フェムテック市場の新潮流
女性の健康課題を紐解けば、従業員のWell-beingにつながる
fermata CCO 中村寛子氏
聞き手・文=内野侑美
日本独自で深化するフェムテック
fermataの創業について教えてください。
中村 fermataは、2019年10月に創業しました。国内ではまだ「フェムテック」という言葉になじみがありませんでしたし、女性の健康課題は今までタブー視されてきましたので、女性の健康課題というテーマが企業に受け入れられるかどうかという不安もありました。創業の1カ月前に東京・渋谷で「Femtech Fes! (フェムテック フェス)」というイベントを開催。世界中からフェムテック製品を集め、触れたり、話し合ったりできる場を用意しました。思いのほか反響があり、私たちも事業を始めるにあたって、世の中の関心の高さを知ることができました。
その後、国内でどのように事業を展開なさったのでしょうか。
中村 2020年には、実際にフェムテック商品を手にとって購入できる路面店をオープンしました。この前後には、吸水ショーツを開発するブランドが立ち上がるなど日本国内の企業がかかわる新規フェムテック事業がfermataのほかにもスタートしています。
世界的に見ても日本のフェムテック市場の動きはとても面白いです。国内の大企業は昨今の人的資本を生かす施策の一つとして、B to B to E(Employee:従業員)のサービスをより推進しています。民間の勢いに呼応して行政も動き始め、IoTを活用した商品や周期記録を行うアプリを開発するなどして、新しい市場創出のための連携が進んでいます。
そして、新しいプロダクトによって発見もありました。一つの例ですが、経血カップを使うことで経血量が見えるようになると、ケガもしていないのに毎月こんなにも出血していたのかと客観的に把握できるようになりました。見える化が進むことで、体験者やその周りの人たちもフェムテックに対する認識が深まっていったのです。
言語化によって受け入れやすくなる新しい価値観
フェムテックを進める企業をどうサポートしていますか。
中村 政府は女性管理職を30%まで引き上げる目標を掲げていますが、その課題に取り組もうとしても、ハードルの高さを感じる企業が少なくありません。
fermataが取り組んでいるのは、企業と従業員の悩みを言語化するサポートです。例えば、女性活躍推進に取り組むソフトバンクでは、女性の健康課題に関するニーズを把握して今後の施策に役立てることを目的にフェムテックに関する一連のプログラムを実施しました。
今の環境で感じている健康課題をより良い状態に変えていくために、ウェルネス(人生をより輝かせようとする状態)のモヤモヤを言語化するお手伝いをしました。特に女性特有の健康問題でいうと、生理は痛くて当たり前、だるくて当たり前。我慢しなければいけない、といった思いを持ちがちです。それに対して、当事者である女性たちは、どう思っているのかを言語化することで、女性従業員のニーズが見えてくるのです。
プログラムの進め方を教えてください。
中村 方法としては、3つのステップを踏みました。1つ目は新しい情報のインプット。フェムテックのセミナーを開き、プロダクトに触れられる展示会を社員に向けて行いました。2つ目は新しい選択肢の体験です。実際にプロダクトを使ってみる、吸水ショーツを履いてみるなどこれまで経験をしてこなかったウェルネスと向き合ってもらうきっかけを提供しました。そして、3つ目は、実際にプロダクトを使用した感想や経験から得た思いを共有し、ウェルネスの発見を行いました。
女性特有の健康課題をひも解く3ステップ
プログラムを通して、見えてきたこと、言語化できたことはありましたか。
中村 それぞれのステップで目標を定め、数カ月間にわたりプログラムを開催しました。フェムテックのプロダクトは、『個の課題』から生まれているものが多いので、なぜこのプロダクトが生まれたんだろう? この悩みは私の悩みと共通する部分があるなぁ。と今市場にあるものを知り、正しい知識をインプットしてもらうことで、従業員の皆様の課題が見えてきます。
そして、自分自身がフェムテックの関連製品を体験することで、より自分ごと化が進み、自身の悩みの言語化につながります。例えば、吸水ショーツを実際に履いてみることで、自分は生理の時にナプキンを持ち歩くことに苦痛を感じていたんだとか、会議が長引いてトイレに行けないことに不安を感じてしまっていたんだというように。
「個の悩み」を企業は課題解決にどのように活かすべきでしょうか。
中村 女性の健康問題に配慮をしていきたいと考えている企業は多くあります。生理休暇や産前産後の休暇、時短勤務など制度上は整備をしていても、実際に従業員がその制度をどう生かしているのか分からない。従業員のニーズと合っていなかったというケースは多いです。
痛みに対して強い人、弱い人、切り替えが早い人など、個々人の健康課題は多岐にわたります。企業が従業員一人ひとりと向き合う姿勢を、会社の施策や制度設計などを通して示していけば、人的資本の最大化にもつながるかもしれません。時間のかかることではありますが、一つひとつの悩みと従業員のニーズを合わせる最大公約数を探ることで、従業員の健康を守り、Well-beingの向上につながっていくことでしょう。
コンテンツ本部 医療&健康コンテンツチーム
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連載:健康経営の救世主“フェムテック”
- 【1】フェムテックが「働きやすい企業」をつくる(前編)
- 【2】フェムテックが「働きやすい企業」をつくる(後編)
- 【3】はやりで終わらせないために企業がすべきこと
- 【4】フェムテックプログラムを開発し、 日本企業の女性活躍を後押し
- 【5】フェムテック市場の新潮流
fermata CCO
中村 寛子(なかむら・ひろこ)氏
Edinburgh Napier University (英)卒。グローバルデジタルマーケティングカンファレンス、ad;tech/iMedia Summit を主催している。dmg::events Japan 株式会社に入社し、6年間主にコンテンツプログラムの責任者として従事。2015年にmash-inc.設立。女性エンパワメントを軸にジェンダー、年齢、働き方、健康の問題などまわりにある見えない障壁を 多彩なセッションやワークショップを通じて解き明かすダイバーシ ティ推進のビジネスカンファレンス「MASHING UP」を企画プロデ ュースし、2018年からカンファレンスを展開している。
※肩書は記事公開時点のものです。
コンテンツ本部 編集2部
内野 侑美(うちの・ゆみ)
女性向け雑誌や実用書を扱う編集プロダクションを経て日経BPコンサルティングに入社。企業広報誌やPR誌から、現在は周年史、統合報告書、カード会員誌を担当。コンセプト設計からコンテンツ制作、撮影のディレクションまで行います。