突然聞かれると「えっ? 何年だったかな」と答えに窮する方もいるかもしれません。しかし企業ブランドの担当者は、今年は何周年にあたるのかを、常に意識しておくべきです。「周年」は、企業とってブランディングのチャンスだからです。
周年を機に、企業が社史・周年史を制作することは、さほど珍しいことではありません。最近では周年記念サイトやWebコンテンツを発信している企業もよく目にします。Webサイトは、多くの企業にとって既存顧客との強い結びつきを持てる貴重な接点であり、ブランディングに有効な媒体だからです。
そこで今回は、企業・製品ブランドの向上に効く、周年記念サイトの事例を調べてみたいと思います。
周年が企業・製品ブランディングにチャンスなワケ
企業にとって周年とは、社内外から注目を集めやすいタイミングであり、従業員や取引先、ファンといったステークホルダーに対するアピールのチャンスと捉えられます。「周年」「記念」という明確な旗印があるため、何を発信するにしてもステークホルダーに受け入れられやすく、社内の承認も得やすい状況といえます。
企画においても、周年記念がテーマですから、会社・製品の歴史や創業秘話や苦労談、経営理念など、会社・製品の全体がコンテンツのネタの対象となり、企画を考えるヒントには事欠かない状態となります。
周年がブランディングのチャンスとわかったところで、前編では、外向けのブランドアップに有効な3つの事例をご紹介します。外部の目にとまりやすく、閲覧してもらいやすい、企業・製品の魅力に溢れた周年記念サイトの好例です。
これらのサイトは、業種もデザインも様々ですが、共通しているのは、読んでいるうちに自然に企業・製品への理解が深まり、興味や親しみが生まれてしまうサイトということです。
ターゲットを取引先やファンに絞り、企業・製品へのロイヤルティを育むサイト
〈サイト例1〉ロードスター25周年 Mazda
歴代モデル総覧と作り手のインタビューでロードスターのブランドイメージを伝達。製品ブランディングに効くサイト
http://www2.mazda.com/ja/stories/history/roadster/roadster_25th/
「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」としてギネス認定され、根強いファンがいると言われる、マツダのロードスターの25周年サイト。「HISTORY」では、1989年発売の初代から、現4代目までのモデルや、数々の特別仕様車と限定車などすべての車両写真が年号とともに見られ、2人乗り小型スポーツカーとしての一貫したデザインポリシーを表現しています。「ロードスターの達人」では、シート開発者の座り心地へのこだわり、エンジンサウンド開発者のエンジン音への愛、デザイナーによるファンを魅了するデザインへの情熱など、作り手の熱い思いを伝えるインタビュー記事を数多く掲載しています。クルマと人の一体感、運転することの楽しさを追求するというロードスターのメッセージを、その世界観を表現したサイトに込めて、ファンに伝えていると言えるでしょう。
〈サイト例2〉Yamaha Guitars 50th Anniversary NEVER STANDING STILL
海外アーティストの演奏&愛溢れるメッセージビデオが秀逸。ヤマハギターファンの心をつかむ、製品ブランディングに効くサイト
http://jp.yamaha.com/products/musical-instruments/guitars-basses/50th/
ヤマハギターの誕生50周年サイトです。「アーティストボイス」では、海外アーティスト14名から、熱のこもった演奏とともにヤマハギターへの愛を語った、周年祝いのビデオメッセージが寄せられています。影響力ある第三者からの評判を、一般のファンのロイヤルティ向上に生かしたコンテンツとなっていると言えるでしょう。また、「ミュージアム」では1966年発売のものから現在に至るまで、すべてのアコースティックギター、エレキギター、エレキベースをピックアップしています。ファンならこだわるポイントを、実に簡潔にまとめたテキストと美麗な写真で収録した内容です。同サイトは、ヤマハギターは人々に感動を与え続けてきたという製品ブランドを体現しています。
〈サイト例3〉トヨタ自動車 75年史 もっといいクルマをつくろうよ
博物館にも負けない情報量と検索性、WebならではのUXでクルマの系譜を完全網羅。トヨタファンをとりこにする企業ブランディングに効くサイト
http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/
圧巻なのは「車両系統図」です。Webサイトならでは、デジタルの機能を知り尽くした作りと言えます。膨大な数に及ぶトヨタ歴代のクルマすべてを、アニメーション効果をちりばめた動的な系譜図で一覧でき、キーワード入力などで検索もできるコンテンツだからです。実際の博物館で展示するとなれば、莫大な経費を要するところを、バーチャル、Webサイトならではの表現方法で実現した「図鑑」仕立ての好事例です。トヨタは常によりよいクルマづくりをめざし、日本のクルマの歴史を牽引してきた企業であることを、強く印象付けています。75年の歴史を、相当量の文章と資料、数字で読み解くことも可能。トヨタファンならずとも、クルマづくりへの熱意に引き込まれ、時間を忘れて読みふけってしまう充実ぶりです。
どのサイトも、企業の創業、もしくは製品の誕生から周年までの歴史を収録することはもちろんなのですが、単なる歴史紹介にとどまらず、お客様やファンに向かって、その会社・製品ならではのブランドイメージを伝えるメッセージが、コンテンツに練り込まれていることを、感じていただけたと思います。
インナーブランディングに効果的な周年記念サイト
次はインナーブランディングを目的としたと見られる周年記念サイトを分析します。従業員や、卒業生に向けてなど、企業・学校法人の魅力を伝え、閲覧しているうちに興味・関心が生まれてくる個性派のサイトを選びました。
従業員など内部のロイヤルティ向上を行う周年記念サイト
〈サイト例4〉YOKOGAWA 100周年記念サイト Tomorrow’s in sight. 見守る力で未来をつくる。
社内アンケート結果や歴史、取引先の声で、従業員の理解を深めるサイト
http://www.yokogawa.co.jp/100th/
横河電機グループの創立100周年記念サイトは、主に従業員が自社への理解を深めるためと考えられるコンテンツで構成されています。 メニューにある「PEOPLE」は、海外拠点を含む社内アンケート結果に基づいて、従業員のイメージを「協調性が高い12%」、「愛想がいい10%」などバブルチャートで示したり、「お客様のためにいつも心がけていることは?」等の問答をグラフィカルに表現し、自社の個性や社風を認識させています。次に「HISTORY」は100年の沿革を、要点を絞って滑らかなスクロールでまとめており、自社の歴史を視覚面からも理解しやすいように工夫されています。加えて「CUSTOMER VOICES」では取引先からの信頼や期待が語られており、自社の価値を第三者評価を通して知ることができます。 全編を通し、従業員に向けて、同社は高い信頼性や誠実さによって、取引先と長期的なパートナーシップを育んでいることを伝え、社員のロイヤルティを高めていると言えそうです。
〈サイト例5〉PASONA 40th ANNIVERSARY ~感謝を込めて~
働くことが人にもたらす幸せを表現。人材登録者に対してインナーブランディングを行うサイト
https://www.pasona.co.jp/40th/
人材派遣業のパソナグループの創業40周年記念サイトです。周年キャンペーンの「集まれ!パソナ☆キラリビト」は、人材登録者の中から公募を経て選出された、「夢や志をもって情熱的に活動している人」40名を紹介。社会貢献や地方創生、起業・経営、音楽、芸術などで活躍する方々から、働くことを通じて得た生きがいや幸せが語られています。このコンテンツは当事者の声を通して、人材派遣や転職支援の登録者に向けて、パソナは競争の激しい業界にあっても「人を活かすことで人々の心豊かな生活を創造する」という理念を追い求め実行していることを伝えることで、同社へのロイヤルティを高めていると言えるでしょう。
さて、ここまではコンサルタントとして、第三者の目で周年記念サイトを分析してきました。最後に、当社が制作に取り組んだ事例を紹介しましょう。
〈サイト例6〉成城学園創立100周年サイト 自分に生まれたことを、誇れる人へ
著名な出身者100人のインタビュー記事で、ロイヤルティを醸成。卒業生や在校生に向けたブランディングを行うサイト
http://www.seijo100th.info/
ご縁があり、2017年に100周年となる成城学園の特設サイトを制作させていただきました。教育改革や施設整備の拡充など様々なコンテンツがありますが、ここで紹介するのはメーンコンテンツの「卒業生100人メッセージ」です。成城学園を卒業した、世界的な指揮者、著名な作家といった文化人や、俳優、タレントなどの芸能人、大手企業の社長など、多才な顔ぶれをインタビューし、在学時代の思い出を語っていただいています。これは、メーンターゲットの卒業生をはじめ、在校生、同学の教職員に向けて「成城学園は“個性の尊重”という方針の下、数多くの優れた人材を世に排出していること」を伝え、愛校心(ロイヤルティ)を醸成するコンテンツとなっています(2017年5月の創立記念日に向けて100人が揃う予定)。弊社からの提案をもとに、学園の皆様と構想を練り上げ、企画実施した事例です。
どのサイトも個性的でありつつ、周年記念サイトを記念碑にとどまらせず、誰に対して、何を、どのように伝えるのかを、考え抜いて作られていることが、お分かりいただけると思います。
顧客やファン、取引先などアウターのターゲット、はたまた自らの従業員、職員といったインナーのターゲットにも向けて、企業・団体や製品のブランドをしっかりと伝える周年記念サイトを見てきました。
実際に周年の機会が訪れ、周年記念サイトを制作するとなった際は、このようにまずターゲットを明確にし、伝えたい内容や機能をはっきりさせてから、どのようなコンテンツとして実現させるのか、Webサイトとして具現化させるノウハウが必要となります。
加えて言うなら、当社としてお勧めしたいのは、単なる歴史の記録に終わるのではなく、読むことで企業の未来が見え(※)、企業・製品のブランドアップとなるような周年記念サイトです。もしも、周年記念サイトによる企業・製品ブランディングに関心をお持ちでしたら、ぜひお気軽にご相談を。当社がお手伝いをさせていただきます。
〈コラム〉周年、数え方のキホン
ちなみに「周年」の数え方のうんちくを一つ。周年には数え方がいくつかありますが、基本は以下です。
周年の基準は「何を記念するのか」で決まります。一般的なのが、創業者が事業を始めた「創業年」、組織を立ち上げた「創立年」、そして会社を法人として登記した「設立年」の3つで、これらが基本となります(創業と創立は同じ意味で捉える場合もあるようです)。「製品・ブランド誕生年」、「創業者生誕年」、「業界参入年」、「株式上場年」などもあります。
周年を定める上で大切なことは、単純に「記念事業だから実施する」という考え方ではなく、「ブランディングプロジェクトとして実施する」と一度見方を変えてみることです。最近は、10年刻み、25年刻みなど切りのいい年数にこだわらず、出すべきと判断したタイミングで実施する企業もあるようですが、このように見方を変えると、自社にとってふさわしい周年事業とは、一体何をブランディングするものなのか、本当に必要な周年事業とは何なのかが浮かんでくると思います。
SDGsデザインセンター コンサルタント
清水 秀起(しみず・ひでき)
大学時代に某教授のゼミでジェンダー論、フェミニズムを学ぶ。卒業後は出版社の月刊誌編集、IT企業のWebサイト編集・運営等を経て、弊社で企業のブランディング、マーケティング支援に従事。既成の社会観念や価値観に捉われない視点で、企業の本業とSDGs、ESG課題を分析し、貴社の持続可能な成長戦略と価値創造に寄与します。
※肩書きは記事公開時点のものです。