コロナ禍で視覚障がい者の方を悩ませるもの

2022.05.20

マーケティングリサーチ

  • 轟 翔太

    ブランド本部 調査部 轟 翔太

日経BPコンサルティングでは視覚障がい者の方100名に対して簡易調査を実施。新型コロナウイルスにより生活が大きく変化した中で、視覚障がい者の方の生活に生じた変化とは―。
オンラインイベント・サービスへの積極的な参加が伺えた一方で、これまでにはない新たな困りごとも生じているようだ。
調査概要
<視覚障がい者向け調査>
 調査手法:インターネット調査 ※アクセシビリティを考慮した通常とは異なる方法にて実施
 調査期間:2021年10月18日~2021年11月24日
 有効回答数:100件
<日経BPコンサルティング3月調査(調査モニター向け調査)>
 調査手法:インターネット調査
 調査期間:2022年3月1日~2022年3月6日
 有効回答数:3,593件

調査主体はいずれも日経BPコンサルティング ブランド本部調査部

現在日本には、身体障がい者が436万人、知的障がい者が109万4千人、精神障がい者が419万3千人いると言われている。これを人口千人当たりの人数でみると、身体障がい者は34人、知的障がい者は9人、精神障がい者は33人となる。
(ともに、内閣府「令和3年版障害者白書」より)

東京オリンピック・パラリンピック開催の影響もあり、日本ではこの数年の間で、様々な施設・場所でバリアフリー化が進められた。また、多くの企業が障がい者と共に働くことについて考えるようになったり、ヘルプマークが広く認知・活用されるようになったりと、ソフト面でも従来とは異なる動きが見られるようになった。ちなみに、2021年に開催された東京パラリンピックでは、過去の大会と比べ、パラリンピアンの活躍がメディアで報じられたりパラリンピアンが企業CMに起用されたりするケースを多く目にしたように感じる。今、障がい者と共に生活するということに対して意識が高まっていることは事実だろう。

障がい者の方にとって過ごしやすい環境に向けて、また、障がい者の方とともに生きる共生社会の実現に向けて歩み出していた中で、我々は新型コロナウイルス感染拡大という未知の事態に遭遇した。新たなルールでの生活を余儀なくされ、これまでの日常が過去のものとなってしまった。

新型コロナウイルスの影響で、せっかく歩みだした道のりが振り出しに戻ってしまっては困る。そこで日経BPコンサルティングでは、障がい者の方に対して調査を実施。ビジネスパーソンを中心に構成される日経BPコンサルティング調査モニターへの調査結果との比較を通じて、コロナ禍において障がい者の方々が抱える苦労を明らかにすることを試みた。なお今回は目から入手する情報に着目した調査としたため、視覚障がい者の方に調査協力をいただいた。

9割弱がオンラインイベント・サービスへの参加経験ありも、過半数が戸惑いを覚える

図1 参加したことがあるオンラインイベント・サービス

図2 オンラインイベント・サービスへの参加に際して戸惑った経験

コロナ禍で、オンライン上でイベントに参加したりセミナーに参加したりする習慣が生まれた。参加したことのあるオンラインイベント・サービスを尋ねた結果、視覚障がい者の方の88.0%が何らかのオンラインイベント・サービスに参加したことがあると回答した。同様の問いを調査モニターに対して行ったところ64.8%であったため、視覚障がい者の方の積極的な利用を伺うことができた。具体的な項目で見てみると、「オンラインセミナー(ウェビナー)」が特に高くなった。

視覚障がい者の方がこうしたサービスを積極的に利用できていることはアフターコロナ、ウィズコロナ時代の産物かもしれない。ただし、利用・参加に際して、オンラインイベント・サービスからの案内や説明が不十分なことで戸惑った経験があるかを併せて尋ねたところ、利用経験者の過半数が戸惑いを感じたと回答した。視覚障がい者の方がイベントやサービスに参加しやすい環境になりつつあるものの、課題は残っているようだ。イベントやサービスの提供者には、読み上げソフトに対応できているかを確認するなど、障がい者目線に立った案内や説明を行うことが求められる。

8割がオンラインショッピングで何らかの不便を感じている

図3 オンラインショッピングの際に不便だと感じた経験の有無

図4 好みの支払い方法

オンラインショッピングの際に不便だと感じた経験があるかを尋ねたところ、82.0%が「ある」と回答した。日経BPコンサルティングの調査モニター向けの調査では32.8%に留まっており大きな差が生じた。

また、キャッシュレス決済と現金のどちらの支払方法を好むかを尋ねたところ、視覚障がい者向け調査では、キャッシュレス決済派が57.0%、現金派が42.0%と、調査モニター向け調査ではキャッシュレス決済派が優勢なのに対して差はそこまで開かなかった。バーコード決済だと、バーコードを表示するのにもスマホ上で操作が必要だし、バーコードをかざす場合はどこにかざせばよいか分かりづらい。お店によってはこちらがバーコードを読み取らなければならない場合もある。クレジットカードで支払う場合だと、暗証番号の入力やサインを求められる場合もある。

本来便利であるべきはずのオンラインショッピングやキャッシュレス決済だが、視覚障がい者の方にとっては必ずしも使い勝手が良いものではないのかもしれない。何がどうあることで便利になるのか、便利の定義について社会全体で考えてみてはどうだろうか。

入店の際の体温測定やアルコール消毒は大きなハードル

図5 入店の際の体温測定やアルコール消毒を不便に感じた経験

新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、入店の際に体温測定やアルコール消毒を求める店舗が増えた。新たな生活様式の象徴の一つである。このことを不便に感じているかを視覚障がい者の方に尋ねたところ74.0%が「ある」と回答した。同様の問いを調査モニターに対して尋ねたところ、「ある」は19.9%に留まり大きな差が生じた。

体温を自動測定するような機械だと、モニターを見ながら自分自身で人型の枠に合わせて位置を調整する。うまく合わせているように見えても反応されず、上下左右前後に動いてようやくという経験をした読者の方も多いのではないだろうか。アルコール消毒については、自動で噴射されるものが多くの場所で取り入れられているが、視覚障がい者の方にとってはどこに手をかざせばよいか分かりづらいだろう。例えば音声アナウンスでサポートするようなものなど、視覚障がい者の方にとっても分かりやすいものが普及していくことが望まれる。

百貨店やショッピングモールは広すぎて利用しづらい

図6 普段あまり積極的に利用しない小売店

コロナ禍だけに限った話ではなくなるが、今回の調査では、普段あまり積極的に利用しない小売店についても尋ねた。その結果、「百貨店」と「ショッピングモール」が5割弱で高くなった。自由意見で理由を尋ねてみたところ、広すぎて目的の店を探したり移動したりするのが大変だからといった声が多く挙げられた。このほかにも、メニューが分からないから「飲食店」や「カフェ」に行かないといった声や、セルフレジの使い方が分からないから「スーパー」に行かないといった声もあった。

自分にとって都合が良いお店を選ぶことは消費者にとっては当たり前の選択だ。私もわざわざ北海道のスーパーまでお茶を買いに行くことはしないし(筆者は東京在住)、陽気な音楽が爆音で鳴り響く空間にも行かない(これは単純に私の趣味とは遠い距離にあるから)。しかし、私が数ある選択肢の中からお店を選択している一方で、障がい者の方は限られた選択肢の中から選んでいるかもしれない。より多くの選択肢の中からお店を選ぶことができる環境を提供することは社会全体の課題ではないだろうか。

今回の調査を通じて、社会全体として視覚障がい者の方に対して、まだ配慮が十分に行き届いていないように感じた。障がい者の方がどのようなところでハードルを感じる可能性があるかを考える想像力を、社会全体で養っていくことが求められる。

ブランド本部 調査部
轟 翔太(とどろき・しょうた)

大学でスポーツビジネスを専攻。その際、パラリンピックをはじめとしたパラスポーツ(障がい者スポーツ)について学ぶ機会を持ち、共生社会について関心を持つようになる。
調査・コンサルタント会社に入社後は、官公庁をクライアントとし、福祉やスポーツの分野を中心に調査実施支援や計画策定支援を行う。現在はBtoB、BtoC企業のマーケティング支援に従事。