健康経営の救世主“フェムテック”

フェムテックが「働きやすい企業」をつくる(後編)

  • コンテンツ本部医療&健康コンテンツチーム

フェムテック(Femtech)とは女性特有の健康課題を解決するテクノロジーやそれを使った製品・サービスのこと。2020年頃から日本でもフェムテックを扱う企業が増え、今や国や大手企業も注目する成長分野の1つです。このフェムテックを従業員のウェルビーイング向上に活用する企業が増えているのをご存じでしょうか。フェムテック産業に着目し、実態調査のほか、補助金による実証事業を担当する経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長の川村美穂さんに、日本企業に広がるフェムテックの現状や活用例を聞きました。経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 室長
川村 美穂氏

聞き手・文=菊池 由希子
写真=遠藤 麻美

女性の健康課題への取り組みが採用にも影響

現在フェムテックを活用している企業・組織の傾向はありますか?

やはり女性活躍推進に積極的な企業ですね。8年連続で「なでしこ銘柄」に選定されている大和証券グループは、社員向けのオンライン診療「ダイワオンラインケア」や女性特有の健康課題を包括的にサポートする「Daiwa ELLE Plan」を実施しています。また、小田急電鉄は、乗務員や駅係員など鉄道の現場に従事する社員が大半で、その9割を男性が占めています。女性社員の周りは上司も同僚も男性であるため、身体の悩みを相談しづらい懸念があったそうです。まずは気軽に相談できて適切な情報を得られる相談窓口が必要と判断して、不妊治療等相談窓口の「ファミワン」と産婦人科に特化したオンライン医療相談「産婦人科オンライン」を導入しています。

小田急電鉄では駅や運転を担当する部署の監督者向けに妊活・不妊に関するセミナーも実施

大手企業だけでなく、IT系のスタートアップ企業も積極的です。テックに抵抗がないこともあるとは思いますが、若い方を中心に女性も含む多様な人材が活躍できる環境への関心が高まっており、採用やリテンション(人材の確保・維持)に影響する課題になっています。IT人材が足りない背景もあり、企業側も多様な人材の必要性を認識していて、あなたに活躍してもらいたいと考えているというメッセージを伝える手段として、活用しているように思います。

経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室
室長
川村 美穂氏

女性が働きやすい職場は、多様性を認め、誰もが働きやすい環境

女性の健康課題に対する取り組みの有無は企業価値につながるということでしょうか。

今の若い世代は、福利厚生がしっかりしているかどうか、多様な働き方が許容され、本当に長く働けるかなどを男女問わず見る傾向にあります。フェムテックのような取り組みは、女性だけが注目しているわけではないんですね。女性が働きやすい職場は、誰にとっても働きやすい職場でもあります。
サステナビリティの観点から企業の持続的な成長を考えたときに、女性活躍は外せないポイントです。女性役員比率が高い企業は、低い企業と比べてパフォーマンスが高く、女性役員の登用は企業経営にプラスの影響があるとの調査もあります。女性に活躍してもらうには、女性特有の健康課題への配慮は必要不可欠。その方策の1つがフェムテックの活用です。

【出所】McKinsey&Company"Women Matter: Time to accelerate: Ten Years of Insight into Gender Diversity"(2017年)
<調査対象:日本以外の10カ国の企業約300社>

女性役員比率が高い企業は、女性役員がいない企業よりもROE(自己資本利益率)、EBITマージン*が高くなっている。

*支払金利前税引前利益と売上の比率

自治体ではどのような動きがありますか?

女性を含む誰もが活躍でき、安心して暮らせる地域にしなければ、若い層が離れ、少子化に歯止めがかからないという問題意識を持つ自治体がフェムテックに注目しています。
広島県三原市では、岡田吉弘市長の強いリーダーシップの下、市内企業の管理職向けオンラインセミナーを実施しました。組織の中で女性の健康に関する基礎知識を理解し、相談されやすい関係性を作るためのコミュニケーションのあり方を学ぶことなどを通じて、女性活躍を推進されています。
また、北海道余市町は町に産科がないため、近隣の小樽市の病院で妊婦健診を受ける女性が多くいます。働く女性にとって通院が大きな負担となっていました。そこでモバイル型の分娩監視装置を助産師が妊娠後期の妊婦に装着し、胎児の心拍数や腹部の張りの強さを計測したデータを送り、小樽市の医師が遠隔で確認するという周産期遠隔医療サービスの提供を進めています。三原市、余市町いずれも、昨年度の実証事業に参加いただきました。

特に不妊治療の面では、知識・経験が豊富な病院が多い都市と地方では格差があるのが実情です。オンラインを活用することでこの格差が解消できるのではと期待しています。
2022年度の「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」でも、昨年度に引き続き、フェムテック製品やサービスを扱う企業が自治体や企業の福利厚生を担当する部署と連携して取り組む事業を数多く採択しています。女性の健康課題を解決するには、フェムテック企業の製品やサービスの提供だけでは足りません。企業や居住する自治体が協力し、ライフステージや生活環境にフィットしたサポートができれば、多くの女性の悩みをより軽減・解消できるはずです。
今年度は更に支援する全19事業者に、同じ成果指標を取っていただくことにしました。フェムテックを使う前と使ったあとでは、仕事の生産性や労働意欲がどう変化したかなどの成果を調べるものです。成果を知ることで、より効果的なサポート方法が見えてくるのではと考えています。
フェムテックは産業としては始まったばかりです。当事業を通じ、多くの人にフェムテックを知ってもらい、女性はもちろん、男性にとっても、生き生きと活躍でき、幸せに満たされる社会実現への第一歩になることを願っています。

コンテンツ本部 医療&健康コンテンツチーム

医療&健康コンテンツをつくる・つたえる・しらべるチームです。
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川村 美穂(かわむら・みほ) 氏

経済産業省 経済産業政策局
経済社会政策室 室長
川村 美穂(かわむら・みほ) 氏

経済産業省入省後、資源エネルギー庁・ガス事業部ガス市場整備課、大臣官房情報システム厚生課、貿易経済協力局技術・人材協力課を経て、2020年11月より現職。日本経済の成長戦略としての「ダイバーシティ経営企業100選」、「なでしこ銘柄」、女性リーダー育成研修の実施等に取り組む。プライベートでは二児の母。

※肩書きは記事公開時点のものです。

コンテンツ本部 編集2部
菊池 由希子(きくち・ゆきこ)

テレビ情報誌、結婚情報誌、働く女性向け情報紙などの編集者を経て、日経BPコンサルティングに入社。現在はBtoC企業の広報誌やWebサイト、周年史を中心に担当。企業メディアの戦略立案から媒体設計、制作まで支援。

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