知られざる中国インバウンドの主役
バーリンホウ(八〇後)のニューリッチ消費 第5回

中国駐東京観光局が考える訪中日本人の増加戦略

2018.06.05

マーケティングリサーチ

  • 袁 静

    株式会社行楽ジャパン 代表取締役社長 袁 静

sf_20180605_2_2_mv.jpg
日本から中国へのインバウンドばかりが注目されますが、中国でも日本人の観光誘致に力を入れています。とくにターゲットとしているのが、日本の「八〇後」以降の若い人たち。新しい中国のイメージを広めるため、様々なプロモーションも展開しています。今回は中国駐東京観光局代表処の王偉首席代表に、若い世代の日本人を中国に呼ぶ戦略についてお話を伺いました。
袁 静氏のプロフィールはこちら

中国への観光誘致も「日本の八〇後」が主役

中国国家観光局 駐日本代表処 主席代表 王 偉 氏中国駐東京観光局代表処 首席代表 王 偉 氏

 中国から日本を訪れる人たちは「八〇後」「九〇後」といった若い世代が増えました。中国駐東京観光局としても、日本から中国への若い世代の旅行者を増やすためにプロモーションをかけているのでしょうか。

王 実は先日、新宿で「四川フェス2018」を開催しました。ターゲットは日本の「八〇後」です。日本の1980年代生まれも、家庭を持ち、子供がいま育っている世代。中国だけでなく日本でも「八〇後」が旅行の主役になろうとしています。フェスには訪れた約6.5万人のうち、9割が30代、20代の若い世代でした。

 日本人にとって最も身近な中国文化が食文化ですね。やはり食文化は入り口としてなじみやすいと思います。中国人もみんな日本料理が大好き。観光に来ると、まず日本料理を食べたくなります。その国の料理を食べることは、文化の理解にもつながるんですね。

 日本では麻婆豆腐など四川料理が認知されているので、やはりなじみやすい。とはいえフェスを開く前は、四川料理は辛いというイメージが強いので、来てくれるか、気に入ってもらえるか不安もあったのですが、みなさん喜んで食べていました。食べるというより、楽しんでいましたね。ところで、なぜ日本人がこんなに四川料理を好きなのか、わかりますか。

 日本料理とは真逆の食べ物ですよね。

 私が思うに、これは水と火の文化の違いなんです。日本の文化は陰の文化、陰は水の文化です。水の文化をたっぷり味わう人たちは、体の中にも水がたっぷり。だから体そのものが静かです。そこで何が必要かというと、陽、つまり火の文化なんです。燃えるようなものが必要なんですよ。

 四川料理で有名な麻婆豆腐は、実は水と火が融和した文化です。豆腐はきれいな水がなければ作れないので、水の文化ですね。ただ、豆腐だけでは火が足りないので、唐辛子を入れる。そうすると麻婆豆腐になります。水と火の融和で、体の中で陰陽のバランスがとれるんですね。四川料理はまさにそういうものですから、日本人に好まれるのでしょう。

 中国人はよく陰陽の調和といいますね。ほかに日本の「八〇後」向けのプロモーションはどう考えていますか。

 若い年齢層の日本人は、中国のイメージをつかむのが難しいと思います。中国は広いですし、地方によってまったく違う顔を持っています。何省とか何市とか行政区域名でいわれても、具体的なイメージはなかなか浮かんでこない。そこでプロモーションでは、行政区域ではなく、地理的に5つのテーマに分けました。「東北」「西北」「東南」「西南」そして北京を中心とした「真ん中」です。

“5つの地域”の個性的なプロモーション

王代表(右)と筆者(左)王首席代表(右)と筆者(左)。

 「東北」は大自然というテーマを持っています。観光資源がたっぷりありますが、まだまだ観光客は少ない。料理も、素朴といえば素朴ですが、大自然のものをそのまま食べる。とにかく自然がポイントではないかと思います。「西北」は、西遊記をテーマにしました。

 西遊記は日本人も大好きですね。

 三蔵法師が旅を始めた西安は、空海も訪れた街です。そして西安から先は、シルクロードですね。この地方は中国が提唱する経済圏構想「一帯一路」の「一帯」にあたり、ここで“三流”を回すことがテーマになっています。三流というのは、まず人流。たくさんの人が行き来することです。人の流れをつくるには観光が一番ですね。人流があって、ついてくるのが物流。料理を食べると物流になります。その次にくるのが、金流、お金の動きです。

 西遊記から始まる三流を作っていくということですね。

 次に「東南」は、上海や広州をはじめとする沿岸地域。中国で最初に発展した豊かな地域でもあり、サービスも細かなところまで行き届きます。この地方は女子旅や修学旅行に合うと考えています。グルメも、上海、広東、福建などはもちろん、揚州の淮揚料理は水を十分に使うので日本料理にもよく合うと思います。文化的には癒し系ですね。ちなみに、癒し系という言葉はもともと日本からきたのですが、中国人も「治癒系」という表現で使います。​​​​​​​

 それも「八〇後」「九〇後」がよく使いますね。豊かな時代に生まれた中国人は、がんばらなくても貧しくないので、毎日小さな幸せを感じ、癒されながら生きていければいいという考え方があるのでしょう。

 料理以外では、アリババ本社や、WeChatのテンセント本社を訪れ、オフィスを見学するのも若い人たちはワクワクすると思いますよ。

 アリババ本社が有名な観光地になっているんですよね。最近日本からの見学が多いと聞いています。

 はい。とても人気です。「西南」は三国志の蜀の世界。グルメはなんといっても四川料理ですね。最後は「真ん中」、北京を中心にした地域で、古代文明が栄え、王朝が代わる代わる現れた歴史の舞台で、数多くの世界遺産もあります。以上の5つのテーマで見れば、中国旅行はだいたいつかめると思いますよ。

女子旅と教育旅行にも力を入れる

 具体的に、日本の若い人向けにどのような広告戦略を考えていますか。

 いま計画中の戦略は2通りあります。「教育旅行」と「女子旅」です。まず女子旅は、雑誌広告掲載や、中国の癒し文化をテーマとしたフォーラムを計画しています。

教育は、一つは3歳から18歳の若い人たちを相手に、中国文化を知るというテーマで手書きのハガキを募集しています。日本人の心の中にある中国のイメージを、ハガキに絵で描いてもらう。これは中国人が思う日本のイメージも同時に募集しています。もう一つはスポーツ交流ですね。中国各地で開かれるマラソンへの参加を呼びかけています。

 中国ではいま村走(村ランニング)が若い人たちに流行っていますね。ランニングを目的に、田舎を訪れる旅です。日本でもランニングはすっかり定着していますから人気が出そうですね。

 期待しています。そのほか、大学生の卒業旅行も重要なテーマです。日本の若い世代にたくさん訪中してもらうため、これからも中国文化の紹介に力を入れていきます。​​​​​​​

 

連載:知られざる中国インバウンドの主役

バーリンホウ(八〇後)のニューリッチ消費

株式会社行楽ジャパン代表取締役社長。『行楽』発行人。
袁 静(えん・せい)

北京第二外国語大学、早稲田大学大学院修了後、日経BP社に勤務し、日本で10年を過ごす。中国に帰国後、北海道の魅力を多くの中国人に知ってもらおうと、2009年に『道中人』を創刊。2011年、北海道観光への貢献が認められ「VISIT北海道観光大使 」に任命。2011年、九州をテーマに『南国風』を創刊。2013年『道中人』と『南国風』を合併し、中国初の和風モダンをキーワードにするトラベルライフスタイル誌『行楽』を創刊。2013年11月に鹿児島県観光への貢献が認められ、「薩摩大使」に任命。北海道知事、鹿児島県知事、佐賀県知事など各都道府県知事をインタービューするなど、中国での日本の観光PRにて活躍し、日本との関係は深い。近書に『日本人は知らない中国セレブ消費』(日本経済新聞出版社刊)。

※肩書きは記事公開時点のものです。