書籍で伝える創業から受け継がれてきたDNA
ヒューマックスグループ70周年「“I” have a dream あなたの夢はなんですか?」
ヒューマックスグループは不動産業・総合レジャー業(飲食店・映画館・ライブハウス・映像関連等の運営)を事業とする。2018年、70周年という節目に、書籍発行を中心とするプロジェクトを実施した。周年事業推進における成功の秘訣は何か。書籍の発行を担当した総務部パブリシティグループの杉谷佳美氏に話を聞いた。文=青山 明
「これから会社を担う若手社員へグループのDNAを伝える」書籍に
株式会社ヒューマックス総務部パブリシティグループマネジャー 杉谷佳美氏
杉谷:ヒューマックスグループは事業領域が広く、これまでグループ内企業の事業や過去の出来事を網羅的に配した資料がありませんでした。創業当時をご存じの方も、少なくなっています。
プロジェクトが走り出した当初から、読み手のことを考えて、手に取りやすいものにしたいというイメージはありました。ひとつは70年間の出来事を時系列でまとめ、エピソードをいれて、社史的な構成の企画です。もうひとつは、いかにも社史的なものだと、誰にも読んでもらえないものになってしまうので、創業時から変わらず続いている「グループのDNA」をみつけ、これから会社を担っていく若手社員に伝える読み物の企画です。
いろいろ検討をしましたが、最終的には社長の林 祥隆(今回のプロジェクトオーナー)が、過去の出来事を知る資料としての価値を持ちながら、気軽に読めてヒューマックスグループのDNAを知ってもらう書籍にすることに決めました。
また、2012年に、ヒューマックスグループフィロソフィーを策定し、その浸透を図ってきましたので、その成り立ちや目指すところを説明できる資料としても活用できるものにしたいと考えました。
プロジェクトのパートナー選定は、何に着目しどのように行いましたか。
杉谷:定番の社史的なものであれば、制作してもらえる協力会社は多いと思います。ですが、以前から社内資料が少ないのも把握していて、一般的な社史を作るのは難しいと考えていました。以前の社内報は不定期発行でしたし、バックナンバーも全号がそろった状態ではありませんでした。さらに今回は、過去の出来事から「DNA」を抽出して、それを読み物としてまとめるのが目的です。ですから、限られた資料から過去の出来事をストーリー仕立てにできる「企画力」「編集力」の高さを基準に協力会社を探しました。
当初、社内の担当は私一人という状況で不安でいっぱいのなか、こちらの要望を的確に捉えて、具体的で分かりやすい企画をスピーディーに提案してもらえたことが、日経BPコンサルティングを選んだ決め手でした。書籍を作るのが目的ではなく、その先の「どう活用していくか」を視野に入れた提案でした。
実際に制作がスタートしてからも、企画内容や社内調整のサポートにも助けられました。こちらからの希望に柔軟に対応してくれましたし、できないことはその理由とともに説明してもらえたので、社内での調整がスムーズに進みました。スケジュールの見直しが必要になった際も、納得のいくものでした。途中でさまざまな見直しは必要になりましたが、チームとして一緒に制作を進め、最終的に期日通りに発行ができました。
発行後、社内外からはどのような反響がありましたか。
杉谷:みなさんは、もっと大きく分厚い、会社の沿革、歴代の社長の功績や昔の映画館・店舗の写真が掲載されたものが届くと思っていたようです。いい意味で「想像していたものと違った」という意見が多数です。こちらの意図した通り、「手に取りやすい」「表紙がおしゃれ」という意見もあって、とてもうれしくなりました。社内でこの書籍は、「ドリーム本」という愛称で呼ばれています。社員の夢を実現するために役立ってほしい。そんな願いが、込められています。配布してからそれほど時間が経っていないので、これからいろいろな感想が聞けると思うとわくわくします。書店で販売して広く一般の方に読んでいただくものではないですが、お取引先様やOB・OGの方など、読んでみたいとお声かけいただいた方にはお配りしようと考えています。
思いや考えを、よく理解してから進める
プロジェクトを成功させるコツなど、これから周年プロジェクトを担当する方へのアドバイスをお聞かせください。
杉谷:なにより、限られた時間のなかで効率よく進めていくには、社内での企画段階からプロジェクト・オーナーに対するヒアリングをしっかり行うことです。その思いや考えを、よく理解するのが重要ではないでしょうか。今回は社長がプロジェクト・オーナーでした。方向性がズレていないか、細かな部分も含めて報告をして、意見を伺うようにしました。原稿を確認するメンバーを絞るのも大事です。メンバーが多いほど意見が割れる可能性が高まります。それをすべて反映すれば、1冊を通して見たときに内容がブレてしまいますし、調整にも時間がかかります。今回、1冊通して確認したのは社長、副社長、取締役企画部長、取締役総務部長、そして編集担当の私の5人だけです。当然、取材をお願いした方にもチェックを依頼しましたが、ご自身のパートのみの確認とし、他のページはお渡ししませんでした。
制作を依頼する協力会社を選ぶ際は、「同じチーム」として考えられるかどうかも重視するべきだと思います。クライアントと業者ではなく、「良いものを一緒に作る仲間」というスタンスで制作できれば、プロフェッショナル集団ができます。協力会社の担当者が、提案を惜しまないタイプかどうかもポイントでしょう。時に回り道になっても、より良いものになる提案を惜しまない担当者がいれば、制作する過程で楽しさを感じられます。プロジェクトを成功させるコツは、チーム全員が当該業務を前向きに楽しむことに尽きるのではないかと実感しています。
今後はこの書籍をどのように活用する予定でしょうか。
編著:ヒューマックスグループ
仕様:四六判/208ページ
発行:2019年1月1日
実質制作期間:10カ月
杉谷:まず、社員全員と当グループが運営する全店舗に配布しました。70周年のイベントとして開催した新年会に社員の8割が参加しました。新年会から戻ると、店舗や自部署に書籍が届いているように工夫しました。新年会でのトップメッセージが書籍の内容とリンクしたもので構成していたので、後から書籍を読むと社長が伝えたかった内容を思い出し、補足されてより理解が深まるはずです。今後は中途入社を含む新入社員へ配布して、ヒューマックスグループを知ってもらうツールとして活用していきます。定期的に行う社員研修でも、書籍の内容を教材にする予定です。
Webサイトをリニューアルする際に、書籍の内容をコンテンツとして掲載する構想もあります。また、社内報で歴史のコーナーとして連載していくのも面白いかもしれません。構成やページ数の都合から掲載できなかった興味深いエピソードもあるので、そうした素材も生かしたいと思います。できあがったのは書籍1冊ですが、その制作過程で得たもの、気づいたことも含め、たくさんの活用方法があると思います。