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サバイバル分析経営者の誤解(4)

自社の未来を予測する3ステップ

  • 日経BP総研 未来研究所 仲森智博所長
    文=菅野和利
  • 2017年11月21日
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自社の未来を予測する3ステップ

2017年のプロ野球ドラフト会議が終わり、早くも来年の新人選手の活躍が楽しみなファンも多いだろう。ドラフト会議の最大のヤマ場は、高校通算最多とされる111本のホームランを打った早稲田実業学校の清宮幸太郎選手の指名だった。7球団競合の末、日本ハムファイターズが交渉権を獲得。栗山監督は「何がなんでも世界のホームラン王にする」と意気込んだ。

来年、3年後、5年後、10年後に、清宮選手がどれだけ活躍するのか。興味は尽きない。しかし、プロの世界は結果が出なければ続けられない。ポテンシャルがいくらあっても、それだけで通用するわけではないだろう。清宮選手のポテンシャルが伸びるかどうかは、プロ入り後のトレーニング次第ともいえる。

ポテンシャル×トレーニングで未来を考える

周年事業の記事で、なぜわざわざドラフトの例を挙げたかというと、この「ポテンシャル×トレーニング」の考え方が、技術の未来予測に有効だからだ。周年事業で中長期戦略を策定するプロジェクトが走るケースは多く、その策定に未来予測は欠かせない。いまや技術動向で未来が変わる時代だ。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術が、どう進展していくかが自社の戦略策定に影響する。

技術者や専門家が技術の未来を考えるとき、よく、その技術のポテンシャルを見て動向を予測する。「この技術は拡張性がすごいから、3年後にはかなり進化しているはず」と考える。しかし、技術の未来はポテンシャルだけでは計れない。どれだけ清宮選手にポテンシャルがあっても、トレーニングをしなければ伸びないのと同じだ。「ポテンシャル×トレーニング」で考えなくてはならない。

では、技術におけるトレーニングとは何か。日経BP社のシンクタンクである日経BP総研未来研究所の仲森智博所長は「R&D」だと言う。「R&Dにどれだけヒトとカネが投入されるかで、技術の進化の加速度が変わる」(仲森所長)

R&Dへの投入量を決めるマーケット

R&Dへのヒト、カネの投入量が多ければ、技術の進化が加速する。逆に、いくら技術にポテンシャルがあっても、R&Dへの投入量が少なければ、その技術の進化は頭打ちになる。R&Dへの投入量を決めるものは何か。仲森所長は「ビジネスが回っていれば、R&Dにヒト、カネをかけられる。そのビジネスの規模、つまりマーケットの大きさ次第でR&Dへの投入量が変わる。ひいては技術進化の加速度も決まる」と語る。つまり、マーケットが予測できれば、将来のR&Dへの投入量が算出できる。そこから技術の「ポテンシャル×トレーニング(R&D)」を推定して、技術ロードマップを描く。

それでは、技術ロードマップを描くのに不可欠なマーケットは、どうやって予測するのだろうか。マーケットの予測に関して、仲森所長は、「今あるマーケット」の延長で考える安直さに警鐘を鳴らす。「ガラケーしかなかった時代に、その延長で考えていては、スマートフォンをはじめとするスマートデバイスのマーケットは予測できなかった」。今は存在しなくても、これからできそうな未来のマーケットも予測しなければ、数年後のマーケット像は描けない。もちろん、今あるマーケットの盛衰の予測も必要だ。「今あるマーケット」と「今はまだないマーケット」の両方の予測が欠かせないわけだ。

それら2つの観点のマーケットをフェルミ推定などの手法を使って定量的に把握し、未来のマーケット像を描く。そこからBackcast的(第3回参照)に成長曲線(S字曲線)を当てはめていけば、1年後、3年後、5年後のマーケット像が導き出される。

マーケットの成長はS字曲線を描く

未来のマーケットから逆算してS字曲線を引く
未来のマーケットから逆算してS字曲線を引く

トレンド、マーケット、技術の関係

技術のポテンシャルの話からR&Dへの投入量、マーケットの予測まで、芋づる式に未来予測のポイントが見えてきた。さらに言えば、未来における新マーケットの出現を予測するためには、世の中のメガトレンドを把握しておくことが欠かせない。ライフスタイルから産業構造、消費動向まで、未来はこうなるという定性的な予測がないと、マーケットの未来像も描けないのである。

まとめると3ステップになる。技術のロードマップは、マーケットが分からないと測れない。マーケットの未来像は、メガトレンドを把握できないと描けない。「1、メガトレンドの把握 → 2、マーケットの未来像 → 3、技術ロードマップ」という順に、未来予測は進む。ただし、技術の進化は年々変わるので、正確に言えば、「メガトレンドの把握→マーケットの未来像→技術ロードマップ→メガトレンドの把握→マーケットの未来像→技術ロードマップ」と、予測はアップデートされるべきであろう。

読者の中には、周年事業プロジェクトのメンバーに抜擢されて、自社の未来像を検討している方もおられるはずだ。もし、自社で未来予測をするなら、まずは「ポテンシャル×トレーニング(R&D)」を意識して、技術動向を考えるところから始める。ただ、自社のみで技術ロードマップからマーケット予測、メガトレンドまで考えるのは大変だ。自社に必要な観点の書籍やレポート類などを活用するのも一手だ。

未来予測の専門シンクタンクである日経BP総研未来研究所では、メガトレンドと技術ロードマップの未来予測レポートを刊行してきた。これまで抜けていたマーケット予測のエリアにおいて、2017年12月18日に『未来市場2018-2027』を刊行する。併せて『テクノロジー・ロードマップ2018-2027 全産業編』も11月28日に発刊。『メガトレンド2016-2025』と併せて、3つすべてのフェーズの最新未来予測レポートがそろう。

メガトレンド、未来市場、テクノロジー・ロードマップの関係図

メガトレンド、未来市場、テクノロジー・ロードマップの関係図
メガトレンド、マーケット予測(未来予測)、技術ロードマップ(テクノロジー・ロードマップ)の関係。自社で知りたい観点からレポートを選べるようになっている

どれを読むべきか。仲森所長は「すべてを読むのが一番だろうと思うが、どの切り口で未来を知りたいかによって、読むレポートを選べばよいのでは」と言う。周年事業で大きなトレンドを把握する必要があるなら『メガトレンド』を、マーケット予測から事業戦略を考えるなら『未来市場』を、技術立脚企業で技術動向が事業に大きな影響を及ぼすなら『テクノロジー・ロードマップ』をお勧めしたい。

裏付けのある未来予測を基に適切な中長期戦略を描き、願わくは、数年後にグローバル市場を舞台に大躍進を遂げたい。夢であろう。だが、単なる夢ではない。適切な方法で研さんを積むことによって現実できる夢なのである。少なくとも、その確率を高めることはできるはずだ。清宮選手が、適切かつ厳しいトレーニングをきちんと積んでいけば、ホームラン王となることも夢ではないように。

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