東武鉄道125周年誌に込めた、未来を見据えた軌跡と記憶
25年の軌跡を未来へ――“生の声を”記録する意義
東武鉄道で125周年誌の企画が始まった背景には、「今でなければ間に合わない」という切実な理由があった。
東武鉄道百年史が発行されてから25年が経過していた。
「150周年では関係者の多くが定年を迎えてしまう。125年という区切りは、“1990年代当時の出来事を知る人に話を聞ける”最後のタイミングでした」と、相原氏は周年誌を企画した背景を語る。この25年間は東京スカイツリータウンのオープンをはじめ、特急「スペーシア X」の運行開始、竹ノ塚踏切事故、そして社内風土が変化していった激動の時代でもあり、“ただの通過点”ではない特別な意味を持つタイミングだったという。
制作体制について、佐々木氏は「その場で『これどうする?』とすぐ相談できる体制だったからこそ、推進力と判断スピードを確保できました」と振り返る。専任の編纂チームが会議室に常駐しながら進め、ブロックごとに担当を分け、各企画に期限と役割を設定して丁寧に仕上げていった。
読み応えと実用性―180ページの“社外PRツール”へ
「会社に保管されていた大量の資料を整理し、今後に引き継げる基盤を整えられたことも大きな成果です」(相原氏)。紙焼き写真のデジタル化やイントラネットの整備を通じて、社内アーカイブ体制の構築にも注力した。こうした作業は将来にわたって東武鉄道の歴史や知見を継承する土台となる。
冊子は180ページ構成で、東京スカイツリー®を使った表紙に始まり、25年間の主なプロジェクトを丁寧に振り返っている。未来編として社員による座談会や外部企業との共創事例を紹介し、東武グループの“これから”も描いた。
「未来年表の作成には特に力を入れた」と語る佐々木氏。東武鉄道の“次世代”を担う社員に参加してもらい、東武グループがどんな未来を描くかをリアルに考える機会となった。未来年表について語り合う座談会では普段一緒に仕事をしていないにも関わらず活発な意見交換が行われ、東武鉄道の「社員同士のつながりの強さ」が自然に表現されたという。
反響と活用の拡がり―社内外からの声
「社内から『自分の仕事がこうして歴史に残って嬉しい』『未来年表の内容に刺激を受けた』といった声が多く寄せられました。若手社員にとっては会社の成り立ちを知るきっかけにもなったようで、想像以上に前向きな反応がありました」と、相原氏は完成後の反響について語る。
冊子は東武鉄道社員やグループ会社に配布されたほか、取引先、沿線の図書館や教育機関にも寄贈されており、東武グループの価値を伝える広報・採用ツールとしても活用されている。
「『冊子を読みたい』『購入できないか』といった問い合わせもあり、内容の厚みや使いやすさが伝わっていると感じています」(佐々木氏)。取引先や自治体への説明資料としても活用され、企業PRツールとしても高い評価を得ているという。
記録から共感へ―つくる過程が生んだ学びと対話
佐々木氏は「周年誌づくりは初めての経験で手探りの連続でしたが、社内外と調整しながら進める過程そのものが大きな学びでした」と、制作を通じて得られた気づきや成果を語る。資料の精査や写真の再整理、“肉声”の収集を通じて、臨場感と想いが伝わる誌面に仕上がった。編集方針としても記録性と共感の両立を重視し、結果として社内の対話を生むきっかけとなった。
「会社全体の歩みや挑戦の歴史に触れることで、改めて東武で働く人たちへの親しみや尊敬の気持ちを強く実感できました」と、語る相原氏。周年誌という枠を超えた“社内をつなぐ対話のきっかけ”にもなった取り組みは、多くの気づきと誇りをもたらしたようだ。
東武鉄道株式会社 創立125周年誌編纂チーム
佐々木 陽子氏(写真左)
相原 加奈氏(写真右)
東武鉄道株式会社
鉄道を中心とした運輸事業のほか、レジャー、不動産、流通事業など幅広く展開。東京スカイツリーを中核とした都市開発をはじめ、地域社会との共創を通じて新たな価値の創出を目指している。
創立: 1897年
本社: 東京都墨田区押上2丁目18番12号
事業内容: 鉄道事業、自動車運送事業、不動産、ホテル、観光・レジャー施設の運営など
従業員数: 3,280名