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周年事業はるか昔を振り返り、遠い未来を見渡せ

相反するものを組み合わす“資生堂スタイル”で未来を創る

  • 聞き手=雨宮健人/文=平野優介
  • 2017年09月19日
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相反するものを組み合わす“資生堂スタイル”で未来を創る

1872年に創業し、150周年を数年後に控える資生堂。外部企業出身の魚谷雅彦氏を2014年に社長に迎えるなど、老舗のイメージとは裏腹に、常にチャレンジングな姿勢で自らを革新し続ける。すでに150周年に向けた各種編さん作業が始まっており、現時点で5年が経過。周年事業としては、異例の準備期間だ。その理由、資生堂の強み、そして目指す姿について、企業文化部の田中俊宏部長に聞いた。

過去から未来へのバトンをつなぐ

―化粧品業界はブランドイメージが命とも言えます。「企業文化部」はブランディングの部署という位置付けでしょうか。

資生堂企業資料館の外観
資生堂企業資料館の外観

企業文化部は、1990年に創設されました。その大切な使命の1つは、資生堂企業資料館(1992年開設。静岡県掛川市)の運営も含め、資生堂が歴史を通じて蓄積してきた文化資産を、未来志向で資生堂のブランディングにつなげることです。

英国の政治家ウィンストン・チャーチルは「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せる」と言っています。歴史の中でどんな革新を起こしたか、逆境をどう乗り越えたか、といった知識や経験は、企業の歴史が長いほど蓄積されます。

そうであれば、過去への内省からビジョン・ミッションを実現するための“強み”を再発見し、時代への即応に必須なコアバリューやヒントが発見できます。企業文化部は、それらを未来の事業や経営に生かす道を開く仲介役にならねばならないと考えています。

繰り返しになりますが、歴史の中で蓄積された企業文化を確認し、将来に向けて蓄積の方向と質、速度などのコントロールをすることが私たちの役割です。

「歴史をひも解き、アーカイブスを通じて資生堂の事業に関わる一人ひとりに見て、知ってもらい、アドバイスを行い、ともに考え、未来を志向する、そのバトンの流れを創る」という想いを私たちは日々抱いています。

企業文化は、「第4の経営資源」

―資生堂では、文化資産や企業文化を、人・モノ・カネに続く“第4の経営資源”と呼んで大切にされています。

企業として持っている文化や文化資産を形作っていくのは、当然ながら資生堂のあらゆる部署や関わる人々です。

私たちは、企業文化のうち、企業活動の歴史を通じて組織の中で培養(=カルチャー)され、蓄積されてきた知的・感性的な資源を「企業の文化」と呼んでいます。研究資産、宣伝広告、特許の書き方、財務のやり方などが相当します。

一方で、社外の芸術文化の支援やそこから得られる価値を「企業と文化」という概念で呼んでいます。1919年の資生堂ギャラリーオープンに代表されるように、資生堂は、創業間もない頃から時代の渇望やエネルギー、刺激を外部から会社に還流させ、価値創造の糧とし、独自の価値づくりにつなげてきました。

企業文化部も、自社の企業文化の蓄積とその検証を集中的に行うとともに、社外の芸術文化活動に流れる新しい価値観の窓口として発足されました。外部からの新たな流れを会社のマネジメントに組み入れ、会社全体に常に新しい感覚を取り入れていくことができる、という当時の福原義春社長(現名誉会長)の考え方も背景となっています。

―資生堂としての企業文化の原点はどこにあるのでしょうか?

資生堂は、1872年に薬学者の福原有信が、官職を辞して銀座に創業した日本初の洋風調剤薬局が始まりです。初代社長となる福原信三も、同じく薬学者でありながら自らが造詣の深かった芸術文化の知見・人脈を積極的に活用しています。資生堂の「花椿マーク」の意匠も信三の手によるものです。

話題を呼んだ資生堂「ホネケーキ」のポスター
話題を呼んだ資生堂「ホネケーキ」のポスター(撮影:横須賀功光、提供:資生堂企業資料館)

異なるものをハイブリッドして新しい価値を創る、という思想は今も連綿と受け継がれています。

―現在の「ダイバーシティ」の考え方に通じますね。

そうです。伝統を守る“資生堂スタイル”と革新性を求める“反資生堂スタイル”のぶつかり合いこそが、資生堂文化の源泉といってもいいかもしれません。

1966年にサマー化粧品のキャンペーンガールとして女優の前田美波里さんを水着で広告に起用した際には、当時の役員会でも喧々諤々の議論になったと聞いています。しかし、「太陽に愛されよう」のキャッチコピーとその斬新さが大変な好評を博し、街のポスターがはがされて盗まれるなど、社会的なムーブメントを起こしました。

その意味で、「たとえ議論を戦わせても、最終的に称賛を得るべし」といった具合に巧妙にマーケッターやクリエーターの心に火をつけ、その勇気ある反乱をしたたかに触発するといった独特の経営スタイルが根付いていったわけです。他にも、ご記憶の方も多いと思いますが、「ホネケーキ」を真っ二つに切るポスターなど、実に多彩な事例があります。

現在でも、歴史を切り開いてきた各部門では、「新しい価値を創造したい」という、“ミーム(=文化の情報を持ち、人の脳から脳へ伝達、増殖する仮想遺伝子)”が組み込まれています。

―特に老舗ブランドの顧客イメージがあると、変革への「怖さ」があるように思います。

資生堂は創業期から一貫して時代の美意識を追求してきたアートの流れと、皮膚科学と化粧品というサイエンスを融合させて、独自のブランドイメージを確立してきました。

第8回化学遺産に認定された資生堂関係資料
第8回化学遺産に認定された資生堂関係資料(左から、1888年「福原衛生歯磨石鹸」、1915年「資生堂フローリン」、1918年「オイデルミン」、1897年「オイデルミン」)

資生堂は歴史の中で、常に世の中の人たちの生活を豊かにするフロンティア精神をもって新しい商品を提供してきました。今年の3月には公益社団法人日本化学会から「福原衛生歯磨石鹸」「オイデルミン」「フローリン」の3品が「化学遺産」に認定されました。大前提として「資生堂なら間違いない」という品質の高さ、お客さまの信頼を裏切らないという歴史の積み重ね、そして誠実さの積み重ねが、信頼につながり、企業の次代を担う人材確保の場面でも、多くの大学生のリクルーティング活動で選ばれる企業の1つになる結果につながるのだと思います。

商品のブランディングという側面でも、現在資生堂は、プレステージをはじめとする5つのブランドカテゴリーを世界で展開していますが、どのカテゴリーにおいても、それぞれのブランドポジションをしっかり確立していくために、マーケティングにある意味で厳しい「自己規制」をかけています。

国内外を含めた各種のECサイトや販売代理店に商品展開をする場合でも、ブランドイメージに即したマーケティングを展開できているか、例えば掲載する商品の写真1枚でもおろそかにしない、そんな地道な取り組みも重要です。

100年ブランドの創造は、携わる一人ひとりの矜持を育むことから

―150周年に向けた展望・展開をお聞かせください。

現在は、老朽化したデータベースの再整備やグローバルでの活用を視野に入れ、アーカイブの見直しにも着手しています。また、150年史の編さんという目標に向けては、関係者のオーラルヒストリーを集めたり、蓄積資料の精査・洗い出しをしたりするなど、これまでの歴史認識の検証を改めて行っています。

特に、過去の出来事だと事実か不明な部分もあり、当時の新聞や資料などとも突き合わせています。過去の資料集めも一苦労で、骨董市で発見されるといったこともたまにあります。

現社長の魚谷雅彦の就任挨拶は「100年先の資生堂の原型を創る」という趣旨でした。そして、私たちの目指す姿は「世界で勝てる日本発のグローバルカンパニー」になること。「未来の資生堂を創造するために、これまでの軌跡をもう一度たどってみよう」という機運も社内に生まれています。

資生堂銀座ビルの外観
資生堂銀座ビルの外観(撮影:ナカサアンドパートナーズ)

実は、魚谷のバックボーンであるコカ・コーラ社もアトランタにアーカイブ機能を有しています。そこではきちんと会社の歴史が引き継がれています。アーカイブの存在は、「社として絶対に変えてはいけないもの、時代に合わせて変えていくものを導く装置」として機能しているのです。

―アーカイブは、未来に向けたメッセージそのものなのですね。

そうです。たとえ歴史が短くても振り返るのは可能です。要は捉え方で、歴史の長さではないのではないでしょうか。周年事業というものを別の角度で捉えると、資生堂の歴史を創ってきた一人ひとりが、ぶつかった壁や壁を乗り越えたときの想い、方法、守ってきたスタイルを再発見し、コアバリューのバトンを未来につなぐ過程そのものです。

未来へのメッセージを紡ぐ試みが、「これからの資生堂」を切り拓く1つの鍵となります。そして将来的には、創業地の地・銀座から、“資生堂のDNA”を再び世界に向けて発信するという夢を実現できればうれしいです。

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