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上場企業はIT経営のIRを強化する好機 ――「攻めのIT経営銘柄」が大幅増、情報ニーズも大――

経産省が主導する「攻めのIT経営銘柄」に関連して選定される企業が、3年目となる2017年5月に大幅に増加し、注目の高まりが予想される。当社調査モニターに対する大規模調査では、企業のIR(投資家向け広報)サイトでの情報ニーズとして、IT経営への取り組みは、環境やCSR(企業の社会的責任)、コーポレートガバナンスより強い。上場企業は、これまで手つかずであったIT経営のIR(IT-IR)を強化する絶好のチャンスを迎えている。

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 企業のIT経営(ITを積極的に利活用した経営)とその情報発信を促進する取り組みが、2017年5月以降、活発となりそうだ。経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「攻めのIT経営銘柄」が2017年5月下旬(予定)に3回目の発表を迎え、選定企業が大幅に増加する一方、当社の大規模調査によって、IT経営のIR(IT-IR)への期待が強いことが明らかになったためだ。

 2016年6月28日付けで、「企業はIT経営に関する情報発信メディアをもとう ―経産省が主導する「攻めのIT経営銘柄」が起爆剤に―」の記事を当サイトに掲出した時点と比べ、IT-IRは次の段階へと進み、投資家や企業人からの注目はより高まる。上場企業がIT-IRを強化する絶好のチャンスが、2017年5月下旬にスタートする。

 これに先立ち、2017年1月23日に東京証券取引所で、上場企業の経営企画/IR/IT部門など約130名を集めて、「攻めのIT経営銘柄2017」の選定方法に関する説明会が開催された。経済産業省商務情報政策局情報処理振興課長の滝澤豪氏は、政策の意図や変更点のポイントを説明。「攻めのIT経営」委員会委員長を務める伊藤邦雄氏(一橋大学大学院商学研究科特任教授)は、日本企業が「攻めのIT経営」に取り組む意義を力説。一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)で、応募企業が回答するアンケート調査の事務局を務める佐藤亘氏は、応募企業が2017年2月10日までに回答すべきアンケート調査の詳細について説明した。

IT経営銘柄の応募企業のすそ野を拡大、IT-IRの盛り上がりを企図

 「攻めのIT経営銘柄2017」の前年までと比べた主な変更点は、7つに大別できる(図1)。評価(審査)局面で2つ、公表局面で1つ、その両者にまたがるものが3つ、そしてフィードバック局面で1つである。いずれも、企業の「攻めのIT経営」の推進を目指し、応募企業の増加、銘柄や政策の認知度向上につながるものだ。経産省の滝澤氏は「『なぜ応募しないのか』という声が社内から上がるようにしたい」と話す。

図1 「攻めのIT経営銘柄2017」の前年までと異なる特徴

No 局面 概要 具体的な内容
1 評価(審査) 政府の政策との連動を強化し、「最新のデジタル技術」の活用を重視 政府の「日本再興戦略2016 -第4次産業革命に向けて-」(2016年6月発表)における「第4次産業革命」を実現する技術として、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータ、ロボット、プロックェーン等の技術を、応募企業向けアンケート調査の中で「最新のデジタル技術」と位置付け、これらの新たな技術を活用し、新たなビジネスや価値を創出するIT活用を、より重点的に評価。
2 審査基準を緩和し、銘柄選定企業のすそ野を拡大 銘柄に選定するための「ROE(自己資本利益率)のスクリーニング要件(3年平均)」を、前年までの「業種区分ごとの業種平均以上、または8%以上」から、「マイナスでないこと」に緩和するとともに、ROEが高い企業を加点方針により評価。
3 評価(審査)、公表 銘柄に準ずる企業を選定・公表し、公表される企業のすそ野を拡大 将来的な成長を期待する観点から、総合評価点の上位10%程度に入る企業を、業種ごとに選定(各業種1~2社)。銘柄選定企業(33業種から1、2社程度。2016年6月発表時は26社)と併せて、公表企業数は2倍程度に拡大。
4 先進企業を「注目企業」として選定 「攻めのIT経営」を推進上、重要なテーマについて、先進的な取り組みを実施している企業を選定し、その取り組みを紹介。重要なテーマとして、応募企業向けアンケートでは、IT-IR(ITに関する情報開示)、ITに関するR&Dの取り組み、ITに関する人材育成、提案制度や社内ベンチャー、ダイバーシティ推進、ITを活用した社会貢献活動、オープンイノベーションの推進を例示。
5 新興市場から「注目企業」を選定 JASDAQとマザーズについて、総合評価点の高い企業数社を、上位企業として選定
6 公表 回答企業名は原則として公表 「攻めのIT経営」に積極的な企業を広く公表することが望ましいと考え、アンケート調査に回答した応募企業名は原則として公表(非公表という希望があれば非公開とする)。
7 フィードバック 回答企業全社に対して、評価結果のフィードバックを実施 フィードバックは、前回まで、希望企業に対して実施していたが、今回から全社に対して実施。応募企業の社内で、フィードバックレポートが流通し、IT部門/IR部門/経営者などの関係者で、「攻めのIT経営銘柄」に関する情報が話題となる効果が期待される。

経産省が主導する「攻めのIT経営銘柄」は、2017年5月下旬発表予定分から、変更点がある。その特徴を、評価(審査)、公表、フィードバックの局面に分類し、整理した。これらの変更はいずれも、企業の「攻めのIT経営」の推進を目指し、応募企業の増加、銘柄や政策の認知度向上につながるものだ。

 「攻めのIT経営銘柄2017」の評価(審査)局面での変更点として、1)最新のデジタル技術の活用を重視、2)審査基準を緩和し、銘柄選定企業のすそ野を拡大、という2点がある。2)については、前年までの基準では、3年間の平均のROE(自己資本利益率)が低い企業は、IT経営に注力していたとしても銘柄に選定されなかった。これでは、過去3年のROEが低い企業がIT経営に注力する意欲をそいでしまう。そこで、ROEは「マイナスでない」ならば、銘柄に選定される可能性を残し、ROEが高い企業に加点する採点に変更した。

 これまで、「選定された銘柄の株価パフォーマンスは日経平均より高い傾向がある」と、「攻めのIT経営」委員会は説明してきたが、ROEが低い企業にすそ野を拡大すると、この傾向が不明確になる恐れはある。「ROE基準が厳しいまま、銘柄選定企業が固定化し、良好な株価パフォーマンスを維持しつつも、政策が浸透しないこと」より、ROE基準を緩和することの利点を、経産省は重視したとも言える。

 ディスクロージャー/IR支援サービス大手のプロネクサス社の調べによると、前年までの基準の「ROEが8%以上」の企業数は1400社、緩和後の「ROEがマイナスでない」の企業数は3004社。基準緩和後は、銘柄に選定される可能性のある企業は、全3419社の88%と大半を占める。これは、2015年11月1日~2016年10月31日の1年間に提出された企業(この間に新規上場、企業統合をした企業を除く)3419社の有価証券報告書を情報源とした。なお、1月23日の説明会の時点で対象となる上場企業は3506社とされた(プロネクサス社の調査は該当企業の数え方が微妙に異なる)。

 次に、公表局面での変更点は、回答企業名を原則として公表すること。「同業のA社が応募しているならば、わが社も」と応募企業の横並び意識を刺激する。さらに、評価(審査)局面と公表局面にまたがる変更点は、1)銘柄に準じる企業を選定・公表し、銘柄と併せて公表企業数を2倍程度に拡大、2)IT-IRなどの重要テーマでの先進的な取り組み企業を「注目企業」として選定、3)新興市場からも数社を「注目企業」として選定、の3つである。最後に、フィードバック局面の変更点は、フィードバック対象を、前回までの希望企業から、全応募企業に拡大することである。これらの一連の変更を通じて、「攻めのIT経営」の政策の浸透、選定された企業を中心としたIT-IR活動の盛り上がりが見込まれる。

IT経営に関するIR情報ニーズは、環境、CSR、ガバナンスを上回る

 「攻めのIT経営銘柄2017」の発表以降に、IT-IRが活性化するであろうとの見通しの背景には、そもそも、IT-IRへの潜在ニーズが強いと確認できたことがある。潜在ニーズが強いところに、銘柄やそれに準じる企業が数多く公表されれば、ニーズが顕在化するとの読みである。銘柄発表時点の株価や取引高の動向に影響される部分も短期的にはあるだろうが、中期トレンドとしてIT-IRは活性化する方向にある。

 IT-IRの潜在ニーズの強さの検証は、日経BPコンサルティングが2016年10月に当社調査モニターに対して実施した大規模調査に基づく。「IT経営に関する情報発信・情報公開」を実施することについて、支持層(43.0%。「そう思う」と「ややそう思う」の合計)は不支持層(15.0%。「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計)を大きく上回る(図2)。特に、経営企画部門の所属者では、支持層(56.0%)が過半数で、不支持層(11.2%)の5倍に相当し、この傾向が顕著だ。有職者の中でも、経営企画部門の所属者は、IT-IRへの意識が特に高い。

図2 「IT経営に関する情報発信・情報公開」を実施することへの支持

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この調査結果の基となる調査概要は次の通りで、図3と図4で示した調査結果の調査概要とも共通する。
調査概要:調査対象者は日経BPコンサルティングの調査モニター。有効回答数は3368件。調査時期は2016年10月。調査方法はインターネット調査。調査モニター・アンケートで5つのテーマの1つとして「企業のIT経営とIR(投資家向け広報)」について尋ねた。回答者の構成比は、有職者が74.9%、有職者の所属部門では情報システム(全体の12.5%。以下同じ)、研究/開発/設計(12.1%)、販売/営業(8.9%)、経営全般(7.1%)、総務/庶務/法務(5.6%)など。

 IT経営レポートの閲覧意向を見ると、複数のIT経営レポートの閲覧意向層(13.3%)と、まずは1つ閲覧したいとする層(31.6%)を合わせると44.9%である(図3)。経営企画部門の所属者では66.4%と特に高い。この設問では、IT経営レポートについて、具体的なイメージをもって回答してもらうために、雑誌記事16ページ程度の分量、4つの分野ごとの内容を提示した。うち1分野は、ITのトレンド(ビッグデータ活用、モノのインターネット=IoT、人工知能)への対応状況について解説するものと位置付けた。このITトレンドは、図1のNo1で紹介した、政府の「日本再興戦略2016」と連動した「最新のデジタル技術」を織り込んだものと言える。銘柄選定方法の変更点が発表される前に、当社はこれを踏まえた大規模調査を実施していた格好だ。こうしたITトレンドの内容を含むIT経営レポートを閲覧したい層は、4割を超える。

図3 IT経営レポートの閲覧意向

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この調査結果で示した設問文は次の通りであった。
企業が「IT経営に関する情報発信・情報公開」の一環として、その企業のWebサイトの「IR(投資家向け広報)」の中で、「IT経営レポート」を公表しているとした場合、あなたはその企業の「IT経営レポート(※)」を閲覧してみたいと思いますか。
 ※「IT経営レポート」の内容は、(1)経営/事業戦略とIT戦略の特徴、(2)主要なIT投資プロジェクトの紹介、(3)ITのトレンド(ビッグデータ活用、モノのインターネット=IoT、人工知能)への対応状況、(4)IT経営の推進体制、の4分野とし、雑誌記事16ページ程度の分量であるとします。

 注目すべきは、IT経営への取り組みは、企業のIRサイトで閲覧してみたい情報として人気があることだ。企業のIRサイトで閲覧してみたい情報を、8種類の例示、および「その他」「全くない」の10個の選択肢から、いくつでも選択してもらったところ、「IT経営への取り組み」のコンテンツとしての人気は、全体では5位、経営企画部門の所属者では4位に食い込んだ。環境、CSR(企業の社会的責任)、コーポレートガバナンスより、IT経営は情報ニーズが強い(図4)。

 「機関投資家はこれまで、経営者がITに強くないから、経営者にIT経営について聞いても仕方がないだろうと思っていた。しかし、IoTやビッグデータ活用が企業経営に与える影響が大きくなる今後は、同じようにはいかない。経営者は、攻めのIT投資で破壊的なイノベータに対する備えがあることを投資家に示し、投資家が安心して投資できるようにする必要がある」。「攻めのIT経営」委員会委員長を務める伊藤邦雄氏はこう語る。

図4 企業のIR(投資家向け広報)サイトで閲覧してみたい情報(複数選択方式)

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「IT経営への取り組み」は、全体では5位、経営企画部門の所属者では4位に位置する。IRサイトで近年強化されつつある、環境、CSR(企業の社会的責任)、コーポレートガバナンスより、IT経営は情報ニーズが強い点で、注目に値する。

 IRコンテンツは非財務情報として、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を充実させる方向にあり、これを踏まえて、「環境レポート」や「CSR(企業の社会的責任)レポート」を作成したり、これらの情報と財務情報を統合した「統合レポート」を作成したりする企業が近年増加している。これに対して、IT経営のIRコンテンツは現状、全く存在感がない。企業が近年強化しているESGよりも、これまで手つかずであったIT経営はニーズが強いことが判明した今、非財務情報として、IT経営を置き去りにして、ESGだけに注力していてよいのか――。経営陣やIR部門はこれまでのIR施策を見直し、IT経営に目を向ける好機だ。

村中 敏彦
村中 敏彦

コンサルティング本部 調査部 シニアコンサルタント

1985年に京都大学法学部を卒業後、大手コンピュータ・メーカーでIT製品・ソリューションの提案や導入を担当するSE(システム・エンジニア)職に従事、大手化学メーカーの業務改革推進部門で事業システムの企画や全社業革事務局を担当。1992年に日経BP社に入社。「日経コンピュータ」などIT媒体の編集記者、新規媒体・事業開発、マーケティング調査を担当。同社コンサルティング局の分社独立に伴い、2002年に出向し、現在に至る。ICT/BtoB企業を主要クライアントとして、ICT/BtoB分野の記事やレポートの作成、顧客ニーズの分析やマーケティング戦略立案の支援を行う。

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