コロナで変わるデジマの新常識

デマジェン施策で気をつけたい落とし穴

  • 古賀 雅隆

    マーケティング本部 シニアコンサルタント 古賀 雅隆

新型コロナウイルス、COVID-19の感染拡大防止のための緊急事態宣言はすでに解除されましたが、新しい生活様式の浸透で、かなりの方が在宅勤務も併用されていると思います。こういった状況の下、デジタルマーケティングを展開するうえで、これまでの常識とは異なる動きが見えてきました。
在宅勤務によるテレワークの増加は、デジタルマーケティングの推進においてもいろいろな影響をもたらしています。アクセスログ解析や問い合わせの傾向を把握して、戦略の見直しも必要になってきたようです。何が変わりつつあるのかをまとめます。

この記事のポイント

Point1 在宅勤務で自宅Wi-Fiからのアクセス増、ドメイン判定の難易度上昇

Point2 決裁権限者が見る傾向の高いコンテンツページを狙え

Point3 Webリテラシーの低い人を切ることは危険

在宅勤務によるテレワークの増加は、デジタルマーケティングの推進においてもいろいろな影響をもたらしています。今までもWebサイトを核にして、ターゲットの行動情報を把握してきたと思いますが、これまでとは少し違う考え方が必要になってきました。

何が変わったかを簡単にまとめますと、以下のようになります。

  • オフィスからのアクセスに加え、自宅からのアクセスも大きくなっている
  • これまでWebをあまり見なかった人の利用が増えている
  • Webリテラシーが想定より低い人が訪れる傾向がある
  • 利用デバイスが変化している。

自宅で勤務する場合、仕事に必要な情報収集を行う場所も当然のようにオフィスではなく自宅になります。そうなると、IPアドレスの判別による企業ドメインの分析が難しくなります。自宅のWi-Fiを利用すると来訪ドメインが変わります。これまで、同一ドメインからの来訪増をターゲットリードのスコアリング指標としてきた方々も少なくないと思いますが、この指標が使えなくなるからです。

高まったフォームの重要性

これまでは、同一ドメインからの来訪者があった場合、企業内の導入や購入の検討が進んで、企業情報や商材情報を閲覧する人が増えているとみなしていました。しかしその判別ができなくなってきています。この状況が続くと、cookieをベースとしたアクセスログ解析によって、リピーターの閲読状況は追えるので関心の高まり、つまりBANT情報のNeedsは判別できても、TimeframeやAuthorityなどの状態情報を取得できなくなるおそれがあります。

ターゲットリードの状態情報を補足するためには、Webセミナーや動画の提供時に属性を登録してもらったり、詳細資料やホワイトペーパーの提供と引き換えたりして、社名などの登録を促す工夫がいっそう重要になりそうです。まず入力フォームは使いやすいかどうかを再度チェックし、入力の際の戸惑いや抵抗が高くならないように見直してみてはいかがでしょう。

職場と自宅を推測するサービスなども始まっているようです。しかし、BtoBのデジタルマーケティング推進のうえではあまり強力な武器とはなりそうにないと思います。プロファイル推測代行というサービスを耳にすると、20年近く前に米国・サンノゼで取材したサービスが脳裏に浮かびます。

プロファイル代行サービスは1990年代の終わりから存在しました。今後、Webサイトの行動履歴から趣味、嗜好、属性を割り出す専門会社が有望だと考えて、日本の財閥系の商社の人と一緒に話を聞きに行き、日本でも使えるかどうかを検討しました。

結論は採用できない、というものでした。イケスとして大きなくくりのターゲットユニバースにするなら使えるが、これをデジタルマーケティングの指標としてSQL、つまり営業を動かす指標としては使えない、という結論に達しました。プロフィールの的中率が6割強程度にすぎなかったからです。

商材サイト以外のアクセス増が意味するもの

いくつかの企業サイトの担当者の方々から、「3月以降サイト全体のアクセスは増えた。でも特定商材の詳細ページはあまり変化がない」という状況を聞いています。これは決裁権限者がWebサイトを見る機会が増えたためと推測できます。

在宅勤務でもビジネスは止まりません。いや、PCに向かうシーンはむしろ増えたのではないでしょうか。商材選定のための情報収集者は、これまで同様、商材サイトにアクセスして情報を集め、さらなる検討段階に上げます。検討が進み、導入や購入の検討となると決裁権者が登場します。決裁権者は購入や導入を決断する際に、企業情報を参照する機会が増えていることが推測されます。

しかし、決裁権者の皆さんのデジタルリテラシーが高いとは限りません。
これまでは、リテラシーが低いビジターを相手にしなくてもよかったかもしれません。しかしリテラシーの高くない決裁権限者が今までよりも詳しく閲覧している可能性もあるとなると、無視することはできません。

リテラシーが高くないビジターが増えている状況はアクセスログや問い合わせ内容からもつかむことができます。

あるLive配信では、オンマウスでクリックできるつくりにしていました。マウスイベントを常識として使っていた層がターゲットの中心だったから、これまでは何の支障もありませんでした。

しかし3月以降
「オンマウス」→「詳細ページにリンク」
を理解できないビジターが多数来訪するようになり、「詳細・お申込みはこちら」の文言を後から付け足すことになったという話を聞きました。

閲覧させる対象が広がると、今まで通じていた思い込みが通じない場合も出てきます。この場合でいうと「オンマウスするとクリックできるかどうかはわかるはず」という思い込みが通じなくなったのです。対象者のデジタルリテラシーのレベルにより、文言や表現等も使い分けを工夫する必要があります。

利用デバイスにも要注意

また、かつては通勤電車でのスマホ視聴をメーンに狙っていたが、それが通じなくなったようだ、という話も耳にしました。在宅勤務でノートPCの利用が多くなる傾向があるようです(デスクトップPCを宅配便で会社から自宅に送ったという涙ぐましい話も……)。

こちらの動きはアクセスログに残されたブラウザの情報で把握している方も多いことと思います。スマホ視聴だと広い情報収集をメーンの目的とする人も多いでしょうが、自宅からPCを使っている方々は、先にも書いたようにもっと深い情報を欲する人たちである可能性が高いと思います。デバイスの変化は、閲覧者の変化にもつながります。

デジタルマーケティングにおけるターゲットを見直し、どのコンテンツが、購買ステータスのどの位置づけにある人たちに訴求すべき内容なのかを再確認する必要がありそうです。つまり、まだまだ客なのか、今すぐ客なのかなどの購買ステータスを考える必要性が高まっています。特に、リードナーチャリングをあまり意識することなく、単発のコンテンツだけを並べてきたサイトのオーナーさんは要注意です。

購買ステータスにおいて、参照したくなる情報が何かを再確認し、デジタルリテラシーの高くない人たちにとってもわかりやすい導線かどうかをチェックしてください。

コロナ危機はマーケティング策の転機でもあります。デジマ促進のチャンスととらえ、アクセスログなどを通して自社のサイトの閲覧傾向を分析しなおして、戦略、戦術を見直すことも重要だと思います。

日経BPコンサルティング デジタル本部 ディレクション部次長
森田 千織

日経BPコンサルティング デジタル本部 シニアコンサルタント
古賀 雅隆