イベントレポート<「変える広報、変わる大学」 大学広報メディアアワード 2025> 審査結果発表会開催
日本の大学が、大きな岐路に立っている。2024年度の大学進学率は過去最高を記録したが、18歳人口の減少により、来年から、進学者数が減少に転じる、大学の「2026年問題」が迫っている。学生獲得を巡る大学間の競争は激化し、大学の広報やブランディングにも、これまで以上に高い戦略性が必要だ。加えて、大学のパーパスや社会課題の解決への道筋を示すなど、広報が扱うテーマも増えている。
こうした状況を受け、当社の大学ブランド・デザインセンター(BDCU)では、大学広報の戦略立案や施策支援を行ってきた。そして今回、全国の大学における広報活動の新たな可能性を開くことを目的に「大学広報メディアアワード」を創設し、2025年11月28日に審査結果発表会が行われた。
全国から189点もの作品が集結
本アワードは、全国の大学による広報活動を体系的に評価し、企画・編集・デザイン、デジタル表現における優れた取り組みを顕彰することで、大学広報の質の向上を目指すものである。長年、企業向けブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」(https://consult.nikkeibp.co.jp/premium/lp/brand-japan25th/)を主導してきた当社が、大学広報の未来を見据え、「大学広報のプロフェッショナリズム」を社会に可視化する初の試みとして、大きな注目を集めた。
応募総数は全国84大学から189点に上り、広報誌、デジタルコンテンツ、動画コンテンツの3部門、また、スピンオフ企画として、動画コンテンツ・次世代高校生共感部門で審査された。この応募数の多さは、大学広報関係者の本企画に対する関心の高さを裏付けた。
応募総数は全国84大学から189点。広報誌、デジタルコンテンツ、動画コンテンツ、また、動画コンテンツ・次世代高校生共感部門で展開。
当社寺山正一社長は「優れた作品を期待していたが、それ以上の熱量と工夫に心を打たれた」と述べ、広報担当者の真摯な姿勢に敬意を表した。さらに、「広報で最も難しいのは技術ではなく、伝えたい『何か』を持ち続けることだ」と指摘。大学が自らの存在意義を問い続け、その価値を社会に届けようとする強い意志が、応募作品の根底に流れていることを強調した。
自校の価値を言語化・映像化した9つの受賞作
各部門の審査は、企画・設計・独創性・デザイン・テキストの5項目を基準に実施された。特別審査委員である林信貴氏(株式会社解 代表取締役)をはじめ、荻原実紀氏(株式会社コトヴィア 代表取締役)、宮城秀雄氏(映像ディレクター)ら外部審査員を交えた厳正な評価体制が敷かれた。
その結果、本アワードでは、4部門において、計9大学が金賞に選ばれた。各大学の受賞コメントを見ていこう。
広報誌部門
秋田県立大学『Roots』は、学生の“原点=ルーツ”に迫る構成。佐藤琢麻氏(企画・広報本部 広報・渉外チームチームリーダー)は、「工学系と農学系の2学部を持つ大学として、異なる学問領域から、毎号共通するキーワードをひねり出すのが難しく、醍醐味でもある」と語った。
秋田県立大学 「センパイの研究のルーツにせまる研究情報誌『Roots』」
高知県立大学『人生図鑑』は、卒業生23名の人生を「過程」から描いた冊子。久野絵美氏(学長室 戦略広報課 主任)は「大学での学びは、知識や資格取得にとどまらず、その人の価値観形成に深く影響する。卒業生の歩みを社会に伝えることは大学広報の重要な使命」と述べた。
高知県立大学「人生図鑑」
長崎大学『Choho』は、卒業生と保護者向けに、学部横断の取材で“知の広がり”を表現。松井史郎氏(副学長、広報戦略本部長)は「リニューアル当初は疑問の声もあったが、今回の受賞は関係者が積み重ねてきた挑戦が評価された証」と語った。
長崎大学 「Choho Vol.86」
デジタルコンテンツ部門
大阪大学『Dialogue』は、大学と社会の「対話の場」を創出。岡堅太氏(広報・ブランド戦略本部 副本部長、准教授)は、「今回の受賞は、大阪大学だけでなく、社会と大学の境界を越えるメディアを目指してきた取り組みが評価された証」と語り、「他大学の皆さまへも取材に伺いたい」と、全国の大学と共に広報の未来をつくる意欲を示した。
大阪大学 「大阪大学Dialogue」
関西学院大学は、スクールモットー『Mastery for Service』を軸に、卒業生の言葉で構成。中谷良規氏(広報部 企画広報課 課長)は、「本学の強みは何か? を学内で徹底的に議論し、原点に立ち返って、スクールモットーに込められたメッセージを社会に発信することになった」と振り返る。
関西学院大学 「ブランドサイト『Mastery for Service』」
北見工業大学はブランドサイトにおいて、厳しい四季を同大学が掲げる「自然と調和するテクノロジー」の象徴として再定義。内島典子氏(広報戦略室 副室長)は、「このサイトは北見工業大学のアイデンティティそのもの。金賞受賞によって自分たちの方向性に確信が持てた」とブランド確立への手応えを示した。
北見工業大学 「北見工業大学ブランドサイト」
動画コンテンツ部門
近畿大学の『近大UP』は、大学をラップで紹介し、全国のキャンパスを巡る構成が話題に。稲葉美香氏(経営戦略本部 広報室 室長)は「伝えたいメッセージを力強いリリックに込められるラップは、近畿大学の“熱さ”を表現するのに最適だった」と述べた。
近畿大学 「近大UP」
国際教養大学『Twenty Years of AIU』は、卒業生や教職員の声を通じて20年の挑戦を振り返る。小野正則氏(学長特別補佐 兼 事務局長)は、「受賞はコンテンツの価値だけでなく、大学改革の最前線を歩んできた20年間そのものが評価されたと受け止めている」と語った。
国際教養大学 「Twenty Years of AIU / 国際教養大学20年の歩み」
動画コンテンツ・次世代高校生共感部門
高校生が選んだ作品は、昭和音楽大学による『Welcome to Showa University of Music』。言葉を使わず、学生の表情や音楽、舞台の熱量で大学の姿を伝えた。横田真希氏(企画広報部 入試広報室 室長代理)は、「学生の飾らない姿が作品の中心。使用した音楽も学生のオリジナルで、出演・撮影・制作すべてが“昭和音大の物語”そのもの」と語り、高校生に動画に込めた思いが届いていたことを喜んだ。
高校生の審査員代表からは、「情報量の多さではなく、どんな学生生活が待っているのかを想像できるかが、私たちの心に響いた」という評価基準が示された。この結果は、次世代層に対する広報が、感情や経験のリアリティを伝えることに重点を置くべきであることを示唆している。
昭和音楽大学・昭和音楽大学短期大学部
「昭和音楽大学~Welcome to Showa University of Music~『わたしが夢中になれる場所』」
“価値の再発見”から始まる大学広報の本質
特別審査委員を務めた株式会社解の林信貴氏は、「大学がいかに本質的に自らの価値を見つめ直したか」という視点を最も重視したと振り返る。電通で30年以上にわたり戦略プランナーとしてブランド開発を牽引してきた同氏は、「自分たちは何者であり、なぜ社会に必要なのか。この価値の再発見こそが広報活動の原点となる」と強調。表現技法を磨く以前に、核となる価値を正しく定立すべきだと説いた。
また、メディア環境の変化について、林氏はデジタルコンテンツが「人々の感情を揺さぶる破壊力のあるクリエイティブ」を生み出している現状を評価する一方で、紙媒体も「ストック情報のためのメディア」として保存性が再認識されているとし、デジタルとアナログ両面で広報の可能性が広がっていることを実感したと述べた。
ブランド本部長兼大学ブランド・デザインセンター長の吉田健一は、今後の大学広報が担うべき役割として「共創」を掲げる。大学は多様なステークホルダーと共に価値を生み出す場であり、広報はその媒介役となるべきだという考えだ。「一方向の伝達から、多様な人々を巻き込み、対話や協働を生み出すプラットフォームへの進化」が不可欠だと語り、本アワードがその明るい未来を予感させてくれるものだったと述べた。
両氏の総評に通底するのは、大学広報が単に「情報を届ける」段階から、「社会と共に価値をつくる」営みへと深化している点だ。手段が複雑化する今、求められる本質はむしろシンプルである。すなわち、自校の価値を深く理解し、社会との対話を続けること。この2点が今後の根幹であり、本アワードはその重要性を映し出す鏡となった。
閉会の辞では、第2回目の大学広報メディアアワードの開催も、合わせて発表された。大学広報の未来を切り開くのは、現場で日々奮闘する担当者だ。その努力を称え、知見を共有して次へとつなぐ場として、本アワードの重要性は今後さらに増していくに違いない。
本アワードの審査結果の詳細は、日経BPコンサルティングのウェブサイト(https://consult.nikkeibp.co.jp/bdcu/award2025/winners/)で公開されている。
ブランド本部 ブランドクリエイティブ部 兼 大学ブランド・デザインセンター コンサルタント
廣田 亮平
2007年に日経BP企画(現・日経BPコンサルティング)に入社。大学出版グループに配属され、日経BPムック「変革する大学」シリーズ等の編集を担当。以降、大学の広報誌、ウェブサイト、動画、周年プロジェクト等の企画立案から編集ディレクション、制作などを多数手がける。現在は、大学のブランド戦略・広報活動をワンストップで支援する大学ブランド・デザインセンターのコンサルタントとして大学のブランディングにかかわるさまざまなコミュニケーション課題の解決に取り組む。
※肩書きは記事公開時点のものです。

