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コンテンツマーケティングに踊らされるな!
Nexal上島千鶴氏に聞く(2)

  • コンテンツの成果をどう測るか
  • 2015.11.17

顧客の購買行動が変化し、これまで対面で行っていた「顧客の課題に合わせた情報提供」という営業活動の前半がデジタルに置き換わっている――。こうした流れの中、マーケティングプロセスでコンテンツを活用することが必須となってきた。競争力を強化するため、コンテンツ活用やマーケティング戦略をどう立案し、どう検証すべきか。第1回に続き、Nexal 代表取締役の上島千鶴氏に話を聞いた。

BtoBとBtoCはコンテンツ設計の視点が異なる

――コンテンツマーケティングで最大の課題が、「コンテンツが作れない」ということだと思います。これはどう解決すればよいのでしょうか?

上島氏 「体験要素」と「コンテンツ要素」については、企業側が十分だと思っていても顧客から見るとまだまだ改善の余地があるものがたくさんあります。

 「体験要素」の例でいえば、顧客がスマホで営業拠点の問い合わせ先を検索して電話番号が出てきたものの、数字がアクティブになっていないのでクリックしてすぐ電話をかけられない、などの小さな改善ポイントはしばしばあります。

 また「コンテンツ要素」でいえば、顧客が業界初心者や上司から指示された若手の情報収集担当者なら、業界用語や硬い文章で書かれた解説よりもマンガや用語解説などのコンテンツを、文章にすると解説が長くなるのでもっと端的に伝えたい場合は、文字ではなくアニメーションや実写での動画にするなどの検討が必要です。展示会なら紙のパンフレットを置くだけでなく、来場者が会社に戻った時に展開できるようPDFダウンロードも可能にしたり、デモ用アプリやデモIDを用意して体験してもらうとよいでしょう。このように顧客の視点に立てば、最適な手段や表現、体験やコンテンツ要素はいろいろ考えられます。

 ただBtoBの担当者は、「顧客視点に立つ」ということがBtoCの担当者に比べてやや不得意という傾向があります。中には「なぜうちの製品が選ばれたんだろう」と、自社の強みや評価ポイントさえ説明できないケースがあります。「自社を客観的に見つめ直す」「製品やサービスの潜在的な価値=顧客の課題を棚卸しする」ことが必要です。いずれにせよ、まだ自分のことを知らない相手に自分自身を“伝える”という視点が抜けています。相手は自社を知っているだろうというプライドがある企業ほど、“水漏れ”が激しく、商売の対象を自ら狭めているという、危機意識が低い典型例かもしれません。C向けに社名は知られていても、B向けには事業内容や解決できるソリューション、具体的な製品・サービスは知られていないケースがほとんどです。一度初心に戻り、謙虚になって、自社を見つめ直す姿勢が必要です。

――顧客視点に立つ手がかりとして、ペルソナ(仮想する顧客像)を設定するケースもありますね。

上島氏 そうですね。しかし個人にフォーカスしたペルソナ設計はBtoC商材のやり方で、BtoBには当てはまりません。BtoBマーケティングで「ペルソナありき」で事を進める(Web制作時は除く)人がいたら、その人はBtoBビジネスの奥深さを知らないのでしょう。

 なぜペルソナがBtoBに当てはまらないのかといえば、端的にいえば「衝動買い」がないから。BtoBにおける購買行動は合議制で、誰か1人の意思で勝手に決めるものではありません。商材や購買額によって、決裁フローも合議プロセスも異なるでしょう。

 もちろん、顧客像は企業の中できちんと持っていなければなりません。そういう意味で、BtoBに当てはめるのならば「ペルソナ企業」という顧客像で、合議に関わる組織像や決裁ルートを整理しておきましょう。人としてのペルソナを追求し過ぎると、検証が難しくなり、逆に細かすぎて分かりにくくなってしまいます。

営業部門を巻き込むことが大事

――顧客を知るためにはどうすればよいのでしょうか。

上島氏 自社が顧客にどう評価されているのか分からないのなら、顧客満足度向上プロジェクトの一環として、アンケートやヒアリングを行うのも一手です。ただし理想は、営業部とマーケティング部で協力すること。なぜなら、マーケティング部は仕組みをつくることは得意ですが、製品やビジネスの現場や製品知識は弱い。営業部はマーケがつくる仕組みに積極的に関与し、よい循環体制をつくることが重要です。マーケティングを強化するということは、「組織や意識を変える」「評価制度を変える」「予算配分を変える」くらいの覚悟や変化が必要なのです。

――コンテンツマーケティングはどれか1つの部門が主導になるのではなく、組織横断的に取り組むということでしょうか。

上島氏 基本はその通りですが、それができるのは経営層に“マーケティング脳”を持つ人が在籍しているグローバル企業でしょう。こういう企業はトップダウンでプロジェクトを進められます。

 多くの日本企業は、Web担当者やマーケティング担当者など一部の人が社内を巻き込み、小さな成功体験を積み重ねながら、少しずつマーケティング変革を進めています。例えば自社Webに来訪した企業のアクセス解析の結果1つでもいいので、営業担当者と共有するだけでも違います。数字だけを渡しても意味がないので、アクセス解析の結果とともに、「この企業のIPアドレスから、これだけ閲覧されている」「最近、頻繁にこの商品ページ内を見ている」などの情報を共有すれば、その企業向けに次にどのようなコンテンツをどこで提示するべきか、営業担当者からもアイデアが出てきます。こうして成功体験を組織横断型でつなげ、年数をかけてボトムアップしていくのが現実解でしょう。

コンテンツの成果は最終受注で測る

――コンテンツマーケティングのもう1つの課題は、成果指標です。効果を測るには、どのような指標を設定すべきでしょうか。

上島氏 考え方は2つあります。1つはコンテンツ単体ごとの成果です。各コンテンツがターゲット顧客をどの程度集客し、顧客の行動にどのように影響を与え、最終的な購買に結び付いたか否かという流れを追うことです。ただし、1つのコンテンツが1回の接触で案件につながることはなく、当然、顧客の行動プロセスとコンテンツをひも付け、各コンテンツがどれだけ相互に(間接的に)貢献していたのかを確認しなくては、正当な評価はできません。真面目に分析すると大変な作業になります。

――現実的には難しそうですね。もう1つの成果指標とは?

上島氏 もう1つの考え方は、コンテンツ全体で最終的な受注にどれだけ貢献したかを測る方法です。最終成果に結び付いた割合や受注総額・件数を見るので、測りやすいのがメリットです。いずれにせよ留意すべきは、「最終的な購買や受注をどれだけ呼び込んだか」という考え方。アクセス数やクリック率だけでは、正しい評価はできません。

全体最適を見据えた売り方にシフト

上島千鶴(かみじま・ちづる)氏
株式会社Nexal 代表取締役

大手情報サービス企業での新規事業立ち上げ、複数の外資ITベンダーでマーケティング&セールスを実践し2007年にコンサルティング会社Nexalを設立。ネットとリアルの接点を生かした「地に足のついた現実的なコンサルティング」をモットーに、デジタルマーケティングに関わる部門・レイヤー間を超えた課題解決型ファシリテーションを提供。大手企業や官公庁、グローバル企業を中心に多くの実績を持つ。代表的な著書に『Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング』(日経BPコンサルティング)がある。

――これから5年後、10年後にマーケティングやビジネスはどう変化するとお考えですか。

上島氏 顧客の体験設計から、全体最適を見据えた見せ方や売り方へとシフトしていくでしょう。現に、今でもこの萌芽を感じています。

 繰り返しお伝えした通り、BtoBでいえるのは、過去の成功体験に引きずられずに売り方自体が変わっていくということ。国内の人口分布図を見ても明らかなように、これから働き手は減少していく傾向にあるからです。実はある大手企業で社員の人口分布図をつくり、10年後に人数や年齢構成がどう変わるか見てみました。社員数が最も多いのはバブル時代の層で、その後減少傾向にあり、リーマンショック後は採用ゼロ、最近の採用数は増えているものの基本的には全体数が減っていきます。一番の働き手である30代前後がいない企業が多いのです。

 あと10年もすればバブル期の社員が退職するので、これまでと同じ機動力を保つことができなくなるでしょう。顧客の買い方に合わせて、売り方も組織自体も変えていくしかない。定年の時期を伸ばしたとしても、足で稼ぐ機動力・体力を求めるには厳しい現実が待っています。

――どのように変わるのでしょうか。

上島氏 前述の企業では現在、顧客をドアノックで訪ねるという「足で稼ぐ」方式ではなく、顧客を呼び込む方式(対話)を基本とした体制づくりを考えています。具体的には、コンテンツをベースに電話やメール、対象によっては再来訪を促すリマーケティング広告、国外はソーシャルメディア連携で顧客とコミュニケーションを重ねながら営業を行う「非対面営業部隊」を立ち上げようとしています。顧客の状態を把握してタイミングを見ながら最適な提案を行うため、社内ベテランから成る「マーケティング寄りの部隊」になる予定です。最終的にはアカウント顧客以外は、全てECに移行する戦略も数年後に控えています。

 今、日本企業の多くは実績で評価される営業組織の発言力が強く、マーケティング担当といえば営業部付きか、もしくは「営業企画部」という形で営業からの指示を受けて動いています。近い未来は、営業として第一線で動いていたベテランがデジタル知識を身に付けながら中核機能(司令塔)を担い、マーケティング戦略を立て、対面営業部に指示を出して最適なアプローチ法を見計らうといったことが起きるのではないでしょうか。

 単に注文書を取ってくるだけの営業員はいなくなり、顧客以上に専門的な知識を要した人材、相手の課題に合わせて柔軟に対応できるマルチな人材のみ、顧客と会うことが許される、そんな将来イメージを抱いています。

――コンテンツの役割は大きくなりそうですね。

上島氏 人手の足りないところや未開拓市場のホワイトスペースは、当然コンテンツを活用する形でプロセスを組み立てるでしょう。当然、デジタルの活用も進むでしょう。すでに私たちの生活にデジタルは浸透していて、スマホで検索しているときに「これはデジタルだ」なんて意識していませんよね。デジタルが当たり前の環境の中で、顧客が欲しいときに必要なコンテンツをどう提示するかを設計し、より早く深いところで顧客にリーチすることが、今後のマーケティングのカギになるのではないでしょうか。

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