企業が、会員や顧客のロイヤリティを高めるための効果的なツールとして、会員誌や広報誌があります。最近の会員誌・広報誌は、市販されている雑誌に負けないクオリティを維持しているものが数多くあります。特に顧客満足度の高い会員誌は、読者ニーズや世の中の流行廃りを敏感にキャッチして企画を作っていきますので、特集や連載の作り方も市販誌に近くなります。ただ、市販誌と会員誌・広報誌との間では、似て非なる部分が多々あります。皆さんがあまりご存知ない会員誌・広報誌編集の裏側を書いてみたいと思います。
今年の冬は、平昌オリンピックでの羽生結弦の感動的な金メダルやカーリング女子団体の活躍、そして夏には、サッカーワールドカップ・ロシア大会における日本代表の予選突破など、世界的なスポーツイベントが大変盛り上がりを見せました。さらに今後は2019年のラグビー・ワールドカップの日本大会、さらには2020年の東京オリンピックと、さらなる盛り上がりを見せることが必至です。当然、会員誌や広報誌も注目のスポーツイベントを誌面で紹介したいという気持ちになるのは、必然の流れです。そこで例えば、編集会議で「夏期オリンピック ニッポン金メダルの系譜」という企画を考えたとしましょう。
過去の金メダリストにインタビューしたり、スポーツ評論家に名勝負のエッセイを書いてもらったり、あるいは、当時のライバル関係などを図解したり、年表を作ったり……、こう書くと、なかなか面白い企画になりそうに思えてきます。当時の写真は……と、フォトエージェンシーのサイトで検索すれば、これがまた、なかなかに感動的でドラマチックなオリンピックの競技写真が見つかったりします。トントン拍子で、企画が盛り上がり、GOを出したとしても、ここに市販誌の編集にはない、ハードルが一つ、待ち構えています。フォトエージェンシーから、写真使用に当たって、日本オリンピック委員会(JOC)に掲載許可を取ってくださいと釘を刺されるのです。そしてJOCに連絡して掲載許可を取るのですが、ここで聞かれるのが、会員誌を発行するクライアントの名前です。これが、オリンピックの公式スポンサー以外の企業の場合は、掲載はまかりならんと、「掲載不許可」を食らってしまいます。
編集の立場から見ると「新聞や雑誌ではオリンピック特集など、ばんばん行っているし、『広告』に使うのではなく、オリンピックの紹介『記事』を作るわけだから、掲載許可をとる必要、そもそもあるのだろうか」と、考えてしまいますが仕方ありません。
ということで、企業の会員誌・広報誌でオリンピック特集というのはなかなかハードルが高いわけですが、昔からそうだったかというと、それは違います。北京オリンピックのころは、こうした縛りは、まだまだゆるく、申請すれば公式マークの使用も可能でした。ロンドン・オリンピックでは、少し厳しくなり、イラストを含めて、オリンピック・マークの取り扱いは要注意だぞ、という雰囲気でした。それが、東京開催が決まってからは、オリンピックそのものが、取扱注意になっています。
衝撃的だったのは、例えば「祝! 東京オリンピック」などの文言でスーパーがセールを行うのも「商業目的」なのでアウトだとJOCが宣言したことです。こうした規制が法的にどこまで有効かという問題は、グレーゾーンが広いようです。また、会員誌の記事は「商業目的」にあたるのかというのも、正直なところ明確な基準はなく、今後の成り行きをウォッチしていく必要があります。
これと同じ構図で、オリンピックほど厳しくはありませんが、取り扱いが要注意となっているのが、サッカー日本代表。こちらも公式スポンサーの関係で写真の掲載許可が出ない場合があります。一方で、ラグビー・ワールドカップは、今のところ規制するよりも認知度を上げることを優先しているためか、掲載許可は取りやすいようです。
プロスポーツの場合は、サッカーならJリーグとプレミア、セリエAなどの海外リーグ、野球なら日本と大リーグでは、取材や写真の掲載許可のルールが違っています。会員誌でスポーツ特集を企画する際には、カスタム出版を長年手がけている企業ならではのノウハウが生きてくると考えています。
日経BP総研 コミュニケーションラボ
藤野 正行