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企業研究【1949年(昭和24年)設立の70年企業】カルビー株式会社

老舗企業にも変革の波、カリスマ経営者が行った改革とは

  • 文=里見 渉
  • 2019年07月17日
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老舗企業にも変革の波、カリスマ経営者が行った改革とは

「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」など数々のヒット商品を生み出し、市場シェアを拡大してきたスナック菓子メーカーのカルビー。1949年(昭和24年)設立の70年企業だ。そんな老舗企業にも変革の波が押し寄せる。少子化で市場は縮小し、競合企業の台頭などで収益率は低迷。この状況から脱するために3代続いた創業家が招へいしたのがプロの経営者、松本晃氏だった。松本氏は総合ヘルスケア企業のジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)日本法人の経営トップを15年間務め、この間の売り上げは毎年18%増、利益25%増を達成したカリスマ経営者である。

松本 晃氏

松本 晃氏
<Profile>
1947年、京都府生まれ。1972年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、伊藤忠商事株式会社に入社。同社の子会社であるセンチュリーメディカル株式会社の取締役営業本部長を経て、1993年にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル株式会社(現:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)に入社。代表取締役社長、最高顧問を歴任。2009年6月、カルビー株式会社代表取締役会長兼CEOに就任し、8期連続増収増益、東証一部上場を果たす。2018年6月、RIZAPグループ株式会社代表取締役COO、2019年1月から同社取締役、令和元年6月から同社特別顧問に就任

古い仕組みと悪しき文化を変える

2009年に代表取締役会長兼CEO(最高執行責任者)として招へいされた松本晃氏が最初に行ったのは、「古い仕組みと悪しき文化」を変えることだった。「古い仕組みは時代によって変わるが、悪しき文化ははびこる。こんなものはぶっ壊すしかない」(松本氏)

松本氏はなぜこれを変えようとしたのか。それは、時代が変わったから。ビジネスのルールが変わったから。世界の産業が変わったから。生き方も変わったから。「世の中が変わったのだから、企業も変わるしかない。しかし、この国は変わる機会を逃してしまった。変革とは、既得権を奪うこと。既得権とは、お金や権力、地位、身分。いったん手に入れた既得権は、簡単には手放さない。抵抗勢力が強いから、この国はまったく変わらない」と松本氏は話す。

松本氏が招へいされたころのカルビーは、それほど悪い会社ではなかった。しかし、成長は止まっていた。利益も低迷していた。「変えなければならない」と思った松本氏は、まず権限を委譲し、「個室なし」「社用車なし」「接待費なし」などを率先垂範で行った。

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ビジョンのない会社は仲よしクラブ

松本氏は「経営とは、すべてのステークホルダーを喜ばせること。必要条件は『世のため、人のため』、十分条件は『儲けること』とし、経営をうまく行うための3つの要素として「VISION(ビジョン)」「PLAN(プラン)」「LEADERSHIP(リーダーシップ)」を挙げる。

「ビジョンのない会社は組織と言わない、それは仲よしクラブ。ビジョンは言い換えれば、この指止まれです。私はこんなことをやりたい、こんなことを達成したい、でも一人じゃできない、私と一緒にやってくれる人集まれです。ビジョンの次はプラン。どんな製品やサービスをいつまでにどれだけ、これがプランです。そして残るはリーダーシップ」とし、カルビーでは「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」をビジョンとした。

成果に結びつかない変革は興味なし

松本氏は、仕組みを変え、悪しき文化をぶっ壊した。理由は「成果を出すため。成果に結びつかない変革は興味がありません」(松本氏)。そのために様々な変革を実行した。

「会社はときどき停滞する。すると人事をやる。そこから何もしない。そうじゃない。時代に合わせて仕組みを変えなければならない。仕組みを変えれば、人事も変わる。『人は最後でいい』としなければ、ほとんどの組織は人事ばかりさわる。理由ははっきりしています。人事ほど面白いものはないからです」(松本氏)

松本氏はまずカルビーのことを知るために棚卸しと仕分けを行った。現状のビジネスを見直し、「甘くて、温かい」会社から「厳しくて、温かい」会社にするためだった。松本氏がカルビーの以前に15年間経営トップを務めていたJ&Jも「厳しくて、温かい」会社だったという。J&Jの売上高は9兆円、利益は約3兆円。ここ数年で世界の時価総額ランキングはガラリと変わってしまったが、同社は現在もトップ10に入っている。

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成果主義を徹底し、そのための環境を整える

松本氏が言う「厳しい(会社)」とは、徹底的な成果主義のこと。「したがって数字しか信用しません。数字は正直です」(松本氏)。プロセス主義は、成果が出ない組織の言い訳にすぎない。また、温かい(会社)とは「社員一人ひとりが成果を出すために環境・制度を変え、仕組み・文化を変えること、これが私の定義です」という。そして松本氏は「成果」に結びつく様々な変革を実行。9年間カルビーの経営トップを務め、売上1.8倍、最終利益6倍を達成した。

 

カルビーの変革

 

「今、あなたは顧客が抱えている問題を解決していますか? Yesなら働いている、Noなら働いていない。これは生きることと同じ。あなたは誰のために生きているか。そして、その人たちが抱えている問題を解決、または解決するための努力をしていれば、あなたは生きているということになる」と松本氏は説く。

少子高齢化、人口減少、異業種参入、グローバル化、ITの進展とそれを駆使したスタートアップの台頭など、ビジネスは急激に、しかも劇的に変化している。それは、長年安泰だった老舗企業までをも揺さぶる大きな変化だ。3代続いたカルビーの創業家が下した決断は、その後の業績を見れば正しかったといえよう。

「甘くて、温かい」から「厳しくて、温かい」会社への変革。松本氏が行った改革は簡単なものではない。しかし、意識改革はすぐにできる。一人ひとりが「働くって何だろう、何のために、誰のために働いているのか」を見つめ直せば、その先のステップが見えてくるのかもしれない。

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