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経営とCSRをつなぐストーリーを投資家に伝える統合報告書を発行 経営とCSRをつなぐストーリーを投資家に伝える統合報告書を発行

 企業経営において年々重要度を増し、情報を発信する媒体や施策が高度化を続ける企業広報という仕事。いま注目の広報活動の現場を、日経BPコンサルティングの事例に限らず取材し、成功のヒントを探るシリーズ「企業広報のいま」。今回のテーマは統合報告書です。

 投資家や事業を展開する地域の人々に対し、企業が社会に提供する価値をよりわかりやすく伝えるために、統合報告書を発行する企業が増えている。統合報告書とは、簡単にいうとアニュアルレポートとCSRレポートを合体させたものだが、財務情報と非財務情報をうまく関連付け、企業価値をストーリーにしてわかりやすく伝えることは容易ではない。
 そこで2016年に初めて発行した統合報告書の作成に向けた意欲などが評価され「2016年度IR優良企業賞」においてIR優良企業大賞を受賞した住友金属鉱山の広報IR部広報IR担当課長 常川茂氏に、統合報告書の発行の意義や制作のポイントについて話を伺った。

聞き手:古塚 浩一(日経BPコンサルティング)

keyboard_arrow_down「統合報告書2016」の概要

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アニュアルレポートとCSRレポートを合体して統合報告書に

常川 茂 氏
広報IR部 広報IR担当課長

2016年に初めて統合報告書を発行することになったきっかけとその目的を教えてください。

常川: そもそものきっかけとしては、当社の経営を理解していただき、ひいては当社の企業価値を正しく評価していただくためのツールとして統合報告書は大変有効だということで、中里佳明社長から制作を検討するよう指示を受けて取り組みを始めました。

 鉱山業は、土地を掘る=環境を破壊する業界として、印象はけっしてよいものではありません。開発はどうしても大規模になります。当然、第一義的には環境を破壊しますし、開発地域にもともと住んでいる方がいらっしゃる場合には、人権への配慮も必要です。つまり鉱山業とは、環境面でも経済面でも与えるインパクトが大きい業態なのです。その前提のもとで、地域の方々に当社を受け入れていただき、信頼関係を築き上げるためにも、インフラや学校、病院などを作るなど、CSRを実践することは重要です。

 そして、そういう業態だからこそ、グローバルで事業を展開するにあたって、CSRを経営と一体のものとして進めていることをきちんと説明することが必要です。従来のアニュアルレポートとCSRレポートの2本立てでは、弊社が社会に提供できる価値をストーリーに仕立ててうまく説明できない部分があり、「統合」することが有用であると考えました。

読者としてはどのような方を想定していますか。

常川: やはり投資家の方を主な読者と想定しています。もちろんいろいろな方が読まれると思うのですが、初めからターゲットとしてマルチステークホルダーを想定すると、結局誰のためのものなのかがわかりにくくなります。そこで一本筋を通し、投資家の方に絞ることにしました。

統合報告書の制作にあたり価値創造プロセスやDNAを社内で共有

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常川氏(右)と、聞き手の古塚(左)。

統合報告書はまだまだ発行を始めたばかりの企業が多い中で、御社も手探りの状況だったのではないかと思います。どこから着手しようと考えましたか。

常川: ちょうどIIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)ガイドラインのドラフトが出来上がりかけていた時期なので、まずはそこを参考にしつつ、「統合」とはどういうことなのか、から考え始めました。

 当社はICMM(International Council on Mining and Metals:国際金属・鉱業評議会)に加盟しているのですが、その会員になるには、サステナビリティを具体的な指標として可視化するGRI(Global Reporting Initiative:サステナビリティに関する国際基準を提唱する非営利団体)ガイドラインに準拠した形で情報開示をすることが前提となっています。一方で、環境分野をはじめとする重点六分野でそれぞれ目指す姿を定めてCSR活動を行ってきたのですが、今回の制作はちょうどその見直しのタイミングでもありました。そこで見直しに合わせ、GRIとIIRCのガイドラインで共通する重点課題の洗い出しを全面的に実行しました。

 実際の制作ステップでいうと、当社の価値創造はどういうことか、強みは何なのかをまず棚卸しし、社内で共有することから始めました。まず2014年に安全環境部、経営企画部、広報IR部からなるプロジェクトチームで洗い出しを開始し、約1年をかけて統合報告書の軸となるストーリーの整理をしました。その上で、社長や各部門長にインタビューをしながらストーリーを組み立てていきました。

制作にあたって特に注力したことはどういった点ですか。

常川: 現状をもれなく洗い出し、並行して各部門長にヒアリングしながら当社の強みやビジネスモデルを整理していきました。

 当社は資源事業、製錬事業、材料事業の3つの柱を持っています。この3つを揃えているのは世界的に珍しく、差別化のポイントでもあるのですが、3事業に取り組むことでどういった意義があるのかについては、実はこれまできっちり整理されていませんでした。逆にいえば、そこを整理することで、3つの事業を持つことがどのような強みになっているのかを洗い出すことができました。このおかげで投資家の方から「なぜ3事業をやっているのか」と尋ねられたときに、共通認識のもと説明できるようになりました。

 数ある住友グループの中でも、当社は別子銅山に始まる住友の源流事業を受け継いでいます。統合報告書の制作にあたっては、その脈々と続いてきたDNAは何なのかという点も議論になりました。そのDNAの一つとして、420年にわたって培ってきた「天地自然への報恩感謝」という住友の事業精神があります。天然資源の恵みをいただいている企業として、自然に恩を返さなければならないという考えが当社には根付いているということです。そこで統合報告書に歴史を載せることで、そのDNAの上に育まれた当社の強みを伝えようということになったのです。

 結果的に、全体の半分はCSR関連の話になりました。ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心はますます高まっています。投資家の中にも統合報告書になったことで初めて当社のESG情報に触れる方がいますので、一冊で経営とCSRの関係がわかるようになっているのは意味があることだと考えました。

充実したESG情報やお客様からの寄稿に高い評価


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「住友金属鉱山への期待」と題して、トヨタ
自動車の豊田章男社長、村田製作所の村田恒夫
社長、フリーポート・マクモラン社のリチャー
ド・C.アドカーソン副会長、ニッケル・アジア
・コーポレーション社のマニュエル・B.サモー
ラ・Jr会長からのメッセージを掲載。



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「SMMグループの価値創造プロセス」のページ
より。持続的な成長と企業価値の最大化へのプ
ロセスをスパイラルアップで表現。

今回、統合報告書の制作を外部に委託するにあたり、重視したのはどういう点ですか。

常川: やはりGRIをある程度理解しているところでないと、ということが前提としてありました。また、当社の場合は財務データに加えESGのパフォーマンスデータに関しても監査法人の第三者保証を受けており、そこからも数値や文章などいろいろと修正が入るので、臨機応変に対応していただける点も大切でした。あとはやはり、企画力やデザインですね。統合報告書を作るということ自体、現在はまだ始まったばかりですから、どういった企画が世の中にあるのかをうまくベンチマークしながらサポートしてくれる点を重視しました。

統合報告書を発行されて、投資家などからの評価はいかがですか。

常川: 全体を通して言うと、いわゆる住友金属鉱山の価値創造とその背景にあるストーリーがわかりやすいというご評価をいただいています。また、ESG関連の情報が充実しているというお声もいただきました。

 情報に対して裏付けをできるだけ出すという部分でいうと、トヨタ自動車の豊田章男社長、村田製作所の村田恒夫社長をはじめ4社からご寄稿いただいたのですが、この企画は反響が大きかったですね。当社としてパートナーシップをどう考えているかを示すため、たとえ厳しい言葉であっても正直なところを寄稿していただければという思いで、当社社長から先方にご依頼しました。これは他社の企画としてなかなか見られないものでしたので、当社の信頼関係の裏付けにもなりました。

 また、価値創造のスパイラルを表した図とビジネスプロセスを示した図について、わかりやすいという評価を多くいただきました。当社は、ビジネスプロセスが少々わかりにくいところがあります。この図では、各部門の連携がどうなっているのかをわかりやすく表示できたと考えています。

企業価値を正しく伝えるために読み応えのある統合報告書を

2017年の統合報告書で挑戦したいことや課題がありましたら教えてください。

常川: 単にイメージだけではパンフレットのようになってしまいますし、それでは当社の企業価値を正しくお伝えするという目標を達成できないことになります。ですから、前段部分はきちっと読んでいただけるように読み応えがあり、かつ内容がわかるものにしないといけないと考えています。2016年版は初版ではあったものの、読者の方々に統合報告書と認めていただける及第点は得られたと思いますが、文字量が多かった点については改善の余地があります。

 情報の出し方についても、2016年は充実している一方でやや盛り込み過ぎの感もありました。今回は初版でもありますしそれでよかったのですが、次回からは情報にメリハリをつけ、スポットライトを当てるものについてはもっと深掘りして、納得していただける誌面づくりを目指したいという思いもあります。

 統合報告書はブラッシュアップしていかなければなりませんし、かつ外部環境もどんどんと変わっていきますから、それに応じて中身も変えていかなければなりません。当社の企業価値を正しく理解していただくために、どういった企画がいいのか、どういった誌面がいいのかを考え、今後も改善していきたいと考えています。また、投資家の方が知りたいことに対して情報を出していくのはもちろんですが、これからはさらに当社として発信したい情報を載せ、こういうこともやっている、こういう見方もあるということをより積極的に発信していく媒体としても位置づけていけたらと思います。

最後に、統合報告書の制作を検討されている他の企業の担当者の方にメッセージをお願いします。

常川: 私の場合は、会社のことを知っているようで知らないことが多くありました。ですので、さまざまな部門長や経営層に話を聞き、まずは全体としてのイメージを作ってからのほうがやりやすかったですね。

 また、たとえば社としての価値創造の部分など、一度発行したらなかなか変えられない骨子になる部分についてはあらかじめ徹底的に議論し、本質を固めておくことです。そのためにも、社内で自社の価値はどういうことなのか、そのコンセンサスをこれでもかというくらい徹底的に確認しておくことが、逆に近道になると思います。

取材を終えて

 住友グループの源流に位置し、420年にわたる歴史を誇る住友金属鉱山。その社名と歴史から、事業に対して安定性の高い企業とイメージされることが多いようです。この安定性について同社の中里佳明代表取締役社長は次のように述べています。「安定性とは、ひとつの場所にとどまることではない。持続的な成長を遂げることこそが安定性である」。

 確かに、同社の歴史をひもとくと、銅の製錬技術の開発に始まり、事業を継続させるためにつねに技術を磨き、成長を遂げてきたことがわかります。この住友金属鉱山が持続的な成長を遂げてきた歴史や、培われてきた価値創造プロセスを、ストーリー仕立てでわかりやすく伝えてくれるのが、同社が2016年に初めて発行した統合報告書です。

 自社の強みを棚卸ししたうえで、単に情報を網羅するのではなく、住友金属鉱山ならではの歴史やDNA、事業精神を解説しながら、経営とCSRのつながりをストーリー仕立てで投資家にわかりやすく伝えることに成功した同社の統合報告書は、次代の統合報告書のひとつのスタンダードといえるでしょう。
(古塚 浩一)

事例概要

「統合報告書2016」
発行主:住友金属鉱山株式会社
発行形態:A4判、108ページ、オールカラー、平綴じ
発行時期:年1回
主な読者:取引先、株主・投資家、地域住民
発行部数:3000部(日)、1000部(英)
発行方法:郵送、配布 
発行:2016年10月
古塚 浩一

日経BPコンサルティング カスタムメディア第一編集部長

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