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「エネルギーの地産地消」は幻想か?

日経BP総研 クリーンテックラボ 金子憲治

2018/09/21

 2011年3月の東日本大震災、そして今年9月に起こった北海道地震では、いずれも大型火力発電所が損傷・停止しました。それが起因となり、広範囲な停電が起き、復旧に時間を要すなど、大型火力を軸とした大規模集中型の電力システムの脆弱性が明らかになりました。

 こうしたなかで再生可能エネルギーが急速に増え、分散型エネルギーシステムの有効性が叫ばれています。その方向性が「地域活性化策」と結びつくことで、「エネルギーの地産地消」が、自治体や地域社会で大きな方向性と認識され始めています。

 その典型が、自治体の出資による「地域新電力」です。地域で開発した再エネ電源を地域の電力会社が調達し、地域に供給する――。これにより、これまで域外(大手電力会社)に流れていた電気に支払う「お金」を地域内で循環させ、雇用を生み出すのが目的です。

 ただ、この「エネルギーの地産地消」は、エネルギー分野、特に電力システムの専門家からは、評判が悪いのが現実です。彼らの言い分はこうです。「送電線によって一瞬のうちに遠方に送れる電気は、石油やガスなどのエネルギーに比べると圧倒的に流通コストが安い。だから、電力網はできるだけ広範囲につなげ、多くの電源を多くの需要家で利用する方が、需要と供給の双方が平準化されて、システムとして安定し、コストも安くなる」――。

 この考え方は、すでに広範囲に電力網を構築している先進国の電力業界では、一般的な見方とも言えます。欧州では国を超えて電力を融通し合っていますし、実は、日本でも自治体が「エネルギーの地産地消」を叫ぶ一方で、政府は、大手電力(旧一般電気事業者)の間の地域間連系線の容量を増やし、広域で電気を融通し合う体制を強化しています。

 ただ、十分に送電線のインフラが整備されておらず、無電化地域が残っているような途上国では、構築までにコストと時間のかかる送電網に頼らず、地域の電源を地域に閉じた配電網になかで利用する「マイクログリッド」の構築を進める動きも活発です。これは、日本流に言う「エネルギーの地産地消」と近いエネルギーシステムになります。

 従って、再エネを主体に蓄電池を組み合わせた低炭素型のマイクログリッド事業の主な市場は、アフリカや東南アジアなどの途上国であり、ABBやシーメンスなど、欧州の重電大手は、すでにこうした国でマイクログリッド事業に力を入れているのです。

FIT後が見えない「50kW」太陽光

 それでは、先進国である日本で、自治体が目指している「エネルギーの地産地消」はナンセンスなのでしょうか。

 この問いに対する1つの模範的な回答が、「発電時の排熱を使うコージェネレ―ション(熱電併給)システムは、地域で熱を有効利用できるので、地産地消の意義がある。地域のバイオマスで発電し、その排熱利用を進めるべき」というものです。実際にドイツや北欧の地方都市では、バイオマスボイラーで電気と熱(お湯)を地域に供給しています。

 ただ、日本では地域型のコージェネシステムは、ほとんど普及が進んでいないのが実態です。固定価格買取制度(FIT)で計画が進んでいるバイオマス発電も、ほとんどは発電だけで排熱を使うものは多くありません。コージェネのエネルギー効率が高いのは確かですが、お湯を供給する熱導管の敷設コストが高く、事業性に乏しいのが原因です。

 欧州でコージェネが普及したのは、国によっては、早くから法的に発電時の排熱利用を義務化するなど、地道に熱導管を敷設してきた歴史があるからです。

 では、国内で「エネルギーの地産地消」がまったく望みがないかと言うと、実は、日本独特の事業の中で、それに近い仕組みが出来る可能性があります。それは、バイオマスではなく、太陽光発電所、それも50kW前後の小型規模のものがカギになるかもしれません。

 FITで普及した事業用太陽光では、1MWを超えるような大規模な発電所が目立ちますが、実際に、最も数が多いのが、出力10kW以上、50kW未満の「事業用低圧」と呼ばれる分野の太陽光発電所です。一般住宅と同様に低圧配電線に接続でき、1000m2(約300坪)程度の遊休地があれば、50kW前後の発電所が建設できるために急激に増えています。件数ベースでは全体の95%、容量(出力)ベースでは30%程度を占めます。

写真1 約50kWの事業用低圧太陽光は市街地に設置されることも多い(出所:日経BP)
写真 1
約50kWの事業用低圧太陽光は市街地に設置されることも多い(出所:日経BP)

 ただ、この50kWの「事業用低圧」は、FITによる買取期間が終わると、規模的に中途半端なため、事業的に成り立たない可能性が高いのです。

 住宅やビルの屋根上太陽光は、小規模でも自家消費に転換することで太陽光パネルなどに再投資し、使い続けられる可能性が高くなります。商用電力の買電単価である10数円~20円/kWh台の価値を持つので、発電コストのハードルは相対的に低いからです。

 一方、需要施設内の敷地になく、自家消費に転換できない野立て型太陽光発電所は、卸電力市場を通じて買い手を見つけることになります。その場合、卸価格は10円以下/kWh。それでも、1MW以上の大規模な太陽光の場合、スケールメリットを生かして効率的に管理すれば、再投資しても事業性を確保できると思われます。しかし、事業低圧太陽光の場合、50kWの小規模な発電所が点々と離れて立地しているため、効率的な管理が難しいのです。FIT後は、事業効率の低さから卸市場の電力と競争するのは難しそうです。

 こうした背景から、長期的な安定電源と位置付けにくい「事業低圧太陽光」は、FIT後を睨み、エネルギー政策上、「厄介者」になりつつあります。

消費者に電気を「直販」

 そんななかで、事業性が保てる数少ない方法が、自家消費と同様に、直接、需要家に電気を販売することです。住宅向けにあれば、20円/kWhで販売できます。しかし、電力会社の送配電網を使うと託送料がかかってしまい、採算が合いません。そこで、近くに立地する住宅や事業者まで自営線を敷設して、電気を供給する事業者が出てくる可能性があります。

 自営線の敷設では電柱を立てるコストが高くなりますが、こうした仕組みを奨励するため、政府が、電力会社やNTTが持つ既存の電柱への電線の敷設を安く開放させるような推進策を打てば、かなり安く自営線を引けるかもしれません。

 また、近くに需要施設がない場合、可搬式の蓄電池に貯めたり、水素に転換して水素ボンベなどに形にして、直接、消費者や企業に宅配するような仕組みも有望です。もちろん蓄電池や水素関連技術のもう一段の革新が前提になりますが、ここ数年の進歩やコストダウンを見ると、その実現も非現実的なレベルではなくなっています。

 実際、その動きはあります。宮城県登米市では、市内に事業用低圧太陽光を持つ民間事業者と「災害における応援協定」を結んでいます。約50kWの37基の太陽光について、災害時など電力系統が停電になった際、パワーコンディショナー(PCS)を自立運転モードに切り替え、非常用電源として、地域に開放します。

写真2 登米市の事業低圧太陽光では、災害時に開放する非常用電源コンセントのボックスを併設した(出所:日経BP)
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登米市の事業低圧太陽光では、災害時に開放する非常用電源コンセントのボックスを併設した(出所:日経BP)

 具体的には、発電所内に可搬型蓄電池を持ち込み、非常用コンセントで充電し、避難所などで、携帯電話や情報機器の電源として活用することを想定しています。

 この例は、非常時のおける社会貢献ですが、FITが終われば、こうした利用法を日常的にサービス化できないかなど、検討課題になるでしょう。このほかにも、国内に大量に設置された「事業用低圧」をいかにうまく生かそうと、今後、ベンチャー企業などが、斬新なアイデアを事業化するかもしれません。

 いずれせよ、事業性のポイントは、「近くの需要家に直接、電気(または水素)を売る」という方向性です。そして、それは結果的に「エネルギーの地産地消」を実現することになります。日本特有の50kWという「中途半端で厄介な太陽光」が、世界に先駆けた、新しい形のエネルギー地産地消の担い手になるかもしれません。

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