ブランド価値評価調査の活用事例
ブランド調査を通じて突き付けられた「認知度の壁」 将来に向けた施策のためにカスタマイズ調査を活用する
聞き手=新井 徹 文=大塚 千春 写真=新井 徹
初めに、メタウォーター様の事業について教えてください。
当社は、2008年4月に設立された新しい会社で、浄水場や下水処理場、資源リサイクル施設の設計・建設、運営、運転、維持管理を行っています。将来の水・環境インフラにおける公民連携を見据えて、上下水道施設・設備で多くの実績を持つ日本ガイシと富士電機の水環境事業を統合し発足しました。上下水道および資源リサイクル施設を支える独自の機械・電気技術とI0T、維持管理ノウハウが強みです。
国内では公民連携を成長分野と捉え積極的な受注活動を展開していますが、最近のトピックスとしては、宮城県で「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」を代表企業として受託しました。これは、水道、下水道、工業用水の施設の「所有権」は県が保持したまま、運営権を20年間、民間の企業グループに委託する国内初の事業です。
海外では、これまで欧米の水処理サプライヤー7社を子会社化しました。それぞれが有するユニークな技術・製品で、上下水道の水処理から汚泥処理、生活水を作る再生水事業などを手掛け、水不足や環境規制の強化を背景に事業を拡大しています。
国内、海外の好調な受注により、2025年3月末の受注残高は前年同期比約16パーセント増の3,187億円で過去最高を記録。2028年3月期までの「中期経営計画2027」の目標を2年前倒しで達成できる見通しです。
千葉さんはメタウォーターで、いつからどのような仕事をされてきたのでしょうか。
メタウォーターには2014年3月に中途入社しました。前職でも長く広報・IRに携わっており、その経験を生かした仕事をしています。業界は違いますが、広報としての仕事の基本は同じです。
コロナ禍をはさみ、2、3年おきに調査のご依頼をいただいています。ブランド価値評価調査をやってみようと思ったきっかけを教えてください。
それまでも企業ブランド調査は行っていたのですが、広告出稿を担当した広告代理店の「サービス」のような形でした。そのため、当社の現在地(企業認知)、広告宣伝やイベントの成果の確認ができていなかったと言わざるを得ません。そこで、きちんとコストをかけて、第三者の視点からの調査をしようと考えたわけです。
定点的に調査をしていただいていますが、成果は活用していただけていますか?
これまでに3回、調査を行いましたが、残念ながらその間の「企業認知度が低い」、「ブランド力が弱い」といった、ネガティブな評価の改善はほとんど見られませんでした。コロナ禍をはさんだことで、企業価値を高めるための具体的な施策をなかなか打ち出せなかったこともあります。しかし、逆に調査結果から、これから本腰を入れて対策を講じなければ、企業価値を高めることができないと痛感しました。
当社のようなコンシューマーを顧客としないBtoBやBtoGの企業も、しっかり広告宣伝をする時代になりました。企業認知度、ブランド力を上げていかなければ優れた人材を確保できないし、企業価値向上にもつながりません。
そこで、最新の調査では調査内容を見直しました。これまではベースとなる調査のみ行っていたのですが、具体策を練り上げていくためにどんな情報を得たらよいかを考え、調査項目を追加しました。
メタウォーター株式会社
経営企画室 コーポレートコミュニケーション部部長
千葉 弘行 氏
でてきた結果は社内で共有されていますか?
経営陣ともシェアをし、現在の状況から必要なアクションを議論しています。人材の確保は今後、より難しくなっていきますし、株主や若い投資家にも応援をしてもらえる企業でありたい。「認知の壁」を超えるためにはどうしたらいいか。それを明確にしていく材料として、調査項目をカスタマイズしました。
評価の把握だけでなく、今後の施策のための参考資料にしていただいているのでしょうか。
例えば、10年後、20年後には、当社としてどのような「姿」になりたいかを考えることが重要です。そうした「姿」を描くための材料の一つにしたいと思っています。重要業績評価指標(KPI)の達成はもちろん大切ですが、自分たちがステージアップしていくためには、どう社会に対してコミュニケーションを図っていくかを考えなくてはいけない。現在の企業認知度の延長線上だと、自分たちが描いている世界観と相当乖離があると思われます。業績を上げ、それに見合う期待感を社会から得てさらに飛躍していくために、企業認知度、ブランド力を目指す「姿」に相応しいレベルに高めていくことが必要です。全く知らない企業の発言と、ブランドとして認知していただいている企業の発言とでは、同じ内容でも受け取り方が異なってしまいます。
弊社に調査をご依頼いただいた理由や調査結果の評価について教えてください。
シビアな分析をしてもらえることが一番の理由でした。そして、調査の結果からは厳しい現実が見えました。広告代理店のサービスの調査では、毎年認知度が上がっているというような結果が出てきましたが、冷静な評価をしてもらえた。地域別の結果も出してもらったところ、地方は首都圏よりさらに認知度が低かった。一方で、前述の「宮城県上工下水一体官民連携運営事業」に関して、繰り返し報道された宮城県では、認知度が高かったんです。あれだけメディアで報道されれば、認知度が目に見えて上がることを実感しました。
日経BPコンサルティングの調査には設計の自由度があり、最新の調査ではリクルートを主眼とした調査をお願いしました。この様に、こちらの要望を反映できることもメリットに感じています。ベースとなる評価調査に、その都度知りたい項目を加えることができる設計は助かります。
また、毎回異なる調査会社に依頼してしまうと、過去の結果に対して現在がどうであるかという分析が正確にできません。トレーサビリティがなくなってしまう。同じ厳しい物差しで評価してもらえることが重要だと考えています。
今後の課題や、それに対して具体的に考えてられている施策があれば教えてください。
次のステージに向かうために、今、当社には何が足りなくて本当は何をすべきかを明確にすることが課題です。企業価値を向上させるにはどうしたらいいか、企業価値を高めてくれる人材をどう確保していくか。従業員エンゲージメントを高めていくことも課題です。従業員同士がどう共感し、協働していくか。そうした社内のあり方を踏まえて、どうステークホルダーとコミュニケーションを図っていくか。これらが、今後力を入れるべき点だと考えています。
もっと質の高いメディア対応も必要でしょう。積極的な情報発信はもちろんですが、どのようなツールを使うのか、デジタルをどう活用するかも頭を悩ませるところです。Webサイトだけではなく、動画や音声、SNS、アプリなど、伝えたい相手やタイミングによっても、メディアも異なるでしょう。今は発信する量もですが、デジタルコンテンツがまだまだ足りません。最新の調査結果の内容を活用しながら、将来の当社のコミュニケーションのあり方を考えていきたいと思っています。
公式SNSによる情報発信にも取り組まれていますよね。
社会のみならず、社員の大半が日々SNSを使ってコミュニケーションを図っているのに、当社の公式SNSがないのはどうかということで、コロナ禍後に始めました。公共事業に携わる企業でもあるので慎重な運用を考え、発信のみの形で2022年4月にインスタグラムを、2023年4月にXを開始しました。
実は、当社は2015年よりTBSラジオで「メタウォーター presents 水音スケッチ」というオリジナル番組を放送しています。日本各地の水風景を紹介する内容ですが、ラジオのホームページに掲載するために取材班が写真を撮ってきており、それをご提供いただき、オンエアと合わせてインスタグラム、Xで紹介しています。また、SNSでは、採用やイベントの告知も行っています。採用に関する告知は、SNSを始めるにあたって特に意識したことの一つで、社員の活動もこまめに紹介。現在は発信のみですが、いずれインタラクティブにし、より広いコミュニケーションを図っていきたいと考えています。
メタウォーター株式会社
コーポレートコミュニケーション部部長
千葉 弘行 氏
2014年メタウォーターに中途入社、広報IR部配属となる。19年4月広報IR部部長、21年10月よりCSR 推進室室長を兼務、22年4月コーポレートコミュニケーション室室長兼コーポレートコミュニケーション部部長に就任、24年10月から組織改編により経営企画室 コーポレートコミュニケーション部部長。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
新井 徹
※肩書きは記事公開時点のものです。