企業研究100年企業の源流(5)
ドイツの150年企業に学ぶ、持続的成長の秘訣(後編)
- 文=津田浩司
- 2018年01月05日
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150年以上の歴史を持ち、長く世界の化学産業をリードしてきたBASF。化学品や高機能製品、機能性材料、農薬関連製品、石油・ガスなどの事業を世界で展開しており、私たちの快適で安全な暮らしを支える様々なモノの多くにBASFの製品が採用されている。現在、グループ全体の従業員は11万人超。BASFはどのようにして、今日に至る持続的な成長を遂げることができたのだろうか。BASFジャパン代表取締役副社長で財務管理統括本部長を務める須田修弘氏に、BASFのカルチャーや変革への向き合い方などを聞いた。(本文中敬称略)
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業務プロセスやシステムなどは
グループ全体でグローバル標準に統一
大川 BASFにおける戦略の実行力がよく分かるのは、大胆な事業ポートフォリオの入れ替えです。特に2000年代に入ってから、事業の買収や売却が増えているように見えます。
BASFジャパン株式会社
代表取締役副社長 財務管理統括本部長
須田修弘氏
須田 事業ポートフォリオの見直しは今に始まったことではなく、BASFでは以前から自社のコアコンピタンスの変化に向き合い、戦略を着実に実行してきました。市場の変化を見据えながら、成長が見込める分野には投資をし、事業買収も行う。一方で、市場の魅力が低下した、または差異化が図れないと判断した事業は売却する。近年コモディティ化が加速しており、今後も継続することが考えられるため、BASFはこうした再編により、「スペシャリティとソリューション」と「差異化されたコモディティ」の両方を、バランスよく保つことを目指しています。
こうした決断がしやすいのは、総合化学メーカーであることも理由の1つです。世界6カ所に置かれたフェアブント拠点(統合生産拠点)では、川上から川下製品に至る幅広い化学品の製造をBASFが1社で担っています。そのため、複数の企業とともに1つの石油化学コンビナートを運営する他の化学メーカーと比べて、より迅速に、BASFとしての最適解を出すことができるのです。
また、決定の質については、BASFの組織体制も大きく影響しています。BASFでは5つの事業部門に13の事業本部が所属しています。一方で、全世界を4つの地域に分け、国レベルでも事業を管理しています。つまり、縦軸として事業ごとの利益を考え、横軸として、地域・国レベルで複数の事業をもって各国の市場にいかにメリットを生み出せるかを考えています。常に2つの側面から事業を見つめることで、BASFとして最大のバリューを生み出す施策を探し求めます。
大川 時代の動きを見据えて事業ポートフォリオを見直しながら――その一環といえるかもしれませんが――、BASFは有望なスタートアップにも積極的な投資を行っています。
須田 BASFには、多様性を大事するカルチャーがあります。なぜなら、異質なものを組み合わせたり、融合させたりすることで、全く新しい価値創造が可能になるからです。これは、フェアブントの精神そのものといえるでしょう。
大川 フェアブントがイノベーションを生み出す、というわけですね。企業買収の課題としては、しばしばPMI(Post Merger Integration)の難しさが指摘されます。買収後の統合について、BASFの考え方はどのようなものですか。
須田 買収した企業については、業務プロセスやシステムなどをすべてBASFのグローバル標準に合わせてもらいます。これにより、世界中の拠点でのビジネス活動をクリアに可視化することができる。例えば、既存の工場と買収した工場の稼働率の算出の仕方が違っていれば、どんなに優れた拠点であっても、既存のネットワークと有機的につなぎ合わせることはできません。
大川 日本企業の場合、買収先のやり方を残したまま、「連邦経営」を標榜するケースが目立ちます。また、海外現地法人を含めて、グループ全体における業務やシステムの標準化も課題とされています。ただ、最近はBASFのようなグローバル標準を志向する日本企業も増えつつあります。おそらく、それは時代の流れなのでしょう。
知識とノウハウのフェアブントを通じて
生み出した革新性を顧客の成功につなげる
大川 最後に、BASFジャパンの役割についてお聞きしたいと思います。
須田 BASFは1888年に初めて日本市場に接触し、1949年以降は日本法人を設けて活動しています。現在、石油・ガスを除くすべての事業を日本でも展開しており、BASFにおいて日本は重要な市場です。また、日本には工場や研究開発拠点も多い。BASFジャパンで長く仕事をしてきて感じるのは、日本人ならではのきめ細かいサービスやお客様への対応力が他国に比べて優れているという点です。このような価値は、BASFグローバルに対して発信していきたいと思っています。
大川 きめ細かいサービスというと、具体的にはどのようなものでしょうか。
須田 日本の自動車メーカーが海外工場を立ち上げるときは、現地のBASF社員によるサポートだけでなく、日本のエンジニアによるサポートも強く求められます。例えば、塗料です。車体の色合いは非常に微妙で、日本の工場と同じ色を海外工場で再現するのは容易ではありません。エンジニアの持つ技術力はもちろんですが、自動車メーカー側との対話力も重要です。日本の社員はこうした面でも活躍しています。
大川 顧客企業の厳しい要求に対応できるよう、スキルとコミュニケーション能力の高い日本のエンジニアが、海外展開を図る日本企業とBASFグループの橋渡し役を務めているということですね。
須田 お客様にも満足していただけていると思います。自動車分野だけでなく、日本には世界的に存在感を持つ企業が少なくありません。また、日本発のイノベーションも多い。私たちは日本法人として、そうした企業のパートナーでありたいと思っています。「お客様に対してはより日本的であれ、BASF社内においてはよりグローバルであれ」というのが、BASFジャパンの方針。日本人の感覚で求められるスペック、いわば日本人同士の暗黙知を、日本にいる私たちが形式化し、グローバルスタンダードを理解した上で、BASFグループへ展開する。そして、フェアブントの考え方のもと、生産に限らず、ノウハウや知識をつなぎ合わせることで革新性を生み出し、お客様への提供価値を高めること。それが私たちの重要なミッションです。
企業プロフィール
BASF(ビーエーエスエフ)
150年の歴史を持つ世界をリードする総合化学メーカー。従業員数11万人を超える世界有数の巨大企業グループで、かつては三菱化学、三井化学、武田薬品工業や日油との合弁事業も行っていた。現在は日本法人BASFジャパン(従業員数1200人:2016年12月現在)のほか、出光興産、イノアックコーポレーション、住友 金属鉱山や戸田工業との合弁会社も設立している。
日本国内には24の生産拠点(建設化学品事業部の製造センター16カ所を含む)があり、製品ポートフォリオは化学品、高性能製品、機能性材料、農業関連製品などと幅広く、自動車、建設、包装材、医薬品、電気・電子、農業など、ほぼすべての産業で使用されている。例えば、六本木ヒルズ森タワー(コンクリート混和剤などの建設化学品)、ランニングシューズのソール(熱可塑性ポリウレタンエラストマー発泡粒子)、クリーニングスポンジ(メラミン樹脂発泡体)、コーヒーカプセル(生分解性プラスチック)や農業用殺菌剤などもBASF製品が使用されている一例である。
略歴
須田 修弘(すだ・のぶひろ)
BASFジャパン株式会社 代表取締役副社長 財務管理統括本部長
1962年神奈川県生まれ。1986年青山学院大学経済学部経済学科卒業。1986年BASFジャパン株式会社入社。樹脂化成品本部に配属。購買担当、経営開発室などを経て、2006年に財務・経理担当ゼネラルマネージャーに就任。2009年BASF東アジア地域統括本部(香港)ファイナンス&コントローリング アジアパシフィック ディレクターを歴任し、2013年8月から現職。
大川 亮(おおかわ・りょう)
株式会社日経BPコンサルティング カスタムメディア本部 第二編集部 次長 キュレーター
1973年大阪府生まれ。1998年明治大学政治経済学部卒業。出版社勤務を経て、2001年株式会社IDGジャパン入社。エンタープライズIT分野の編集記者として、月刊Computerworld副編集長、月刊CIO Magazine副編集長などを歴任。2012年株式会社日経BPコンサルティング入社。現職に至る。ICTを活用した経営革新やイノベーション創出などをテーマに各種メディアの企画・取材・制作を担当。
- 2018年01月05日
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