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サバイバル分析経営者の誤解(3)

予測できない未来を予測しなければならない理由

  • 日経BP総研 未来研究所 仲森智博所長
    文=菅野和利
  • 2017年10月20日
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重要な経営判断を行う際に、未来が正確に分かれば苦労はしない。最後の判断は“勘”だと考えるトップも多いが、それも現状を分析して将来の変化を予測した上での判断だ。ある程度、変化を予測できれば、未来に自社が取るべき戦略も見えてくる。言い換えれば、未来を予測しなければ戦略が立てられない。未来予測の意義はここにある。

未来から“Backcast”で戦略を立てる

「Back to the future!」

1985年に大ヒットした映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の中で、科学者のドクが主人公のマーティにこう叫ぶ。この映画を見ていない方のために簡単に言うと、自動車型タイムマシン「デロリアン」で1955年にタイムスリップしてしまったマーティが、1985年に戻ろうと奮闘する映画だ。その象徴的なシーンの中で、未来に行った科学者のドクがデロリアンに乗って現れ、マーティに言う。「Back to the future!(未来に戻るんだ!)」

たかが映画の話ではあるが、そこに大きな示唆があるように思える。ドクは「未来を知って」、1985年のマーティを迎えにきた。未来の状況から逆算して行動を起こした。実は、未来から現在を見るこの発想こそが、未来予測におけるキーポイントとなるのである。

日経BPのシンクタンクである日経BP総研未来研究所の仲森智博所長は、未来予測における勘違いをこう述べる。「未来を考えるとき、人は現在を基準に来年、再来年と予測(Forecast)する。しかしそれでは有効な戦略は描けない」。人は現在と過去しか知らない。過去の実績と現況を基準にしないなら、どうすればよいのだろうか。「未来予測で重要なのは、“Backcast(バックキャスト)”で考えること。まず、未来のイメージをしっかり持つ。そのイメージから逆算して戦略を立てる」(仲森氏)

Backcastは釣りの用語だ。竿を後ろに振るのをBackcast、前に振るのをForecastという。仲森所長が釣り好きというわけではなく、Backcastは温暖化対策の分野で使われてきた言葉だ。Backcast思考では、未来のある時点のイメージを決め、そこから逆算して現在の1年後の戦略、3年後の戦略、5年後の戦略を立てていく。例えば、過去の実績から判断すると排出量2割減が限度だとしても、「10年後に排出量を半減する」と宣言して、そこから戦略を立てる思考方法である。

このBackcast思考のメリットは、現状の延長ではない戦略を立てられるところだ。変化は必ず起こる。過去の実績と現状の延長で戦略を立てると、不連続で急激な変化に対応できない。例えば、2017年9月、掃除機などのメーカーである英ダイソンが2020年までにEVを独自開発すると発表した。EV市場が成長していくと、既存の自動車メーカーだけが競合ではなくなる。これまで考えられなかったプレーヤーが市場に参入してくる。過去の実績から戦略を立てていたら、こうした不連続な変化には対応できない。

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現在を基準に未来を考えるForecast思考と、未来を基準に戦略を立てるBackcast思考

当事者意識が未来をつぶす?

今年を起点に来年を予測する。その予測を基にその翌年を予測する。こうしていけば、5年先、10年先でも予測できる。だが現実には、延長線上に未来はない。不連続な変化が未来を思わぬ方向に導くからである。そのことを織り込むためにはまず、10年後、20年後といった遠い未来像を描く。そこから逆にたどり、2年後はどうなる、5年後はどうなると予測していく。これがいわゆるBackcast思考である。例えば企業が長期戦略を立案する場合には、極めて有効な手段といえるだろう。

しかし、この手法を使うだけでは的確な長期戦略を立案できない。長期戦略立案プロジェクトでは、社内で選抜されたメンバーでプロジェクトチームをつくるケースが多い。しかし、こうしたメンバーの多くは、未来予測を専門にしているわけではない。だから、メンバーごとの未来に対する認識は違う。多くの場合、そのすり合わせすらできないまま具体的な事業プランの策定に突入する。そして結局は、多数決的な、当たり障りのないプランが出来上がる。上司の意見をくんだ現状肯定的な、いかにも経営トップが安心しそうなものになっているかもしれない。それが経営会議で報告され、強い異論もなく承認となり、チームは解散となる。その上、一度立てた戦略が常に見直され続けることはほとんどない。「未来イメージから逆算して戦略を立てる」といった考え方からは、ほど遠い姿が現実にはある――。

仲森所長は、社内メンバーだけで長期戦略を立てる危険性を指摘する。「メンバーの多くは当事者意識をしっかりと持って、戦略を立てようとする人たちだろう。もちろん実務ベースのオペレーションではこの姿勢がとても重要だ。しかし、未来を考えるような自由な発想が必要なときは、その当事者意識がかえって障害になる」。当事者意識を強く持っていると、現業や現在保有している技術や顧客にとらわれ、「こうなってほしい」「こうなるべき」といった発想の枠から逃れられないのだという。結局は社長の“顔色を見て”作成したような報告書になってしまう。

その枠を超えるにはどうすればよいか。仲森所長は「利害関係がない外部の組織や人材を利用する。トップが不機嫌になろうが気にせず徹底的にドライに考えられる社外メンバーをプロジェクトに入れること」だと処方箋を語る。そうすれば、社内の人であれば誰でもが「そうあってほしくない」未来も含めてディスカッションができる。社外メンバーにはコンサルタントでもシンクタンクの人材でもいい。

社外メンバーを入れたプロジェクトチームをスタートさせたら、自社の都合を考慮に入れずに未来を考えてみる。メンバーそれぞれが考える未来イメージは当然違う。定期的に集まってディスカッションしながら、未来イメージを1つに収束させていく。このとき社外メンバーが専門家だからといって、その意見に従う必要はない。社外メンバーをファシリテーターとして、メンバー自らが考えて発想力を培う場とする。たとえ時間がかかっても、ディスカッションのプロセスを大切にしつつ、未来への認識を共通にしていく。

未来イメージを描いた後は、その未来から逆算して自社が立てるべき戦略を考える。自社の情報をある程度開示することになるが、このフェーズでも社外メンバーの協力を仰いだほうがよいという。社内メンバーだけだと、どうしても発想が似てしまいがちになる。社外メンバーがいれば、違った観点からの発想が生まれやすくなる。この段階では、ディスカッションのプロセスの中で、発想の多様性を生み出すことが何より重要なのである。

まとめると、プロジェクト運営のポイントは3つになる。「社外メンバーをチームに加える」「メンバーの未来認識を共通にしていく」「発想の多様性を引き出す」。プロジェクトは数カ月から年単位になるだろう。その時間の中で生み出された未来像と、培われた発想の多様性は、かけがえのない自社の財産となるはずだ。

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未来イメージを同じに、発想を多様にしていく

10年計画を死に物狂いで完遂する勘違い

長期戦略立案プロジェクトでは、もう1つ留意すべきポイントがある。Backcast思考でチームの未来イメージをまとめ、苦労して卓越した10年計画を立てた。後は死に物狂いでこの計画を完遂するのみ、と考えてしまいがちなことだ。仲森所長は「未来予測はその時点での仮説にすぎない」と言う。完璧な未来予測などできないからだ。10年計画を立てたのなら、継続して毎年見直すくらいのフォローアップが必要だという。

「長期戦略立案チームは恒常的に置くべき」と仲森所長は強調する。例えば、1年目に10人のメンバーがいたら、チームを解散せずに3人はメンバーに残しておく。そうして毎年、未来予測をアップデートさせながら3年後、5年後に戦略もバージョンアップさせると陳腐化せずに済む。

それほど手間はかけられない。そう感じる経営者やプロジェクトメンバーもいるだろう。しかし、未来を読み違えるということは、経営戦略を根本から誤ることである。その誤った戦略を忠実に実行していけば、5年後、10年後に会社があるかどうかすら分からないというのが「今」という時代なのだ。

未来など正確に予測できないのだから、やる意味がない、やり方が分からないから勘でいくしかない。そう考えている経営者や、戦略策定で悩んでいるメンバーの方に、もう一度ドクの言葉を贈りたい。

「Back to the future!」

未来を読み違えないために、やれることはいくらでもある。

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