80人の社員が語る「仕事・働き方・企業文化」
社員を主役に 仕事の「価値」と「面白さ」を伝えたい
サンリツオートメイションは、“産業用組込コンピュータ”のハードとソフトとを開発するメーカーだ。
例えば、半導体製造装置や医療機器を制御するボードコンピュータ、自動車工場における製造ラインの生産指示システム、有料道路の料金を自動収受するETCシステム、あるいは空港の監視カメラで発着する航空機を追い続ける自動追尾システム、老朽化した配管インフラの傷んだ箇所を探し出す点検ロボット……。
あらゆる「社会の課題」や「企業の困りごと」に向き合い、コンピュータ技術で解決していくことが、自らが設定する事業コンセプトだ。
そのサンリツオートメイションは、2021年に創業50周年を迎えた。
50周年の記念プロジェクトとして、企画されたのはコンテンツによる情報発信。しかし、その内容は、「社史」など会社の“公式記録”になりがちな周年コンテンツとは大きく異なるものだった。
コンテンツの主役は社員たち。一人一人が何を考え、個々の仕事にどう取り組んでいるのか──その姿を通して、産業用組込コンピュータへの理解を深めてもらい、サンリツオートメイションという会社の等身大の姿を伝える。
どのような発想で、50周年記念プロジェクトを立ち上げたのか。
代表取締役社長の鈴木一哉氏が語る。文=能勢 剛(コンセプトブルー)
一般の人が読んで役立つものを
プロジェクトの最初は、「一般の人が読めるもの」「読んで役に立つもの」。たった2つの条件からスタートした。
創立30周年の時に、サンリツオートメイションでも社史を作りました。
でも、社史は一般の人が読んでも面白くない。会社に関わる人で、その会社の歴史を知りたい人が読むのが社史です。そうではなくて、一般の人も読めるコンテンツにしたいなと、まず考えました。
私は大学や高専で講義をすることがありますが、講義では、産業用組込コンピュータがどんな世界なのか、そこでの仕事にどんな面白さがあるのかを、学生たちに伝えるようにしてきました。
50周年記念のコンテンツでも、世の中のエンジニアや理工系の学生はもちろん、サンリツへ職場体験などにやってくる地元の中高生に至るまで、広く一般の人たちが、興味を持ってくれて、何らかの役に立てられるようなコンテンツにしたい。そう思いました。
もちろん、サンリツのことも知ってもらいたい。
ある会社が、いい会社であるかどうかは、世間に出回る情報ではよく分かりません。会社の評価には決算書がよく使われますが、決算書でいい会社かどうかを判断できるのは、株主くらいです。決算内容がよくても、お客さまやビジネスパートナー、社員にとって、いい会社であるかどうかは、また別の話です。
お客さまやビジネスパートナーにとって信頼できる会社なのか、社員が働きやすく、仕事にやりがいを持てる会社なのか──目指したのは、それらが伝わるコンテンツです。
それで行きついたのは、社員たちを主役にして、生き生きと働く姿を描写し、読みものの形で伝えることでした。
ビジネスの主役は人です。事業や技術の説明をするのではなく、社員たちが何を考え、どう仕事に取組み、どんな成長をしてきたのかを、社員が自らの言葉で語り、具体的なストーリーとして追いかける。このアプローチで、サンリツの「仕事」や「働き方」、そして「企業文化」を、より深く理解していただこうと思いました。
社員参加型で、期待以上の成果に
約2年間におよんだプロジェクトは、まず十数名の社員有志と外部委託の編集チームとからなる企画検討委員会を立ち上げるところから始まった。自分たちがいま取り組んでいる仕事、これまで取り組んできた仕事を持ち寄り、技術的な革新性、働き方の進化、ビジネス的な成果、そして社会的な意義まで、コンテンツとしてふさわしいかどうかを自由に議論する。こうしたブレストを経て、発信すべき16のテーマが絞り込まれていった。
テーマが決まると、社員たちは取材を受ける側に。個別あるいはグループでのインタビューで、座談会形式で、取材に応じた社員は延べ80人以上。最初は口が重かった社員たちも、自分が取り組む仕事の話、働き方の工夫の話となると次第に熱を帯びていった。
サンリツオートメイションの「創立50周年特設サイト」。 産業用組込コンピュータという仕事の面白さと、社員の働き方を伝える16本のテーマについて、社員目線で生き生きとしたストーリーが語られる
コンテンツ発信には慣れていませんので、社員たちにとって、企画作りはかなり苦手な面がありました。ただ、日常的に討論する機会が多い会社ですから、何かテーマを決めて、それについて気軽に意見を出し合うということには慣れています。ISOの審査などで、外部の方の聞き取りに応じる機会もよくありますし。
だから、取材を受けることへの戸惑いや抵抗感は、ほとんどありませんでした。「ただ雑談をしていたつもりなのに、きちんとした記事になっていて、さすがにプロの編集者はすごい」という声はありましたが(笑)。
書籍の表紙デザインや扉イラストについて、編集チームから複数の提案を受けた際は、セレクト作業を若手中心の社員たちに任せました。私がいいなと思った案は、若い読者には響かないと早々に却下され(笑)、若手社員の間で議論を戦わせた結果、彼らが納得し、自分たちの媒体として親近感が持てる最終案に落ち着きました。
社員参加型のプロジェクトにしたことで、社内的には、期待した以上の成果を上げたと思います。プロジェクトが終わった後、社員にアンケートを取ったところ、「自分の仕事の振り返りと整理になった」「日常業務の中で意識していなかった仕事の進歩に気付かされた」「社内の他部署への理解が進んだ」といった声がいくつも上がってきました。
コンテンツ作成に携わることで、自分がやってきた仕事の“再確認”や“再認識”になり、仕事への理解が深まり、同時に、会社への帰属意識も高まりました。中には、「妻が読んで感動しました」「自分の仕事が他の人に見てもらえるのは嬉しい」といった率直な喜びの声もありました。
Webサイトと書籍──それぞれの利点を生かす
特設サイトのコンテンツを再編集し、『エンジニアだから、働く楽しさは自分たちで創る』(発行=日経BPコンサルティング)として電子書籍化。広く一般向けに市販
コンテンツを発信するメディアにも工夫が凝らされた。サンリツオートメイションの企業サイトに、「50周年特設サイト」を設置。16本のテーマを、取材が終わったのものから順に、毎月1~2本の連載の形でコンテンツ化していった。
サイトの連載が完結すると、16本のコンテンツを統合し、1冊の書籍に再編集。書籍は、電子書籍版と紙書籍版の2通りを制作し、いずれも市販ルートで購入できるようにした。
取材が終わったものから順にサイトに上げていったのは、記事の鮮度が高いうちに読んで欲しかったからです。特に、社員募集の時期に合わせて、就活生やインターンシップ希望者には、早め早めに情報を渡したい。定期的に新しいコンテンツが追加されるのはよかったと思います。
市販の紙書籍版。表紙デザインや扉イラストのテイストは、若手社員たちが、自分たちにしっくりきて、若い読者に手に取ってもらえるものをセレクトした
社内では、表面的には目立ったリアクションはありませんでしたが、アップのたびに社員たちにはきちんと読まれていました。徐々に50周年記念プロジェクトが盛り上がっていくのに非常に効果的だったと思います。
ただ、特設サイトにアップしても、お客さまやビジネスパートナーには、なかなか読んでいただけない。アップしたことをお伝えしても、その場限りで終わってしまうことが多いんですね。
でも、紙の書籍をお送りすると、ほとんどの方が読んだうえで、後日、お礼を言ってくださいます。コロナ禍で、取引先の方々と顔を合わせる機会が減っています。書籍がコミュニケーションツールとして活躍する場面が、これからたくさんあると思います。
書籍は、リクルート対策で、就活に影響力のある学校の先生方にもお送りしていますし、時期になれば、会社案内の一環として学校の求人窓口にも送ります。書籍は、デザイン的にも造り込まれていますし、目に付けば、いつでも手に取ってもらえます。サイトとは別の意味で対外的な効用は大きいと思います。
今回の50周年記念プロジェクトを振り返ってみると、社内的にも、対外的にも、最初のコンセプトで考えていた以上の成果がありました。
大成功だったと言っていいんじゃないでしょうか。
カメラマンには阿部了氏を起用。1年半に及んだ取材の過程で、社員たちが働く様子を数多く撮影した。書籍では、写真集のようなページも設け、社内の雰囲気を伝えた