2つのケースから紐解く「リブランディング」最前線①
世界を舞台に新たな交流の創造を目指すJTBがリブランディングに取り組む
2023年12月13日開催 「ブランド・ジャパン2024」キックオフセミナー
「The JTB Wayを実践するブランドへの変革
ー期待を超える挑戦を続け、新たな交流時代を切り拓く」
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文=斉藤俊明
構成=金縄洋右
変化の激しい時代を見据えた35年ぶりのブランド構築活動
近年、世界では想像を超える出来事が次々起きている。中でも新型コロナウイルス禍は、人の動きや交流のすべてを止め、あらゆるビジネスに強烈なインパクトをもたらした。とりわけ旅行業界はその影響が甚大で、売り上げの大部分が一気に消滅する危機に直面した。
このコロナ禍のさなかである2020年6月、現社長の山北栄二郎氏が就任し、アフターコロナの世界を見据えて“地球を舞台に「新」交流時代を切り拓く”という新たな経営ビジョンの下、「『新』交流創造ビジョン」と名付けた中期経営計画を策定。併せて経営ビジョンに沿ってリブランディングを実施することになったと、執行役員 ブランディング・マーケティング担当 CMOの風口悦子氏は語る。
「価値観が変わりゆく世界で、新しい交流を創造していくブランドとしてJTBがどう評価されているか社内外で調査した結果、旅行業としては多くの認知を得ている一方、MICE(企業・団体の会議や研修旅行、コンベンション、イベント等)運営や地域活性化に関するソリューション提供の領域では認知が低いことが分かりました。ブランドイメージも、新しい世界を目指し時代を切り拓いていく勢いを感じさせるものではないとの評価でした」
ビジョンの刷新にこうした調査結果も踏まえ、グループの企業活動と社員の行動の指針となる概念体系「The JTB Way」を改定。トップに「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する」というミッション=経営理念、その下に前出の経営ビジョンを置き、同ビジョンを実行していくブランド中核概念としてのブランドスローガン「感動のそばに、いつも。」と、日々の行動の基準となる価値観として、社員アンケートをもとに「信頼を創る」「挑戦し続ける」「笑顔をつなぐ」の3つのバリューを設定した。
(写真提供:JTB)
今回のリブランディングは、業界で初めてCIを実施し、呼称を日本交通公社からJTBに変えた1988年以来、実に35年ぶりとなる。中期経営計画におけるフェーズ1はコロナ禍が直撃した2020〜21年度で、ここは経費や事業の構造改革を実施した。現在のフェーズ2(22〜24年度)が回復・成長期であり、飛躍・成長を期する25〜28年度のフェーズ3に向けJTBブランドを世界に発信していく重要な時期と定義し、リブランディングに臨んでいる、と風口氏は説明する。
「リブランディングは事業戦略にブランド戦略を加えた2軸で進めています。2つの戦略を両輪で回しながら、『The JTB Way』の具現化に向けた顧客視点の新たなブランド体験を創造し、その体験を通じてJTBのブランドイメージが刷新されることを目指しています」
社内外で浸透を推進する多彩な施策を展開
風口氏は具体的なブランド構築活動として、まずロゴの変更を挙げた。
1988年制定のロゴから、地球を舞台に人流だけでなく物流・金流・情報流まであらゆる交流を創造する企業というイメージを打ち出すため、JTBのロゴ自体は白もしくは赤の単色とし、背景に大地や海など地球がつくり出す多様な色彩を表現した12色を採用した。
グループ会社の表記についても、“One JTB(一つのJTB)”を表すマスターブランド型表記に統一しつつ、一部の事業や固有ブランドにおいてはエンドース型やフリースタンディング型のブランド表記を導入した。
これらを実際に浸透させていく取り組みとして、例えば名刺は社員が12色から各々の思いを反映して選べるようにしている。「いくつもの色を使い分ける社員もいますし、名刺交換をきっかけに当社がリブランディングに込めた思いを話す場も生まれています」と風口氏は語る。
(写真提供:JTB)
また、社員に浸透させるため、ブランドの世界観を表現するキービジュアルの整備、ブランドを体現するムービー作成なども行い、社内コミュニケーションに力を入れている。
社内コミュニケーションで最初に注力したのは経営層の理解・共感の獲得だと風口氏。
「約250人を集めたリーダーシップブランドフォーラムを開催し、様々なブランド戦略を持っている企業も招きながらリブランディングの意義を伝え、各リーダーに自分ごと化してもらうためそれぞれのリブランディング宣言も考えてもらいました。そしてその宣言をWeb社内報でメッセージとして配信しました」。こうしたブランドについて考える取り組みを新役員や新入社員研修においても展開し、全社員必修のリブランディングに関するe-Learningも用意しているという。
とはいえ、2万人近いグループ全体に浸透を図るのは困難な作業だ。そこで150を超える拠点において推進リーダーをアサインし、拠点ごとにリブランディングを伝える取り組みも行っている。加えて社外コミュニケーションとしてコーポレートサイトを刷新し、オウンドメディアも立ち上げた。
風口氏は「ブランドを変えるだけでは事業の変革・成長は見込めないので、従来の事業ポートフォリオを超えた多様な活動を展開しています」と語り、宇宙旅行プロジェクトや宇宙産業参入支援サービスを紹介。さらに地球環境やオーバーツーリズムなどサステナビリティに通じる問題の解決、分野や枠組みを超えた共創の進展にもリーダーシップをもって取り組んでいくと力強く語った。リブランディング進展中のJTBの今後に注目だ。
2023年12月13日開催 「ブランド・ジャパン2024」キックオフセミナー
講演② 「世界を舞台に新たな交流の創造を目指すJTBが
リブランディングに取り組む」
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連載:「2つのケースから紐解く「リブランディング」最前線」
- 1)世界を舞台に新たな交流の創造を目指すJTBがリブランディングに取り組む
- 2)統合新会社・レゾナックが悩みながら突き進んだブランドコミュニケーション
株式会社JTB
執行役員ブランディング・マーケティング担当 CMO
風口 悦子 氏
ブランディング・マーケティング担当執行役員、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)として、 ツーリズム事業に加えてB2B領域のマーケティング強化やグローバルブランドの強化を推進する。 前職の日本IBM株式会社では、執行役員チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)、 パフォーマンス・マーケティング・ディレクター、クラウド・AI担当プロダクト・マーケティング・ディレクターなど マーケティングの要職を歴任。システムズエンジニアや営業職の経歴も持つ。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄 洋右
日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。