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企業研究ヒット鋳物メーカー・能作の革新の一手

100周年を機に新社屋を産業観光の拠点に。伝統産業に新風

  • 文=赤壁逸朗
    聞き手=吉田健一、石井健介
  • 2018年06月04日
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100周年を機に新社屋を産業観光の拠点に。伝統産業に新風

鋳物メーカーの「能作」は、銅器製造が古くから盛んな富山県高岡市で1916年(大正5年)に創業。2016年に、100周年を迎えた。錫100%の曲がる器やかごをはじめとするヒット商品を次々に生み出し、伝統産業に新風を吹き込んでいる。

101年目に当たる2017年4月に竣工した新しい本社社屋でも、革新的な取り組みを始めた。鋳物体験工房やカフェ、ショップを併設する産業観光の拠点として整備し、工場内を一般に公開している。狙いは製品のPRにとどまらない。ものづくりの魅力を広く発信し、伝統技術の継承や地元の活性化につなげる構想を描き、プロジェクトをスタートさせた。

伝統産業の再生、製造業の多い富山県における産業観光の振興を目指す旗手の取り組みは注目を集めた。来場者数は当初の想定の2倍を超え、月1万人に達することもある。

創業百年の技術と誇りを表現

エントランスの壁一面の木型
エントランスの壁一面の木型

新しい社屋は北陸新幹線の新高岡駅から車で約15分、高岡市北部の高岡オフィスパーク内に移転新築された。敷地1万3436平方メートル、建物は鉄骨2階建て延べ4960平方メートル。総工費は約13億円。同社の生産能力は1.5倍に向上した。

来場者に“見せる”施設として、さまざまな工夫が凝らされている。ひときわ目を引くのがエントランスの壁一面に並ぶ多数の木型だ。倉庫をガラス張りにして隣接させ、収納してある木型を見てもらう造りになっている。木型は、同社が製造する仏具や茶道具、花器などの原型で、これを用いて砂型をつくり、鋳造する。創業当初に使用したものから現役のものまで約2500種類が収められる。長い歴史と伝統の重みを視覚的に訴える仕掛けだ。

屋根の赤色は鋳造炉の炎をイメージしている。園庭には木型の材料に用いる朴木をシンボルツリーとして植えた。装飾に真鍮や銅、錫の板を多数使用し、金属そのものの持つ美しさをアピールする。金属製のモダンでスタイリッシュな案内表示は、日本サインデザイン協会主催の「日本サインデザイン賞」の大賞にも選ばれた。細部にまでこだわり、鋳物メーカーとしての誇りをかたちにした施設といえるだろう。

IMONO KITCHEN
IMONO KITCHEN
鋳物製作体験工房「NOUSAKU LAB」
鋳物製作体験工房「NOUSAKU LAB」

この新たな拠点で「工場見学」「鋳物製作体験」「カフェ」「ショップ」「観光案内」の5つを柱に産業観光事業を展開している。工場見学では鋳造や仕上げの作業場に足を踏み入れて、職人の仕事を近くから見ることができる。製造過程で発生する熱やにおい、音もじかに感じられる。ガラス越しに遠くから公開する方法では「本質を伝え切れない」と考えたからだ。

鋳物製作体験工房「NOUSAKU LAB」では、錫製のぐい呑みや箸置き、ペーパーウエートなどを手作りできる。カフェでは、地元野菜を使ったメニューを自社の錫製食器で提供。ショップでは多彩な商品群を展示販売し、本社だけで扱う限定商品も用意する。

富山県の魅力を知らせる観光案内スペース「TOYAMA DOORS」を設けた。社員が独自にリサーチした、県内の人気スポットやグルメを紹介する約250枚のカードを作成して配布。県域をかたどったテーブルに、プロジェクションマッピングでPR映像を投影している。ここで得た情報をもとに、富山県を周遊してもらう試みだ。

オープンしたのは2017年4月27日。旧社屋には前年、約1万人の見学者が訪れていた。新社屋では初年に2万人の来場を見込んだ。ところが出足が好調ですぐに目標を5万人に上方修正し、さらにそれをも大きく上回る月1万人ペースの来場が続いている。県外からの観光客が約4割、中国や台湾からの来訪もあるという。

「職人」が憧れの職業に

能作では、以前から工場見学を積極的に受け入れてきた。創業4代目の能作克治社長があるとき、子どもを連れた見学者が「勉強をしないとこのような仕事にしか就けないよ」と言ったことにショックを受け、職人の地位を高めるために、仕事をもっと知ってもらわなければいけないと思ったのがきっかけだった。

地元の高岡市も2006年から国の特区認定を受け、小学5・6年生、中学1年生の必須科目として、伝統工芸や産業について学ぶ「ものづくり・デザイン科」を展開している。この授業の一環で、能作を見学して職人に憧れた子どもたちが就職を希望する年ごろになり、16年に第1号の女性が入社。仕上げ職人として働いている。

2016年には創業100周年を記念して、地元の職人100人とコラボレーションして真鍮製の一輪挿し「そろり」を100点つくる企画を実施。同社が鋳造した素地を提供し、職人たちが金工や彫金、漆工といったそれぞれの技で装飾した。自社のルーツを踏まえつつ、高岡の伝統技術をアピールする狙いがあり各地で展示販売を行った。100点は現在、新社屋入口のスペースに陳列されている。

産業観光をテーマにした今回の本社整備も、職人技の魅力を伝えるというこれまでの取り組みの延長線上にある。生産能力の向上が求められていた中で、15年の北陸新幹線開通、16年の創業100周年という節目が重なり、一大プロジェクトとして動き出した。商品開発をはじめ、同社のブランディングに貢献してきた専門家たちが15年から月1度のペースでミーティングを行い、コンセプトや事業計画を練った。建築家の広谷純弘氏、家具デザイナーの小泉誠氏、伝統技術ディレクターの立川裕大氏、グラフィックデザイナーの水野佳史氏らがそうだ。オープン後も定期的に集まり、産業観光のより良いあり方を討議している。

能作 産業観光部 部長 能作千春氏
能作 産業観光部 部長 能作千春氏

運営の中心になっているのが16年9月に新設された産業観光部だ。来場者の増加とともにニーズも多様化しており、工場見学の案内方法、ショップで販売するおみやげ品やカフェのメニューなどを随時見直している。能作千春産業観光部長によると、同社製品の主要な購買層である30~50代の女性を念頭に置きながら戦略を考えているという。「サービス業という新分野に参入したかたち。やるからには覚悟を決めて取り組まなければいけない」と話す。

来場者の増加に対応するため、説明スタッフの人員確保や、製造現場への根回しなど社内調整が欠かせない。「職人のみなさんも協力的で、説明の際に使う見本品を自発的につくってくれたり、手話のできる者が障害のある方への案内を買って出てくれたこともある。オフィススタッフは見学を案内することで製造への理解が深まり、職人は製作体験工房で教える経験を通じて学ぶなどプラスになっている」(能作部長)。

収益力が課題も、10年、20年先を見据える

工場見学は無料で、ショップやカフェなどの売上が産業観光としての収入になる。今後は、収益性を高めていくことが課題だ。能作部長は「産業観光を儲けにつなげる仕組みを確立しなければいけない。ただし、多くの人に能作のものづくりや、富山の魅力を伝えることで、すぐに見えなくても長期的に返ってくるものがある。10年、20年先を見据えながら進めていきたい」としている。

400年の歴史を持つ高岡銅器は、分業制で発展してきた。問屋が商品をプロデュースし、原型づくりから鋳造、着色や装飾、仕上げなど工程が細分化されている。能作は創業以来、鋳造を行ってきたが、市場が急激に縮小する中で「自分たちの製品がどのように加工され販売されているのか。ユーザーの顔が見たい」という考えから、独自商品の企画から製造、販売まで一括して手掛けるようになった。15年ほど前のことだ。

以来、顧客をはじめ、従業員やデザイナーの声に耳を傾けながら人気商品を生み出してきた。錫を曲げて使うというアイデアも「錫が曲がりやすいのなら、そのまま曲げて使ってもらえばよい」というデザイナーのひと言から誕生した。業界の常識にとらわれない意見や発想の転換を大切にしている。同社は委託販売だけに頼らず、全国主要都市の百貨店に直営店を展開しているが、これは情報収集と発信の場としても重視しているから。新社屋には、これまで以上に多様で多数の来場者が訪れる。アンテナの役割を中核的に担う存在になるだろう。

独創的な錫製品
独創的な錫製品

錫製品は同社の売上の約7割を占めるまでになった。錫には柔軟性、熱伝導率の高さのほか抗菌効果がある。そのため、ヘルスケア用品や医療器具への利用を検討してきた。入れ歯を収納するポット、手術時に開腹部を固定する器具などを商品化して可能性を探っている。最近はアニメやゲームなどのキャラクター商品の製造依頼が頻繁にあり、これまでとは異なる客層として期待を寄せる。2017年3月、タイのバンコク伊勢丹に直営店をオープン。米国・ニューヨークの2店舗に続くもので、海外での展開にも力を入れる。

事業の拡大に伴って職人は約60人まで増えた。平均年齢は32歳と若い。伝統技術の後継者として期待が高い。錫製品のシリコーン鋳造をはじめ、新たな技術の研究開発に携わる者や、セクションを越えて幅広い技術の習得を目指す者もいるという。伝統産業における新たな職人像が生まれつつある。

「伝統は変化し続けることで受け継がれていく」というのが、同社の信念。社長の長女である能作部長自身が、伝統工芸を革新していこうとするパワーに感化された1人だ。神戸のアパレル関連会社に勤務していたとき、先輩社員が見つけた花型の錫製トレイのセンスの良さが職場で話題になり、のちにそれが能作の製品と知り驚いたという。数年後にUターンを決心、いまや事業を支える。「新社屋への来場がこのまま月1万人ペースで続けば年12万人。能作が高岡市内で最も観光客が集まる場所になるように努力したい」と話した。

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