イベントレポート<NBPC BRAND DAY 2025【第2部】>

エビデンスに基づくブランドコミュニケーションで成果を上げる

  • 金縄

    ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 金縄 洋右

2025年4月18日(金)、日経BPコンサルティング主催「NBPC BRAND DAY 2025─『ブランド・ジャパン』25周年記念─」が、東京・品川のコンファレンスセンターにて午前・午後の2部制で開催された。午後に行われた第2部では、「未来につながる企業コミュニケーション」をテーマに、マーケティング、広報メディア、インナーブランディングのトレンドや成功事例を紹介。ブランド戦略の立案から実行までの知見を共有し、企業価値向上に生かせるヒントを提供した。本記事では第2部の様子をダイジェストで紹介する。

第1部はこちら
文=岸のぞみ 写真=齊藤哲也

中野 恵子

株式会社日経BPコンサルティング
取締役 中野 恵子

「NBPC BRAND DAY 2025」の第2部は、日経BPコンサルティング取締役 中野恵子の挨拶でスタートした。中野は「ブランドを客観的に根拠付けるものがエビデンスであり、エビデンスとは、そのブランドは何がよいのか、なぜよいのかといったイメージを可視化するもの。第2部ではエビデンスに基づいたブランディングを実践し、成果を上げている企業に、事例を紹介していただきます」と語った。

「インナーブランディング」で会社への興味・関心・愛着を醸成

企業の実践事例として、まずMIXIのデザイン本部ブランドデザイン室室長 安井聡史氏が登壇。「「心もつなぐ」文化の浸透―MIXIらしさの実現に向けたデザイン組織のチャレンジ―」と題して、社内にブランドを浸透させる「インナーブランディング」の実践について語った。

「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というパーパスを掲げるMIXIでは、コミュニケーションの頻度や量ではなく「質」を大事にしているという。「感情が動くことを『エモい』というが、そのエモさのようなものを大切にすることが豊かなコミュニケーションにつながるはず。そこから結果的に幸せな驚きにあふれた世界を作れたら、と考えて、奮闘している」と安井氏は述べた。

安井 聡史 氏

株式会社MIXI
デザイン本部 ブランドデザイン室 室長
安井 聡史 氏

現在MIXIの柱となる事業は大きくスポーツ、ライフスタイル、デジタルエンターテインメントの3領域。安井氏は、「スマホゲームの「モンスターストライク」や家族アルバム「みてね」におけるユーザー基盤を強みとしているものの、一般生活者におけるMIXIの企業イメージはいまだにSNS「mixi」にとどまっている状態であり、展開している各サービスとMIXIとのひもづけに課題を感じていた」と背景を説明した。

そこで、各事業を「心もつなぐコミュニケーションの場と機会を提供する」という1つの価値観で束ねることを決定。またグローバル展開も視野に入れ、2022年10月には社名をカタカナ表記の「ミクシィ」から英語表記の「MIXI」へと変更し、ブランドリニューアルが始まった。

当時、社内には外部に向けたアウターブランディングに力を入れようという声もあったという。だが「従業員への浸透が不十分なまま、社外に目を向けるのにはリスクがあると考えた」と安井氏。そこで、まずはインナーブランディングの強化に注力することへ舵を切ったと説明する。

従業員へのブランド浸透をアンケート調査したところ、結果は悪くなかったが、回答率は約6割にとどまった。「無回答の従業員はそもそも会社に対する関心が薄い可能性がある。実際に表れている数値ほどいい状況とはいえないのではないかと考えた」と安井氏は解説。コーポレートブランドへの興味・関心・愛着を持ってもらうため、社内飲料の紙コップやフリーの打ち合わせスペースをコーポレートカラーの赤とオレンジで構成するなど、コーポレートブランドをフレンドリーに感じられるような文化醸成に注力したと語った。

2024年に行ったブランド浸透度のアンケート調査は、人事が行っている組織サーベイと合同で実施。結果として、以前約6割だった回答率は97%にまで上昇したという。また、浸透度の肯定評価における絶対数は増えており、「インナーブランディングの浸透度は少しずつ向上しているといえる。ここからいよいよ社外向けのアウターブランディングにも力を入れていく」と安井氏は講演を締めくくった。

経験や勘に頼らない、エビデンスベースドな意思決定を

続いて、日経BPコンサルティングのブランド本部ブランドコミュニケーション部長伊藤憲が「ブランドコミュニケーションの実践を見据えたエビデンスの必要性」について語った。

伊藤 憲

株式会社日経BPコンサルティング
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部長
伊藤 憲

「日本国内の溺死事故が最も多い場所はどこか?」と問われたら、どう答えるだろうか。地域や川の名前を思い浮かべる人が多いかもしれないが、正解は「浴室」だ。「私たちは思い込みや先入観にとらわれ、意思決定の合理性を欠いてしまうことがある」と伊藤は指摘する。

この認知バイアスによる意思決定エラーを防ぐカギとなるのが「エビデンス」だ。直感ではなく、客観的なエビデンスを活用することで、正しい意思決定ができる。伊藤は「先行きが不透明な時代においては、ますますエビデンスに基づいた意思決定が必要になる。認知バイアスを完全に排除するのは不可能だが、認知バイアスを補正し、より客観的な質の高い意思決定は可能だ」と強調した。

ブランディングにおいても、エビデンスに基づいて戦略を考えていくことが必要になる。伊藤は「課題が抽出できた後、コンセプト設計、目標設定のプロセスにおいてもエビデンスをベースにすることでより効果的なブランドコミュニケーションを実践できる」と、エビデンスの重要性を強調した。

組織の理念や取り組みを、広報活動でしっかり伝える

橋本 修一 氏

一般財団法人あんしん財団
業務執行理事
橋本 修一 氏

続いて、あんしん財団 業務執行理事の橋本修一氏が登壇した。日経BPコンサルティングの編集担当補佐 雨宮健人との対談形式で、「広報誌を通じたブランディングおよび顧客企業とのコミュニケーション」について語った。

中小企業向けに「ケガの補償」「災害防止」「福利厚生」を1つにした独自サービスをあんしん財団は提供する。経営企画部広報課では、広告事業を展開する。

「ブランディングとは、その組織が持つ理念やミッションに対していかに真摯に向き合い取り組んでいるか、に尽きる。ブランドが失墜する会社は、利益だけを追い求め、掲げる理念と行動とが乖離(かいり)している場合が多い」と橋本氏は指摘。まずは理念やミッションを実直に実践し、広報活動によってそれを的確に伝えることが重要だと強調した。

雨宮 健人

株式会社日経BPコンサルティング
編集担当補佐
雨宮 健人

広報活動について、橋本氏は「財団の認知度アップと業務推進支援の2つを目的にしている」と解説。広報活動の結果、2019年2月に21.5%だった認知度が2024年12月には44.4%にまで向上した実績を紹介しつつ、「認知度が上がったことで、営業活動がスムーズになった」と話した。さらに副次的な効果として、「身内が働く会社が有名になると、従業員や従業員の家族も誇らしい気分になる」点を指摘し、広告やテレビCMが従業員のエンゲージメント強化につながると述べた。

あんしん財団ではブランディングのための広報活動として、月1回、広報誌『あんしんLife』を発行していたが、2025年4月から冊子版を終了し、完全Web化した。理由について橋本氏は「冊子版は、配布先企業の社長が手に取ったきりになるケースも多かった。顧客企業の従業員の方にも、一人ひとりに閲覧してもらえるようWeb化に踏み切った」と説明した。

橋本氏は、「今後もトライアンドエラーを重ね、知見を蓄積していく。何事もやってみなければ分からない。会員の反応は各社違い、方程式がないからだ。施策を1つに絞らず、多方向から試して分析し、戦略的に検証していく。何もしないと何も得られない」と語った。

広報・PR領域でも生成AIの活用が進む

鷹野 美紀

株式会社日経BPコンサルティング
ブランド本部ブランドクリエイティブ部長
鷹野 美紀

日経BPコンサルティングのブランド本部ブランドクリエイティブ部長の鷹野美紀は「エビデンスを最大に生かすクリエイティブのプロセス」と題し、ブランディングコミュニケーションを効果的に進めるには、「事実情報」(何を伝えるか)と「手段・ツール」(どう伝えるか)が重要だと述べた。

エビデンスに基づいた設計・企画立案のステップは、「しらべる」「きめる」「つくる」「つたえる」に集約される。さらに効果測定をして振り返り、次の改善につなげていくことが大事になる。「エビデンスを集めると、外部の視点を取り入れられる。自社の強みや魅力の再発見につながる」と鷹野は説明した。

大川 亮

株式会社日経BPコンサルティング
AI企業コミュニケーション タスクフォース リーダー
大川 亮

続いて、日経BPコンサルティングのAI企業コミュニケーション タスクフォースリーダー・編集担当補佐の大川亮が、「『生成AI活用状況調査』速報―調査結果から見えてきた広報・IRの未来」について解説した。

日経BPコンサルティングが実施した調査によると、66.3%の企業が、広報・IR部門に生成AIを活用することで「定型業務から戦略的・創造的な業務へと業務のリソースシフトが起こる」と予測しているという。「いま、広報やブランディング活動における生成AIの活用は、試験導入期から本格活用期への転換点にある。今後、生成AIを活用する企業としない企業とで業績差が拡大すると考えられる。生成AIの活用能力そのものが企業競争力の新たな源泉になるだろう」と大川は語った。

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連載:イベントレポート NBPC BRAND DAY 2025

金縄 洋右

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄(かねなわ) 洋右(ようすけ)

ビジネスアーキテクト部を経て、ブランドコミュニケーション部に所属。
ブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。

※肩書きは記事公開時点のものです。