社会課題の解決と経済価値向上につながるスキーム

SDGsを経営戦略に生かすには

  • 古塚副本部長2020

    サステナビリティ本部 本部長 古塚 浩一

SDGsは持続可能な社会づくりのための共通言語と語る笹谷氏。
2018年12月5日(水)、日経BPコンサルティング主催「NBPCカンファレンス2019キックオフ 超情報革命 ~変革への処方箋~」が都内で開催された。後半の経営トレンドセッションで伊藤園顧問・日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター シニアコンサルタントの笹谷秀光氏が登壇、「SDGsで企業の未来とブランドをデザイン」をテーマに講演を行った。ここではその模様をレポートする。

「三方よし」を進化させる

笹谷氏は農林水産省に31年間勤務し、2008年に退官後、伊藤園に入社。10年にわたりCSR、CSV、ESG、SDGsといったテーマに企業の最前線で向き合ってきた。2013年、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授にちなんだポーター賞を伊藤園が受賞したこともあり、ポーター教授との縁も深い。そのポーター教授は、企業が社会課題の解決と経済価値を同時実現しようという「CSV(Creating Shared Value;共有価値の創造)」を提唱している。

笹谷氏は、日本も近江商人の「三方よし」(自分よし、相手よし、世間よし)のように、CSVに近い概念を大切にしてきたと指摘。「同様の経営理念や社是を持つ企業は少なくないだろう。ただ、日本には『三方よし』と同時に『陰徳善事』、つまり“分かる人には分かる”という考え方も根強く残っている。イノベーションを起こすには、“伝える”という視点が重要になる。そこで私は以前から『発信型(開示型)三方よし』を提唱している」と、企業が取り組みを発信することの重要性をまず強調した。

ESGとSDGsを経営戦略で結び付ける

続いて笹谷氏は、SDGsについての解説に入る。「ESGの時代に入り、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のすべてにきちんと取り組む企業でなければ生き延びられない。その前提で、2015年にSDGs(Sustainable Development Goals)が登場した。しかし日本語訳の『持続可能な開発目標』は表現が若干硬い上に、『開発』という言葉が開発途上国を対象にしたものだと思われがち。実際には、SDGsは先進国も含めた全地球的な課題の解決に向けた目標であり、私はSDGsを『持続可能な社会づくりのための共通言語』と理解すればいいと考える」と語った。

SDGsには17の目標が掲げられているが、その17個を暗記しようとするのではなく、構造から理解することを笹谷氏は推奨。SDGsは世界各国が今危ないと考えている「People(人間)」「Prosperity(繁栄)」「Planet(地球)」「Peace(平和)」「Partnership(連携)」の5つの「P」で成り立っているとし、「SDGsは極めて体系的に整えられており、企業が自社の施策と照らし合わせてストーリーを生み出しやすい設計になっている。企業の創造性とイノベーションに大いに期待している点も特徴だ」と、企業の役割が重視されていることを解説した。また、「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESGにきっちり取り組んでいる企業に投資するため、SDGsを重視する方針を打ち出したように、SDGsはESG投資の目線からも重要になっている」とした。

笹谷氏は、SDGsが持つ構造への理解を深めるべきだと述べた。

では、企業はESGとSDGsをどのように結び付けて考えればいいのだろうか。笹谷氏はSDGs経営/ESG投資研究会(経済産業省の勉強会)で採用された同氏作成の資料を紹介。ESGでなすべき取り組みを洗い出してリスト化し、それぞれがSDGsのどの目標に貢献するかを対照させ、分かりやすく整理することが必要だと指摘した上で、同様の整理を実施している伊藤園やエプソンなどの事例を提示した。

SDGsを“自分のモノ化”する時代

笹谷氏は「SDGsは、チャンスを探し、一方でリスクを回避しながら、社会課題の解決と経済価値向上の双方につなげられる優れたスキームであり、企業の戦略に使えるものだ」と強調。政府のSDGs推進本部が主催する「ジャパンSDGsアワード」を受賞した住友化学や伊藤園をはじめ、SDGsの取り組みを見えやすい形でアピールし、ブランドのデザインに成功している企業の例を挙げて「SDGsに貢献する取り組みを積極的に発信すれば、どんどん伝わり、評価されていく」と語った。

一方で、政府がSDGs推進に向けて動いており、「SDGs未来都市」として29自治体が選定されたことで多くの自治体もSDGsにシフトしているため、企業もSDGsの取り組みを始めなければ政府・自治体と付き合うことが難しくなると笹谷氏は強調した。

SDGsを通した共有価値の創造について述べる笹谷氏。

具体的な進め方として、笹谷氏は次のようにまとめた。
「企業が経営戦略にSDGsを実装するにはトップのイニシアチブが重要。そのイニシアチブの下で全社が横串体制となり、先進事例をウオッチし、専門家の支援を仰いで、どのようなデザインで自社の取り組みを見せていけばいいか考えていく必要がある。企業にはそれぞれ特色があるが、自社の強みと特徴を知り、チャンスとリスクを洗い出すことがスタート地点。次に、共感を呼ぶためのコミュニケーションツールとしてSDGsを活用することで、企業価値が向上し、社員のモチベーションも向上する」

また、現在様々なSDGsのプラットフォームが登場しているが、プラットフォームには多様な人たちが集まり、パートナーシップ形成が促進され、共有価値も創造されるとした上で「日本企業はSDGsの取り組みを加速させ、すぐにでもSDGsを“自分のモノ化”してほしい」と締めた。

古塚 浩一

デジタル本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。

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