・ABMの実践に進む前に、自社の顧客のどの範囲に効果があるのか、を考える
・ゴールの策定には、他部門を巻き込む
ABMの概念は分かった。では次に何をするか?
一年前は、日本のマーケティング業界、中でもB2Bに軸足を置いてマーケティングに携わる方々にABMという概念を広く周知する段階でした。著名なマーケターの方も数多くABMについて解説されていて、その概念は理解できたという方も少なくないでしょう。そして、そろそろ実践を、と考えられている方もいらっしゃるかもしれません。では、いざ実践、となったときにどのような準備を進めていけばよいのでしょうか。
我が社にABMは本当にふさわしいのか?
コンテンツマーケティングしかり、ABMしかり、耳新しい概念が提唱されるとそれは自社のマーケティングの悩みをすべて解決してくれる魔法の手法のように思われがちです。しかし、実際はそうではないことを、ここにいらっしゃる多くの読者の方はご存じでしょう。
ABMの実践に着手する前には、自社のビジネスモデルと照らし合わせて、本当に自社にABMがふさわしいのか?を精査する必要があります。米国でITSMAが提唱した3階層(下図)を参考に、自社でABMの指名顧客となりそうな顧客はいるのか?を洗い出してみましょう。もしかしたら「自社には特に大口顧客が居ない=ターゲットとすべきアカウントが居ない」という結果になるかもしれません。その場合、ABMを実践に移してもさほど効果が上がらない、もしくは全部の顧客をターゲットアカウントとして扱わなければならなくなり、膨大な業務に忙殺されてしまう可能性があります。
実際に米国の調査会社Forrester Researchが実施した調査において、ABMはリード顧客の醸成や既存顧客の満足度向上には効果があるものの、ブランドの認知や周知に効果があると答えた人はわずか4%に留まりました。
(「Retro Yet Revolutionary: Demystifying Account-Based Marketing」By Laura Ramos with Peter O'Neill, Allison Snow, Lori Wizdo, Steven Casey, Matthew amuso, Rachel Birrell 2016.9.9 ©Forrester Research, Inc.
https://www.forrester.com/report/Retro+Yet+Revolutionary+Demystifying+AccountBased+Marketing/-/E-RES133482)
このように、顧客の規模、ステータス(リードなのか、既存顧客なのか、リード未満なのか)、マーケティング活動で何を獲得したいのか(リード醸成なのか、認知度向上なのか)、によってABMは最適解とならないことがあり得ます。ただ流行を追うだけではなく、流行に踊らされない自社のマーケティングの芯を見つめなおすことが、実践段階では重要になってくるでしょう。
いざ実践、何から手を付ければいいの?
2016年も後半に入ると米国では「ABM」を謳うツールが発表されるようになりました。大手MAツールベンダーの中でいち早くこの名前を製品につけたMarketo Account-Based Marketing(以降、「Marketo ABM」)Marketo Marketing Cloudは、営業部とマーケティング部が密接に連携して重要顧客にターゲットを絞り、関係を構築し、測定を可能にするソリューションです。
マーケティングオートメーション「Marketo」に搭載されている「Marketo ABM」は、自社にとって優良な見込み顧客を特定し、管理、関係構築、分析するために必要なツールを、マーケティング部門だけでなく、営業部門など関連するアカウントチームに提供します。優良な見込み顧客からの収益を伸ばし、営業やマーケティングROIを向上させていくだけでなく、マーケティング部門と営業部門部など連携したアカウントチームが同じ「Marketo ABM」に基づいて作業することで、生産性の向上にもつながると考えられます。また、昨年12月に、マルケトは、Marketo ABMで営業とマーケティングを密接に連携させるために支援してきたお客様の数が、グローバルで50社を超えたことを発表しました。(参照:https://jp.marketo.com/press/20161222-127.html)
※マルケト米国本社発表より一部転載しております。なお、株式会社マルケト大槻氏によると、国内でのABMの本格展開は、今春頃に発表予定としています。
他にも米国では、MarketoやSalesForceと連携し、コンタクトポイントの「穴」を見つけることができるEngagio社のツールなど、ABMを意識したツールが出てきています。
- ①…コンタクトポイントをアカウントごとにまとめて表示
- ②…コンタクトポイントごとのアクションを定義
- ③…社内の誰がどのようなアクションを起こしたのかを連携
では、ツールを導入すればそれでABMは完成なのでしょうか。
ツールに手を出す前にやっておきたいこと
「ツール導入=ABM完成」でないことは、みなさんもうお分かりでしょう。Webサイトを開設すれば、デジタルマーケティングが完成というわけではないのと同じです。では、ABMを本当に実践的な活動にするためには何が必要なのでしょうか?
米国のマーケティング調査会社であるForrester Researchは最新のABMツールベンダーランドスケープレポートの中で「マーケティングテクノロジーありき、で考えるとABMはゴールから遠ざかる」「まずは計測可能なビジネスゴールを設定するところから始める」という提言をしています。
この、ビジネスゴールを設定する際の重要な作業のひとつに、マーケティング部門だけではなく、営業部門、時には経営トップも巻き込んで、自社にはABMが効果的なのである、わが社はABMを使ったマーケティング活動に力を入れるのである、という共通認識をとっておくことが挙げられます。このプロセスを省いてしまうと、「またマーケティングが何かはじめたな」という意識に留まり、必要なサポートを得られなくなってしまう危険性があるからです。
ABMを円滑に進めていくために、特に営業部門との密接な連携が必要不可欠、というのは今年の前半にABMの概念をご紹介した際にもポイントとなっていました。ツールの波におぼれる前に、ABMが自社のどの部門、どの顧客に有効なのかを明らかにし、社内の足場固めをしていきましょう。
(コンテンツコミュニケーション・ラボ)