声のする方へ進み、革新的なブランドイメージを築き続けるワークマンの戦略

  • 金縄

    ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 金縄 洋右

群馬県伊勢崎市で創業したスーパーマーケット「いせや」を母体とし、1980年の1号店から40年強で1000店舗を超えたワークマン。当初は“職人の店”というキャッチの通り、ガテン系の職人さんたちばかりが愛用するコアな小売店だったが、2018年に新業態WORKMAN Plusを出店して以降、一般ユーザーからも支持を集めるようになった。「ブランド・ジャパン」では2020年の初ノミネート後、一般生活者を対象にした調査で総合力が年々上昇傾向にあり、2024年版では「革新性」のスコアが1000ブランド中1位となった。
1996年に入社し、当時はまだ300店舗ほどだったワークマンの全国展開と商品展開を支えてきた営業企画部兼広報部部長の林知幸氏に、ワークマンの革新性とブランドづくりについて聞いた。

文・写真=小林 渡 聞き手・構成=金縄洋右

激変する未来を知り、変革の道に進み出す

2023年9月に1000店舗を超えていますが、2018年あたりから見せ方やターゲットを変えるなど、ブランド戦略やマーケティング戦略に変化が表れています。何があったのでしょうか。

 最初の転換点は2008年のリーマン・ショックでした。このタイミングで、多くの企業様が工場や現場で働く人たちに対する作業服の支給を見直し、作業服の売り上げが大きく落ち込みました。作業服は現場で必要ですから、個人の購入割合が増えるわけですけれども、ふつうのファッションと同様、スタイリッシュで格好いいものを作らないと選んでもらえません。そこでデザインを見直し、ワーク業界以外の人たちにも選んでもらえるような作業服を作り始めました。

さらに2014年、自社の内部環境と外部環境について、プラス面とマイナス面を洗い出すSWOT分析を行いました。すると、作業着のメインユーザーである建設技能労働者は2040年ごろに今より2~3割減るのではないかと計算できました。そこで我々は職人だけでなく一般の人たちにも購入してもらえるよう、「客層拡大」を会社の戦略に掲げました。このときに社内ブランドとしてフィールドコア(FieldCore)、ファインドアウト(Find-Out)、イージス(AEGIS)の3つを立ち上げ、そこにすでに発売されていた作業服を当てはめていきました。

一般ユーザー向けのWORKMAN Plusを2018年から展開していますね。

 WORKMAN Plusは2018年9月、ららぽーと立川立飛に出店したところから始まっています。これも客層拡大の一環です。それまでのワークマンは作業服がメインでしたが、実際に購入されるお客様は山登りだったり、釣りだったりと、別の用途でもお使いになられていました。ならば、扱っている商品を「機能性ウエア」と位置付けて、作業服そのものも他のスポーツウエアやキャンプウエアなどと同じ、1つのアイテムにしようと考えました。

「機能性」という自社の強みを軸にする

重要視してきたターゲットや、そのための出店エリアの選考などはどうやって進めてきたのでしょうか。

 2018年にWORKMAN Plusを出店した当時は、ワークマンは作業服、WORKMAN Plusはアウトドアを意識したアスリートの人たちが訪れるというイメージで展開していました。

しかし、WORKMAN Plusであっても女性のお客様が入りづらいという声も届くようになりました。そこで横浜の桜木町にある商業施設コレットマーレ内に#ワークマン女子の1号店をオープンしました。一方、2018年以降、既存のワークマンを見直し、適宜WORKMAN Plusに変換していきました。これまで基本的にワークマンはロードサイドに出店していたのですが、駐車場に車が入りきらず、道路に駐車場待ちの待機列ができるようになって問題化しました。近隣はもちろん、それまでお店を利用していた職人さんからも苦情が届くようになったのです。

林 知幸氏

ワークマン役員待遇営業企画部兼広報部 部長
林 知幸氏

そこで、プロの職人と一般のお客様のすみわけを意識し、#ワークマン女子やWORKMAN Plusを出店するようにしています。特に#ワークマン女子については、#ワークマン女子でしか買えないアイテムの充実を図っているところです。

コロナ禍のアウトドアブームもありましたが、現況はいかがでしょうか。

 2023年、2024年と減益でした。一番大きな要因は為替の変動です。アパレルを扱っている企業の中で、当社は最後まで価格を据え置いたため、減益についてはある程度織り込み済みでした。一方、コロナ禍が一段落し、アウトドアの人気も落ち着いたことから、既存店売り上げが前年を下回ってきています。

そこで一度基本に立ち返ることにしました。ワークマンが扱う商品の軸となっているのは「機能性」です。アウトドアに限らず普段使いしてもよいわけですから、週末だけでなく、週7日、毎日着られる服を展開していこうと考えました。また、機能性が高いといっても、耐水圧や浸透圧を数字で示すだけでは一般のユーザーにはなかなか伝わりません。ですので、もっとストレートに伝わるよう、機能性を1から5のグレード表記にして、シーンごとにグレードで商品を選べるように工夫しました。例えば「グレード5のレインウエアだったら、台風のような横殴りの雨でも大丈夫」といった具合です。

アンバサダーの声を聞き、革新的な商品を生み出す

「ブランド・ジャパン」では2020年に初ノミネートブランド入りし、5年が経過しました。2024年はイノベーティブ(革新性)が首位、総合力も過去最高の13位と上昇傾向です。この5年間のブランド戦略についてお聞かせください。

 やはり一番の理由は、アンバサダーマーケティングに代表されるような「声を聞く」ことの効果ではないでしょうか。イノベーションは全く違うものを掛け合わせたときに生まれるものだと思っています。

それぞれの分野で活躍する彼らの専門性と自由な発想は、普段会社にいる私たちにはどうやっても出てきません。しかもアンバサダーの下には数万から数十万人のフォロワーがいますから、アンバサダーは国会議員などと同じように、彼らの声の代弁者でもあると考えています。だから一緒に開発した商品はほぼ売れ残ることがありません。

アンバサダーにはどういう形で商品開発に関わってもらっているのでしょうか。

 ゼロから商品作りに加わっていただくこともあれば、途中から参加していただくもの、色だけ決めていただくものまで、いろいろなパターンがあります。「色決めだけ」と聞くと笑う人もいますが、実はとっても重要な要素です。白や黒、紺といったベーシックカラーは必ず必要になりますが、それ以外の遊びの色を増やそうと思ったとき、何色を増やすかによって売り上げや商品の評判がガラッと変わることもあります。

アウトドアブームに変化が見える中、今後の商品開発やブランド戦略に加えて、重要視したい顧客層などについてもお聞かせください。

 昨今、地震や台風、ゲリラ豪雨など、これまでの常識をはるかに超える自然災害が普通に起こるようになっており、そこへの対応です。アウトドアウエアも作業服も、用途に合わせて着るものですが、災害はいつ起こるか分かりません。つまり、災害に強い服こそ、普段使いできるものであるべきだと思うのです。

日本赤十字看護大学附属災害救護研究所と一緒に開発した防寒ウエア・XShelterは、寒さも暑さもシャットダウンするという画期的なものですが、普段使いしながら災害時にも役立つというコンセプトであり、事前予約で2万着が売り切れてしまいました。これからもこのような機能性で社会に貢献する商品を提供し続けていきたいと思います。

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林 知幸 氏

株式会社 ワークマン
役員待遇営業企画部兼広報部 部長
(はやし) 知幸(ともゆき)

1996年、ワークマン入社。スーパーバイズ部、開発部を経て2020年4月より現職。2018年のWORKMAN Plus、2020年の#ワークマン女子の立ち上げのほか、多くのメディアに取り上げられ話題となった「過酷ファッションショー」の企画や演出に携わる。現在、SNSをはじめとしたオウンドメディアや、アンバサダープロジェクトなどのマーケティング戦略や広報・PR戦略を担当。

金縄 洋右

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄(かねなわ) 洋右(ようすけ)

日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。