研究員ブログ

遅れが目立つ“スポーツまちづくり”に国がテコ入れ

2017.10.05

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    日経BP総研 社会インフラ研究所 高津 尚悟

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地方創生に取り組む自治体関係の皆様はすでにご存じのことと思いますが、2017年7月、地方創生推進交付金に新たな仕組みが加わりました。フラグシップモデル事業と位置付けられるもので、通常の推進交付金の決定額に最大で国費2000万円が上乗せ交付されます。地方創生の取り組みの中で、当初期待していたほどには成長していない分野についてテコ入れを行うもので、国は「従来からの『しがらみ』『現状維持志向』等のボトルネックの解消につながる試行的な取組を重点的に支援する」としています。

フラグシップモデル事業の対象になるのは、①先導的地域商社、②スポーツまちづくり、③プロフェッショナル人材、④組織づくりプロデューサーの4事業分野です。いずれも「地域間・部門間の連携を深めて規模の経済性を高めることで特に大きな政策効果が見込まれる」分野と位置付けています。ボトルネックの解消につながる試行的な取り組みを詳細に検証し、その検証結果を他地域への参考資料として活用することを目的としているため、外部有識者などによる報告書の作成などが併せて求められています。

「推進交付金」以降の予算消化率は半分以下

国が進めてきた地方創生に関する交付金は、平成26年補正予算で措置した「地方創生先行型交付金」を皮切りに、「加速化交付金」「推進交付金」「拠点整備交付金」と展開されてきました。国は毎年度1000億円を超える規模で予算を確保しています(図1)。

図1 地方創生関係交付金の概要(イメージ)(資料:内閣府
地方創生関係交付金の概要(イメージ)

ただし、「加速化交付金」までは100%国費で賄われていたのですが、「推進交付金」以降は50%が国費で、残りの50%は自治体が負担する形に変更されました(国の予算額1000億円に対して事業費ベースが2000億円になっているのはこのためです)。こうした負担額の変更に伴い、全国のほぼすべての自治体が活用し、予算をほぼ使い切った「先行型交付金」や「加速化交付金」とは様相が異なり、「推進交付金」以降の予算消化率は落ちています(図2)。平成29年度の第1回推進交付金の交付予定額は約135億円に留まり、28年度からの継続事業への交付金を合わせても約390億円で、予算の半分にも達していません。

図2 地方創生推進交付金の申請状況(資料:内閣府のデータをもとに筆者が加工)
地方創生推進交付金の申請状況

こうした状況について自治体からは、「推進交付金は使いづらい」「自治体負担分の地方創生関連予算が確保できない」「民間企業を巻き込んだ事業展開が図りにくい」といった不満が寄せられています。

民間企業との積極連携がフラグシップモデル事業の採択要件

今回のフラグシップモデル事業は、こうした自治体の不満を解消する狙いもあります。最大2000万円の上乗せ交付金部分はすべて国費負担です。また、民間企業との連携を積極的に進めることが採択の要件にもなっています。例えば、スポーツまちづくりにおける先導的スポーツまちづくり事業計画の策定では必須記載項目として、下記が挙げられています(図3)。

図3 地方創生推進交付金(平成29年度)におけるフラッグシップモデル事業の対象事業及び支援内容(資料:内閣府)
地方創生推進交付金(平成29年度)におけるフラッグシップモデル事業の対象事業及び支援内容
  • まちづくりを実施する対象地域内の民間企業(連携企業)
  • 連携企業と合同で行うスポーツを核としたまちづくり事業の概要
  • エリア内の複数業態の連携による実験的な事業の概要
  • 当該事業のKPIにおいて、少なくとも3年以内に1億円以上の売上増を設定すること

ちなみに先導的地域商社事業での必須記載項目は、

  • 対象地域商社と連携する対象地域内の民間企業(連携企業)
  • 地域の産品等の販路拡大に向け、連携企業と合同で行う事業の概要
  • 複数地域の事業主体の連携による実験的な事業の概要
  • 事業のKPI(3年以内に億単位の売上増)

となっており、ここでも民間企業との連携を積極的に進めることが採択の要件にもなっています。

先導的地域商社事業

  • 複数の地域商社が既存ブランドの「現状維持志向」の打破を目的として連携し、複数のブランドによる共同ブランドの構築や物流インフラの共同整備を実施することにより、商品開発機能や物流機能を改善し、海外市場展開を目指する取組。
  • 地域商社が地域内の民間事業者と連携して共同ブランド化やビジネスモデルの共有を通じて規模の経済の確保を通じ、商品開発・物流機能の改善と成長性の向上を目指すとともに、観光など他分野の事業との連携を図ることで、地域産業の活性化を総合的にプロデュースする取組。

スポーツまちづくり事業

  • 国際試合やチーム合宿の誘致などのスポーツに関する事業を求心力として、地域産業間の「しがらみ」を打破し、商業、宿泊業、飲食業及び医業(スポーツ医療)などの多様な産業の振興を、特定エリアにおいて一体的に行い、総合的なまちづくりを推進するような取組。

プロフェッショナル人材事業

  • 兼業、産休・介護との両立といった都市部の企業で働く労働者のニーズと地方部の企業の人材ニーズをマッチングするプロフェッショナル人材戦略拠点を通じた人材の活用により、地域企業の生産性の向上と地域の働き方改革を支援する取組。

組織づくりプロデューサー事業

  • 様々な地方創生事業の事業実施主体となるべき組織の組織づくりを支援するプロデューサーを招聘し、その活動実費を支援する組織作りプロデューサー事業(本体事業部分)を効果的に進めるために行う取組。
  • 地域内の人材登用にこだわるといった「現状維持志向」を打破し、実際の組織づくりに必要な法律・会計等の専門家、金融関係者及びマーケテイングの専門家などの効果的な活用や、必要な支援を行う全国事務局事業との連携など、より高い自立性を持った実現力の高い組織作りが実現できるよう、プロデューサー事業を支援する取組。

プロフェッショナル人材事業の事業イメージについては、前回までこのブログで発信してきた「働き方改革」に関連したものです。地方創生と働き方改革を結びつけて事業計画を立案すれば、地方創生推進交付金のフラグシップモデル事業として採択される可能性があるということです。「働き方改革」に関連した事業を検討されておられる皆様は、ぜひ日経BP総研にご相談ください。

社会課題の克服に向け“スポーツまちづくり”をレガシーに

さて、最後に筆者からのお願いを差し上げます。日経BP総研では現在、今回のフラグシップモデル事業にもある「スポーツまちづくり事業」の支援を実施しています。地域活性学会スポーツ振興部会や地域社会活性化支援機構と連携して、内閣府が推進する東京オリパラに向けた「ホストタウン」を中心とした“スポーツを核としたまちづくり”を進める自治体や団体、民間企業の困りごとや悩みごとをお聞きする取り組みを始めています。ホストタウンに名乗りを上げたものの、具体的にどのような取り組みを実施していけば良いのか分からず、途方に暮れている自治体が少なくない、という話を聞くからです。

2019年のラグビーW杯、2020年の東京オリパラ、2021年の関西ワールドマスターズゲームズと続くこの3年間を、国ではスポーツ・ゴールデンイヤーズと位置付けています。こうしたメガスポーツイベントの開催地、参加国のホスト役を務めるホストタウン、キャンプ地などでの事前準備は、既に待ったなしの状況を迎えています。スポーツによるまちづくりを通じていかに持続性のあるレガシーを構築し、ゴールデンイヤーズ後につながる地域活性化を実現していくか。人口減少、超高齢社会、医療費の高騰といった社会課題に対し「ヘルスケアやスポーツによる“まちづくり”」という新たな都市再生・地域創生の手法が注目を集めている今だからこそ、千載一遇のチャンスなのです。

自治体担当者や民間企業に対してアイデアを提案すると同時に、地方活性化に一役買いたい企業の担当者との交流を促進し、実践につながる人脈づくりと事業化に寄与したいと考えています。お気軽にご相談いただければ幸いです。

日経BP総研 社会インフラ研究所
高津 尚悟