研究員ブログ
だからヒットは生まれない~地方発の商品開発が陥る作り手目線の罠
日経BP総研マーケティング戦略ラボの仕事の1つに、地方創生・地域活性化の支援コンサルティングがあります。そのなかで、実際に地方発の商品開発に携わるケースが最近増えています。下の写真は、現在(2018年4月)、東京のコンビニチェーンであるナチュラルローソンで売られている「美活の出雲ハーブクッキー」です。島根県出雲地方で古くから薬草として知られるアカメガシワやハトムギなどを練り込んで、美容健康意識の高い都市部の働く女性に向けた商品になっています。2016年9月から発売した「食べるお守り」シリーズの第二弾です。実はこの商品開発は出雲商工会議所が中心になって進めた地域資源活用全国展開プロジェクトの成果が基になっています。このプロジェクトにアドバイザーというかたちで筆者も開発にかかわりました。
ターゲットは都市部の働く女性、利用シーンは残常時にオフィスの机でちょっとつまめること。販売チャネルも当初からナチュラルローソンを想定して商品企画を進めました。この開発プロジェクトが面白かったのは、20~30代を中心とした女性だけの開発チーム「いずも薬草女子部」を編成して、商品コンセプトやデザインなどを作り上げていったところです。そこに、東京の市場を良く知る料理教室の指導者が参画してものづくり面でかたちにするというプロセスでした。さらに、東京で実際にターゲットとなる女性に対するグループインタビューなども実施して、商品価値をどのように設定するかの議論を重ねました。
その結果、試作した商品はほぼそのままのかたちで商品化され、ナチュラルローソンで発売されることになりました。
このように、商品開発の最初からターゲティングや、販売チャネルの設定、デザインコンセプトの明確化などをきちんと押さえることが、ヒット商品を生むためには必須だと筆者は考えます。ところが特に地方発の商品開発にはそうなっていない場合が多いのです。
むしろ地方発ゆえに消費者目線ではなく「作り手目線」になりがちだという傾向があります。
ナチュラルローソンで販売されている「美活の出雲 ハーブクッキー」。美容健康意識の高い都市部の働く女性がターゲット。残業時にちょっとつまめるクッキーというコンセプト。
2016年9月に発売された「食べるお守り」シリーズ第一弾。米粉のクッキーと大豆と米粉のシリアルバー。
消費者目線で、「自分ゴトとして」ものづくりをするために「いずも薬草女子部」が活躍した。
作り手目線を脱却しないと「6次化」は失敗する
地方活性化の実現手段の1つとして、農作物や水産物、木工や紙など地域の風土や伝統に根ざした資源を基に、大消費地である都市部の市場で売れる商品を作ろうという商品開発が全国各地で行われています。農産物や水産物をベースにした食品では、原料の収穫時期の偏りや都市部への運搬の問題から、日持ちがするように保存食品にしたり調味料などに加工したりという方法が多く取り入れられています。こうした手法は、一次産業の生産物を、二次産業により加工し、三次産業である流通・サービスに乗せていくという流れから、「1×2×3」で6次産業であるという呼ばれ方をします。
コンセプトとしてはもっともなのですが、実際に地方に足を運んでみると、6次化の掛け声のもとに開発した商品の成功事例が驚くほど少ないのに気が付きます。作ってはみたものの、売れずに消えて言った商品は数知れずあります。
どうしてこんなことになるのかと言えば、理由ははっきりしています。それは「作り手」が作りたいものをただ作っただけで、最終的な消費者やそれを顧客として抱える流通・小売事業者のニーズや都合をまったく無視して作ったケースが多いためです。
消費者ニーズが多様化し、ハイレベルの商品がしのぎを削る都市部の市場で勝負するためのいまどきの商品開発は「作り手目線」だけでは成功確率はきわめて低いのです。
地方発で都市部の市場で売れる商品を作るという目的に注目した事例とノウハウ集。「地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり」(日経BP社)
地方発の商品開発はそもそも「作り手目線」に陥りやすい構造的な問題があります。
(1)商品開発が「活用したい地域資源がある」から始まっていること
(2)作り手が都市部の消費者の暮らしぶりやニーズに対する実感がなく企画自体がピントはずれ
(3)地方と都市部の所得格差や消費性向が分からず、商品の価格設定が間違っている
(4)ものづくりをサポートする補助金や助成金の制度が使途のカバー範囲が狭く、商品企画からものづくり、販売プロモーションまでを一貫して開発できないケースが多い
(5)商品の価値を伝え価格設定にも大きく影響する、パッケージデザインなどに重きを置いたものづくりの経験が少なく、実現できる人材にも乏しい
また、ものづくりの部分だけではなく、ターゲットとする消費者が好む販売チャネルなどに対する知識や実感に乏しいといった問題もあります。
モノや情報がいくらでも手に入る環境に慣れた消費者に向けて、ヒットする商品を開発して提供することがますます難しくなっています。ものづくりをする人にとっては受難の時代だとも言えます。それゆえ誰がどんなシーンでどのように商品やサービスとかかわるかを精緻に想定して商品の価値設計、ものづくり、さらに情報発信をやらないとヒット商品は生まれにくくなっています。
商品開発やものづくりを消費者の求めるものや利用シーンをスタート地点に進めていく「逆算発想のものづくり」が求められていると感じています。
日経BP総研 マーケティング戦略ラボ 上席研究員
渡辺 和博