【解説】

「企業メッセージ調査」における3つの評価視点

  • 大平2023

    ブランドコミュニケーション部 大平 望実

多くの企業では、自社のコンセプトや理念、姿勢、方針などを社外(消費者や取引先など)や社内(自社及びグループ企業の従業員)に伝え、浸透させるために全社的に一貫して使用している、独自のフレーズや文言を策定している。この文言は、「コーポレートメッセージ」「ブランド・ステートメント」、最近では「パーパス」などと呼ばれているが、本稿では、「企業メッセージ」と呼ぶことにする。

魅力的な企業メッセージを策定するにあたり、色々と頭を悩ませる担当者もいらっしゃると思うが、おおよそ、以下の3つのフローを意識することが多いであろう。

①自社の魅力や特徴、今後の企業経営の方向性などから、自社を的確に表す言葉選びをしているか

企業メッセージを策定する上での最初のフローは、メッセージにどのような意味を込めるのか、そのための言葉集めであろう。言葉集めの参考資料を作るため、従業員向け・外部向けの企業イメージ調査や、経営層へのインタビュー、社内でのワークショップなどを実施して、自社の特徴や魅力、今後の経営方針などにまつわる言葉を集め、整理することも多いだろう。こうして集めた言葉や情報から、自社に関する様々な言葉を取捨選択し、適切な言葉をあぶり出していく。ここで正しい作業をしないと、せっかく収集した言葉が「自社らしさ」をしっかりと表現・網羅できないことにつながる。集めた言葉に偏りがないか、欠落している要素がないか確認することが求められる。

②伝えたいことを短い文章に、正しくまとめあげているか

自社らしさを抜け漏れなく、言葉として抽出したあとは、それらの複数の言葉を短いメッセージで表現するフローとなる。企業として最も訴求したい内容は何かをしっかりと整理した上で、言葉と言葉をつないだり、新たな言葉を探したりしていく。ここで、色々な要素を伝えようとして、多くの言葉を含めると、何を訴求したいのかがわかりづらくなってしまう。短い文章でありながらも、伝えたいことがしっかりと表現し、自社らしさを正しくまとめあげることが重要である。

③せっかく策定した企業メッセージをしっかりと浸透させられる手段を持っているか

言葉を紡ぎ、短い文章としてまとめあげて企業メッセージを策定したあとは、それを社内外へ浸透させるフローとなる。せっかく時間をかけてメッセージを策定しても、それが知られていなければ、宝の持ち腐れとなってしまう。企業メッセージを世間へ浸透させる手段としては、オウンドメディア・SNSの活用やマスメディアなどの各種コミュニケーションがある。企業メッセージを発信する際は、そこに込めた想いやエピソードなどの意味付けを併せて発信すると、企業の魅力や自社らしさをより明確に訴求できる。また、企業メッセージは短い期間で次々と変えていくような宣言ではない。自社らしさや、企業として何を目指しているのかを企業メッセージを通して、継続的に発信していき、世間の人々から理解、共感してもらうことが重要であるといえる。

企業メッセージを総合的に評価する調査「企業メッセージ調査」

企業メッセージは、様々なステークホルダーとのコミュニケーションに活用できる有益なブランド資産である。その理解もあって、多くの企業で企業メッセージを策定しているわけだが、昨今では、不確実性の強い時代において、さらなる企業使命の発信や、企業のサステナビリティを意識した新しいメッセージの発信など、企業メッセージの持つ意味もより強くなりつつある。

そんな中、企業メッセージに対する一般生活者からの評価を、上記に挙げた3つのフローを意識しながら、総合的に調査するプロジェクトが弊社実施の「企業メッセージ調査」である。企業メッセージの評価測定をしたいという企業からのお問い合わせが増えたこともあり、弊社では年に1回、国内の主要な企業メッセージを調査対象として、大規模な調査を実施している。この調査では、全国の一般生活者に対して、各社の企業メッセージに対する認知度や理解度、好感度のほか、認知経路や事業との親和性、企業メッセージに対するイメージなどをたずねている。

「3つのフロー」それぞれにおいて、評価ができるチェック項目を調査では用意している。

まず、1点目の「自社らしい要素」は、「セット好感度」で確認ができる。セット好感度とは、企業名とメッセージをセットで提示し、「あなたはこの企業が伝えるこのメッセージについてどのように感じましたか」と質問し、選択肢の「とても好感が持てる」~「全く好感が持てない」にそれぞれ加重値を与え、-100~100間でスコア化したもので、企業が展開する事業と企業メッセージの親和性を測る指標である。セット好感度が高ければ、企業とメッセージに親和性があり、自社らしさを表す大事な要素がメッセージに含まれているといえる。

2点目の「的確にメッセージングできているか」は、「理解度」で確認ができる。理解度とは、企業名とメッセージをセットで提示し、「このメッセージによって伝えようとする内容がわかりましたか」と質問。選択肢の「よくわかる」~「全くわからない」にそれぞれ加重値を与え、-100~100間でスコア化したもので、訴求したいことを基本的にくみ取ってもらえているかを測る指標である。理解度が高ければ、期待する訴求内容が的確に伝わっている可能性が高いので、言葉のまとめ方に、一定の評価があると考えられる。また、企業メッセージに対するイメージを17の項目(「チャレンジ精神がある」や「信頼できる」など)で尋ねているので、各イメージの得票率をみることで、狙い通りのイメージを醸成できているかを確認することができる。

3点目の「コミュニケーションを通した企業メッセージの訴求」においては、「接触経路」で確認ができる。接触経路とは、企業名を伏せた状態で提示した企業メッセージに対し、「見たり、聞いたりしたことがある」と答えた回答者に対して、そのメッセージをどのメディアで接触しているかを選択した比率である。接触経路として、テレビCM、企業のWebサイト、SNSなどを選択肢として用意している。これらの得票率が高ければ、メッセージの浸透において、各種コミュニケーションの効果を発揮できているといえる。

多くの様々な投資をして、せっかく策定した企業メッセージも効果が分からなければ、もったいない。企業がブランディングを推進する上で、一言で、自社らしさを表している企業メッセージは、今後もコミュニケーションをとるうえで重要な役割を果たすだろう。また定期的に、企業メッセージの見直しやアップデートも必要となる。今の企業メッセージが時代にあった的確なものか、また訴求できているかを適宜確認して、見直すことの一助になるよう、本調査を実施している。

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企業メッセージ調査2023
 調査結果の一部を掲載したダイジェスト版公開中
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大平 望実

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
大平 望実

慶應義塾大学院で心理統計を学び、日経BPコンサルティングに入社。各種ブランド調査を担当し、2020年から「企業メッセージ調査」のプロジェクト・マネージャー。2023年から「ブランド・ジャパン」の調査にも携わる。