経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは①
住友商事がイノベーション創出に向け、DE&Iの高度化に踏み出す
2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
「Diversity, Equity & Inclusionとカルチャー改革」
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文=斉藤俊明
構成=金縄洋右
多様性を生かすエクイティとインクルージョン
住友商事は2019年、創業100周年を記念して「Enriching lives and the world」というコーポレートメッセージを策定した。「このメッセージのもと、社会や人々の暮らしをより豊かにしていくというパーパスを全社員が心に持ち、日々仕事に取り組んでいます」と、執行役員・人事担当の中澤佳子氏は語る。
中澤氏は国内外の様々な業界の企業で多様なバックグラウンドの人事を経験し、2023年4月に住友商事の執行役員となった。入社後、400年の歴史を持つ「住友の事業精神」が社員の日々の行動に息づいていることを実感。6つの精神の中でもとりわけ「進取の精神」は、新しいことや困難な問題に自ら進んで取り組んでいくことを求めており、それがパーパスの実現にも強くつながっていると話す。
同社ではダイバーシティに対して、人事面からどのような取り組みを行っているのか。現在の社員構成は新卒採用が90%であるのに対し、昨今登用を進めているキャリア採用は現時点で10%という状況だ。いまキャリア採用を増やしているのは、ビジネス環境が不確実に変化する中、同社が提供するサービスに専門性を求められていることが背景にあると中澤氏は説明する。
一方、国外拠点では現地メンバーの採用を積極的に進め、各地域の管理職への登用にも取り組んでいる。中澤氏は「これまでにない発想を会社に持ち込むには多様性が不可欠。多様性があることによって、今まで当たり前だったものを変えていくアイデアがたくさん生まれてきます」と語る。
ただ、単に社内に多様性があればいいわけではないと中澤氏は指摘する。そこで必要なのがエクイティでありインクルージョンだ。
人事として、まずはインクルージョンの観点から、キャリア採用者の入社時にサポーター制度を用意している。この制度は同じ部署ではなく隣の部署の先輩社員が6カ月間伴走し、住友商事社員としての走り出しをサポートするものだ。続いて、キックオフセミナーとしての懇親会を実施。これはキャリア採用メンバー同士がネットワークをつくる最初のきっかけになっているという。
その後にアンケートとインタビューを行い、キャリア採用者の定性的な情報を人事が蓄積して、サポートプログラムの改善・進化に役立てている。さらには先輩と同時期入社のキャリア採用者が語り合うラウンドテーブルトークの場を設け、キャリア採用者の不安軽減を図っている。そのほか、住友の歴史を学ぶ取り組みや、キャリア採用者同士がオンラインでコミュニケーションを取るキャリア採用友の会といった仕掛けも用意している。
ローコンテクスト・平等性・非日常の追求が社会課題解決の土壌を生む
中澤氏はこれまでのキャリアにおいて、自身がマイノリティの立場となりながら様々な経験を重ねてきた。そこで得たものをもとに、同社で取り組んでいきたいことを語った。
まず住友商事には、一人ひとりが個人として尊重されていること、そして「住友の事業精神」の理解という、2つの誇るべき強みがあると強調する。その上で「大きな会社であるにもかかわらずセクショナリズムがハードルとならず、社員同士のコラボレーションが日常的に行われています。そして新しい発想や違った考え方、他社のベストプラクティスに対して好奇心旺盛な社員がものすごく多い。これらの強みを生かし、当社の使命である社会課題の解決に向けて、2つの重要なポイントがあると考えています」と話す。
1つは「Unlock Your Power」。これは何かに取り組みたいという気持ちに鍵をかけず、オープンにして、力強くリリースするという思いを込めた言葉だ。そしてもう1つが「Equal Share of Voice」。会議などで参加メンバーの声を平等に扱うという考え方である。中澤氏は外資系企業で日本人が1人しかいない環境でも、リーダーが他の人の意見を聞いてみようと発言の場を提供してくれる機会が多かったと振り返る。
そして、この2つを実践するための仕掛けとして3つのポイントを紹介した。まずは「ローコンテクスト」。日本語は行間を読むコミュニケーションが多い言語だが、多様なメンバーがいる中では理解しやすいようにローコンテクストのコミュニケーションが大切になるという。
2つ目は「課題の前では平等」。住友商事では等級制度で年次概念を撤廃しているが、実際の場では組織での地位が高い人や、その分野の経験年数が多い人の言葉が重く扱われるということがやはり起きる。しかし、今そしてこれから直面していく課題の前では、経験値だけでは得られない発想やちょっとした気づきが大きなイノベーションを生む可能性もあるため、発言機会をイコールにしていくことが必要になると語る。
そして3つ目が「ビジネスにおける非日常」。これは、とはいえこれまで築かれた日常のやり方を急に変えるのは難しい部分もあるため、あえて“非日常”、中澤氏の言葉によれば“ちょっとミーハー”になってみませんか、という問いかけだ。
中澤氏はこの3つをキーに、イノベーションに向けたカルチャー改革を進めていきたいと話した。
続いて、社内で実際に行われている取り組みのいくつかも紹介した。まずは「未来洞察ラボ」。未来を予測するのではなく、社会の中の小さな兆しを洞察し、そこから新しい事業の創出を目指す事業部横断の取り組みだ。毎週1回1時間のオフライン会を開き、兆しとそこからの洞察をメンバーが共有。その洞察を言語化し、他企業も含めより広いコラボレーションに展開して、ビジネス創出につなげていく。この会議では「Equal Share of Voice」がしっかり実現されていると中澤氏は評価する。
またモビリティ事業において、デザイン思考のアプローチによるワークショップが開かれている。このワークショップではローコンテクストで、ヒエラルキーのないオープンな、それも“ちょっとミーハー”なコミュニケーションが展開されているという。
中澤氏はこうした取り組みを会社全体で盛り上げ、社会課題の解決へと発展させていきたいと決意を語った。
連載:「経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは」
住友商事株式会社
コーポレート部門 人材・総務・法務担当役員補佐(人事担当)執行役員
中澤 佳子氏
タワーズ・ペリン・フォースター・アンド・クロスビー(現ウイリス・タワーズワトソン)の経営者報酬部門において、東京・ニューヨーク勤務。その後、新生銀行、グラクソ・スミスクライン、シーメンス等を経て、2023年住友商事入社。人財・組織開発の専門家。タレントマネジメント、リーダーシップデベロップメント、組織開発、チェンジマネジメントが得意。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄 洋右
日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。