サバイバル分析経営者の誤解(7)
ビジョンさえあれば熱意ある社員が増えるのか
- 日経BP総研 ビジョナリー経営ラボ 徳永太郎所長
文=菅野和利 - 2018年04月06日
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日本中を沸かせた熱狂のオリンピック・パラリンピックが過ぎた。スポーツの素晴らしいドラマが繰り広げられ、何度見ても感動がよみがえる。2018年は数カ月後にサッカーの世界一を決めるワールドカップも控えている。スポーツで熱くなる機会に事欠かない年だ。ひるがえって会社や組織での日常はどうだろうか。ある管理職がつぶやいた。「この熱狂が会社にもあったら……」
社員に熱意がない。社員が受け身で積極的でないと思う経営者は多い。「米ギャラップが世界各国の企業を対象に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意度)調査によると、日本は『熱意あふれる社員』の割合が6%」(日本経済新聞電子版2017/5/26記事)という調査もある。
日経BPのシンクタンクである日経BP総研ビジョナリー経営ラボの徳永太郎所長は「社員は会社に貢献し、会社は社員を支えようとする相互信頼度が低い。相互理解が進まず、会社と社員の絆が揺らいでいる」と語る。いまや会社と社員の心理的距離はかなり遠い。心の中で冷たい氷上の闘いが行われているかもしれない。両者をつなぐものはないのか。徳永所長は「ビジョンが両者をつなぐ」と言う。
ビジョンには将来像が必要
自社にはしっかりしたビジョンがある、と考える経営者もいるだろう。しかし、ビジョンがあればいいというのは誤解だ。ビジョンは社員を動かしてこそ、その真価を発揮する。「ビジョンは社員が動くための活力であり推進力となる」(徳永所長)。熱意ある社員が少ないのは、ビジョンが社員の耳には届いていても、心にまで届いていないからだ。
ベストセラー『ビジョナリーカンパニー』シリーズの著書、ジム・コリンズ氏が提唱する「ビジョンフレームワーク」にビジョン浸透のヒントがある。ビジョンフレームワークは「基本理念」と「将来像」から成る。基本理念は「コアとなる価値観」と「コアとなる目的」で変わらないもの、将来像は「10~30年をかけた大胆な目標」と「達成時の生き生きとした描写」である。
基本理念は、すでに会社の中に眠っている強みや特徴だ。会社のコアとなるので基本理念を見いだすのは大切だが、「社員への浸透」という観点からは、将来像が非常に重要となる。
コリンズ氏は将来像について、「極めて大胆で、それ自体が興奮を呼び起こすもの」であり、「頭の中に明確なイメージが描けなければいけない」と説明している。これまでの経営の延長線上にあるものではなく、「不可能なくらい高い目標」を立てる。その目標を記述するときは、社員がぜひ挑戦したくなるような「生き生きした描写」をする。無味乾燥な表現では、いくら目標が大胆であっても社員の心は動かない。つまり、ビジョンには社員の感情を動かすワクワクする将来像を含めるべきなのだ。
はたして自社のビジョンに社員が興奮するような描写はあるだろうか。社員自らがビジョンに向けて行動してみたい、貢献してみたいと思えるものになっているだろうか。いま一度、コリンズ氏のいう将来像の観点から自社のビジョンを見直してほしい。
社員の感情を動かすビジョンをつくる
周年を機にビジョンをつくり変える企業は多い。誰も反対しない表現を盛り込み、なんとなく満足してビジョンをつくったとしても、そこから社員の熱意は生まれない。ましてビジョンの下で社員が自立的に動くこともないだろう。ビジョンづくりは言葉遊びではない。感情が動かなければ、人は自立的に動かない。社員の熱意を引き出すためには、自社がもともと持っている基本理念と一致する、ワクワクするような将来像が欠かせない。
周年のタイミングなら、ビジョンを変えるプロジェクトを始めやすい。社員の熱意を呼び起こすビジョンを策定し、ビジョンを自立的に達成しようとする社員を増やす。見事ビジョンを達成したあかつきには、国際大会で活躍した選手にマスコミが群がるように、周りが熱狂してあなたの会社の話を聞きに来るはずだ。周年はビジョンを組織の活力に変えるチャンスである。
次回は、大胆なビジョンがあり、社員に熱意もあるのに、なぜか新規事業が育たない理由を探る。
- 2018年04月06日
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