企業研究コラボ商品は話題になる
輪ゴム会社がつくったおみやげ用クッキー
- 文=菅野和利
- 2019年06月06日
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大阪出張の帰り、新大阪駅の新幹線南口を出てすぐのおみやげ売り場で職場へのおみやげを物色していた私は思わず足を止めた。歓声が上がったからだ。
「なにこれ! めっちゃウケる」
30代らしきカップルが、あるおみやげを指さして笑っている。
「なんでこんなとこで輪ゴム売ってんの? え、うそ、クッキーだって」
「これにしなよ!絶対これだって」
私は思わずカップルの指先を見た。よくあるおみやげのお菓子箱サイズだが、巨大な輪ゴムの紙箱があった。パッケージのデザインは長年使っている輪ゴムの箱にそっくりだ。
カップルがその箱を手に取って(ついでに言うと彼が彼女の手も取って)立ち去ってから、私もその輪ゴムらしき箱を手に取った。裏面を見る。商品名は「オーバンド プリントクッキー」。何とクッキーだ。パッケージで目を引かれ、いい意味で中身に裏切られ、おみやげ売り場で私は興奮した。この輪ゴムクッキーを職場で渡せば、「なにこれ!」と言って同僚は笑うに違いない。先ほどのカップルと同じく、おみやげは絶対これだ、と思った。
商品デザインをライセンス展開
新幹線の座席で私は「オーバンド」を検索してみた。するとすぐに「オーバンド公式ブランドサイト」にたどり着いた。透明なアメ色の輪ゴムは1917年、株式会社共和の創業者である西島廣蔵氏が開発に成功。2017年に100周年を迎えたという。共和は大阪の老舗企業だ。そうか、私はひらめいた。このおみやげ用クッキーは100周年記念で制作されたに違いない。周年事業では記念品を制作する場合がある。しかし、関係者に配って終わり、後は忘れられるというケースも多い。おみやげ用クッキーなら、新幹線出口すぐのおみやげ売り場で何万人もの目に触れるだろうし、売れれば収入にもなる。実にうまいやり方だ。
後日、100周年記念クッキーであると疑わずに、発売元の共和に電話してみた。結論からいうと、クッキーは周年とは何の関わりもなかった。共和の広報によると、このクッキーはコラボ商品であり、おみやげ用のお菓子・食品などを開発・製造しているナガトヤからコラボの打診を受けたという。共和はライセンスを与え、販売をナガトヤ、製造を長登屋に任せている。周年記念でつくった商品ではなかった。
100周年記念クッキーは思い込みが生んだ幻であった。私は思い込みを恥じると同時に、いっそのこと100周年を記念したクッキーにしてしまえば、話題になるし、共和のブランド強化にもつながるのにと惜しく思った。
販売元のナガトヤにも電話してみた。オーバンド プリントクッキーは販売好調で、約半年(2018年11月末〜2019年5月)で1万個超えだという。キャンディー版もあり、こちらは2万個超え。おみやげの売り上げとしては「優秀」らしい。
自社だけでなく他社の周年にも目を配る
ブランド強化や組織強化、何をするにも周年はチャンスとなる。社外・社内問わず「周年」のキャッチコピーは分かりやすい。何周年記念とうたえば、少し変わったプロジェクトも社内・社外に受け入れられやすい。
周年を迎えるタイミングでは、どんなプロジェクトも周年絡みにできないかと、うの目鷹の目で周りを見てほしい。探すのは自社だけでなく、他社の周年も気にしよう。2社コラボの例でいえば、大塚食品のボンカレー50周年と、エースコックのスーパーカップ30周年を掛け合わせたコラボ品「スーパーカップ1.5倍 ボンカレーゴールド中辛風 カレーうどん/辛口風 カレーラーメン」(2018年1月22日発売)がある。コラボならマスコミから注目されやすい。実際、このコラボ商品は、マイナビニュース、ASCII.jp、東洋経済ONLINEなどで記事になった。
それにしてもオーバンド プリントクッキーの100周年記念の思い込みはショックであった。興奮の後の冷静さ、裏(証拠)を取る大切さが身にしみた大阪出張だった。
- 2019年06月06日
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