代をどのように育てるべきかを考えるのは、国の責任であり、地方自治体の責任でもあります。

何かを変えようとするときには抵抗がつきもので、心配や反対の声もありますが、新しい人材投資にチャレンジし、新しい価値を生み出しているのだと証明していくことが務めだと考えています。

最後に、今後のビジョンや将来展望についても、お聞かせください。

有信 叡啓大学の未来ビジョンでは、「協創」と「深耕」がキーワードになると思います。さまざまな知識を統合して社会課題に取り組み、新たな価値を協創する。その過程で不足した知識やスキルを学びの場で更に深耕する。そのようにして、様々な知識を使いこなして、更に学びを深化させていくことが大切です。この春には、企業と大学が協力して社会貢献と新規事業の価値創造を目指すプロジェクトにも取り組みました。

その繰り返しの中で未来が形づくられ、新しい社会がデザインできるようになると考えています。

湯﨑 叡啓大学がスタートして4年目を迎え、まもなく最初の卒業生が誕生します。ようやく最初のサイクルが完結したところですが、次のサイクルに向けて、更に進化していくことを期待したいですね。

これからの不透明な時代に子どもたちが学び続けていく力を育むのは、県をあげての責務でもあります。常に変化する社会の中で、人材としての価値をより高めていくことができるよう取り組んでいきます。

第1期卒業生の誕生で、叡啓大学での教育の成果を示せるまでまもなくですね。貴学が目指す教育の大成と、今後の活躍に期待しています。

ブランド本部 本部長 兼 ブランドコミュニケーション部長
兼 大学ブランド・デザインセンター長
兼 周年事業・デザインセンター長
吉田 健一

IT企業を経て、日経BP社に入社。日経BPコンサルティングに出向後、2001年より始まった日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」ではプロジェクト初期から携わり、2004年からプロジェクト・マネージャー。2020年から現職。企業や大学のブランディングに関わるコンサルティング業務に従事する傍ら、各種メディアへの記事執筆、セミナー講師などを務める。著書に「リアル企業ブランド論」「リアル大学ブランドデザイン論」(共に弊社刊)がある。