企業研究100年企業の源流(2)1919年設立
100年企業のキユーピーがAI活用に積極的な理由
- 文=里見渉
- 2017年08月21日
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マヨネーズでおなじみのキユーピー株式会社。設立は1919(大正8)年で、2年後に100周年を迎える。この伝統的な企業が今、AI(人工知能)活用を積極的に進めている。
AIによるイノベーションで価値創造
今年6月に開催された「Google Cloud Next Tokyo」で、キユーピーの荻野武氏は「我々もAIによるイノベーションを考えています。当初はAIって使えるのかな、というのが正直なところでした。でも、やってみないとわからない。そのため、昨年から取り組んでいます」と話す。
食料品を扱う同社にとって何よりも優先されるのは「安心・安全」だ。同社がマヨネーズ市場の約6割を占めるまでに成長した背景には、安心・安全に対するブランド力があったからだろう。常に品質にこだわり、ブランド価値を高めてきた。このようにして成長してきた同社は現在、AI活用によるイノベーションで新たな価値を創造しようとしている。
良い商品は、良い原料からしか生まれない
同社には、大正8年の創業時から受け継がれている大切な考えがある。それは「良い商品は、良い原料からしか生まれない」ということだ。同社はマヨネーズのほかにも様々な食品、調味料、業務用製品を手がけており、数千種類の原料を取り扱っている。これまではその原料の良し悪しを人が見分けてきた。例えば、佐賀県にある同社の鳥栖工場では、スタッフの約4分の1にあたる40人が原料の全量検査業務にあたっているという。
こうした人海戦術は、経営的には大きな負担になる。それだけではない。検査には一定の熟練度が求められ、判断は属人的になる。同社では商品の品質管理を学ぶ「ものづくり学校 品質コース」を開設して人材育成を行っているが、優秀な人材が育つまでには時間も経験も必要になる。
こうした中で同社では、AIを活用した原料検査システムの構築に取り組むことを決めた。数十社のAI技術を検討し、画像解析で定評のあるグーグルのTensorFlow(テンソルフロー)を選択。現在、ディープラーニング分野で実績のあるブレインパッドをパートナーに迎え、実証実験を行っている。
まずはベビーフードから。100万個から不良品を検出
同社が最初にトライアルとして取り組んだのは、最も安心・安全が求められるベビーフードの原料の1つであるダイスポテトの検査だ。
荻野氏は「1センチ角のダイスポテトの中から、見た目の悪い品位の不良品を仕分けます。品位の不良品は食べても問題ないものですが、それがベビーフードに入っていたら『赤ちゃんが食べても大丈夫かな?』と心配になるかもしれません。そのような心配・不安を解消し、安心・安全を担保するために、人が毎日確認して取り除いています」と話す。
1ラインで100万個以上を確認しなければならず、それを人が仕分けるのは困難だ。同社は長年、この大変な作業をなくすことができないかと検討してきたが、品位の不良品はパターンが多すぎて普通の画像解析では難しかった。「そこで、AIでなんとかできないかと考えました」と荻野氏は語る。
同社は、ブレインパッドやグーグルと協力しながらアルゴリズム(方法論)の開発に取り組み、不良品をはじくシステムではなく、良品を判断するシステムを採用した。AIが良品と判断したもの以外を不良品とみなすという逆転の発想だ。これなら良品を判断するだけなので、良品のデータだけが対象となる。AIに学習させる期間を短縮でき、検査もスピーディーに行える。
AI活用の狙いは活人化。「現場力×AI」で生産性を高める
プロジェクトがスタートしたのは2016年10月。AIに1万8000枚の画像を学習させ、2カ月後にはプロトタイプをつくった。開発から半年後の2017年4月には、鳥栖工場で実証実験を行うまでに至った。
実証実験の結果は上々だった。AIはほぼ正確に良品を選り分け、人の能力を上回るほどの検知度を示した。今後はさらに完成度を高めるとともに、他の原料への適用も検討するという。
なお、同社がAIを活用する狙いは、単なる人員やコストの削減ではない。荻野氏は「AI活用の狙いは活人化。現場力×AIで、さらに現場力、企業価値を高めるのが真の目的です。搬送能力を高速化したラインに対応できるAI検査システムにより、ほとんどの不良品を取り除き、さらなる品位を担保するため、その後工程で熟練のスタッフがはじいていくという合わせ技で生産性を高めていけると考えています」と話す。
「やってみなければわからない」——。歩みを止めず、常に新たな価値を追求して企業価値を高めるキユーピー。長寿の秘訣は、そうした前向きな姿勢にあるのだろう。
- 2017年08月21日
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