いま注目される「グループ報」~企業コミュニケーションの新潮流~
グループ報とは、グループ会社に属する従業員やステークホルダーに向けて経営方針やグループ戦略、各社の事例、社会貢献活動などを定期的かつ体系的に発信するメディアを指します。従来の社内報が「単一企業内部のコミュニケーションツール」であるのに対し、グループ報は「グループ全体を横断してつなぐハブメディア」です。各子会社の事業領域や文化の違いを超えて、グループの一体感形成や意思統一を図り、全体戦略を隅々まで浸透させることが主な目的です。
グループ報への三つの期待
グループ報には、主に次の三つの効果が期待できます。第一に、グループ全体の一体感や連帯感の醸成に役立つ点です。グループ会社間の情報を共有し合うことで、互いの強みや特徴を理解し、グループとして同じ方向を向く土壌が生まれます。第二に、経営方針や成功事例の迅速な共有です。トップが描く未来像やグループが目指す姿を、現場の取り組みや成果と紐づけて紹介することで、従業員の納得感と実践意欲が高まり、経営と現場をつなぐコミュニケーションが強化されます。第三に、現場の声を可視化し従業員のモチベーション向上につなげられる点です。自社だけでなくグループ全体での活躍や成果を認め合う文化が根づき、それが自信につながるだけでなく、誇りやチャレンジ精神の醸成になるのです。
グループ報 期待できる三つの効果
- グループ全体の一体感や連帯感の醸成
- 経営方針や成功事例の迅速な共有
- 従業員のモチベーション向上
グループ内の絆を育む
グループ報をつくるという行為は、「うちのグループのアイデンティティ」を改めて自問する機会になります。そして、その延長線上で、「次の世代に受け継ぐべきものは何か」という輪郭をより明確に認識できるようになります。グループ報の担当者がグループのアイデンティティを認識するようになり、グループ報を読み続けた読者は、少しずつ「うちのグループ」が何であるかを感じ取っていく――。こうして、違う会社でありながら、何らかの共通項(人、資本、かつての親子関係など)でつながったグループの連帯感を作り上げていくのではないでしょうか。
一例を紹介しましょう。あるグループ報では、「新人研修」をテーマに各社の人事部による座談会を実施し、誌面およびWebサイトに掲載しました。グループ各社の人事担当者はそれぞれが普段行っている新人研修の内容や工夫、直面している課題などを率直に語り合いました。これにより、単なる情報交換にとどまらず、グループ横断で現場の悩みや課題を共有できたことは大きな成果です。例えば、「研修で新人の定着率を高めるための工夫」や「キャリアパスの設計」など、普段は社内で完結してしまいがちな話題を、グループ全体でオープンに話せる機会となりました。また、交流を通じて各社の人事担当者が知り合い、今後のネットワークを構築するきっかけにもなりました。さらに、異なる企業文化や背景を持つ担当者同士が認め合い、共感し合う雰囲気が生まれています。このようなグループ報を通じた座談会の企画は、情報発信だけでなく、組織を横断した現場力の強化やコミュニケーションの深化、相互理解の促進に寄与しています。こうしたグループ内の交流企画は、グループ全体の結束力が高めていく1つの方法といえます。
複数メディアでの発信が主流に
グループ報は、多様化する従業員に合わせて、オウンドメディアや動画、社内SNS、メールマガジン、冊子など複数メディアによる発信が主流化しています。社内アンケートやコメント機能、現場発の企画の掲載など双方向型コミュニケーションを強化する動きも活発です。トップダウン型の発信だけでなく、読者である社員やステークホルダーの声を吸い上げ、コンテンツに生かすことで、コミュニケーションの回数を増やし、密度を上げる=コミュニケーションの量と質を上げるのです。また、グローバル展開企業では、英語をはじめ多言語で情報を発信し、世界中の従業員が同じ情報をタイムリーに受け取れる体制づくりも行われています。
先進事例として、パナソニックグループのオープン社内報があります。1927年に創業者の松下幸之助が発刊した『歩一会々誌(ほいちかいかいし)』以来100年にわたるパナソニックグループの社内報の歴史をくみ、グループコミュニケーションマガジン「幸せの、チカラに。」を2024年3月にインターネット上で公開しました。2025年6月からは「Panasonic Newsroom」に統合、新たなオウンドコミュニケーションメディア「Panasonic Stories」としてリニューアルし、パナソニックグループの現在地や、経営戦略の方向性とその具体的進捗、挑戦する姿勢をタイムリーに伝えています。
キリンホールディングスでは、グループ長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」の実現を目指すツールとして、インターナルブランディングWebサイト「KIRIN Now」を2021年に開設しました。このサイトは、国内約2万人のグループ従業員を対象に、イントラネット環境が異なる各グループ会社からも全員がアクセス可能な仕組みとなっており、グループを横断したイノベーション創出に貢献する情報を発信しています。また、コメント欄や「いいね(ワクワクボタン)」機能を設けることで、経営と従業員の双方向コミュニケーションの場としても活用されています。
広がるグループ報活用の可能性と留意点
業界・文化・立場の異なる各社をまとめつつ、グループ全体の一体感や企業文化を醸成するには、時間も手間もかかるでしょう。しかしグループ報は、「全社の方向性をそろえる」「現場の力を引き出す」「社外にもグループの価値を伝える」ことができる、新時代の広報ツールです。グループ報を最大活用することが、今後の企業グループの成長力や競争力を押し上げる鍵となるでしょう。
もちろん、グループ報をつくりさえすればよいのではなく、「何を載せるか」の十分な検討が必要です。スペースを各社持ち回りで埋めていくだけでは無秩序なよろずコーナーになりかねません。「このグループのつながりは何か」に立ち戻り、例えば経営理念に合致した活動を載せていく、グループの源流に紐づけられる技術や事業のトピックを紹介するといった何らかの意義を明確にすることによって、読んだ人のグループへのロイヤリティが高まり、「あの技術をつくった会社、うちのグループなんだよね」と親近感が沸く、といった効果が期待できるのではないでしょうか。
グループ報をより効果的に運用するためには、目的の明確化や編集体制の工夫が重要です。日経BPグループのスペシャリストが、導入事例を紹介します。ご興味がございましたらお問い合わせください。