「経営・プロジェクト思考を学ぶ」勉強会レポート(後編)
IT人材からDX人材へ。「DX勉強会」で受講者が得られた学びとは?
> 前編はこちら
近藤氏からの「宿題」 ── 受講者の事後課題への取り組み
「経営・プロジェクト思考」に資する近藤氏からの講演後、ウェビナー受講者は、次の課題に取り組みました。いわば、近藤氏からの「宿題」です。近藤氏の講演内容を受けて、今後、どのように自分の業務に生かしていきたいか、気がついた点や意気込みを回答します。受講者自身が言語化することで、省察する機会となるよう設計しました。
2つの問い。どんな課題を解決するのか?
最初の問いは、「社会課題、業界課題、ユーザー課題」を問うものでした。SDGs時代にあって、企業は今、社会に対する存在価値を改めて問われています。自らの業務は何を解決するのか、大上段に構えがちな議論に一本の筋を通すべく、鳥の目、虫の目、魚の目をもって思考しながら実践してほしい、という意図を込めてのことでした。
受講者の回答傾向として、とりわけ「ユーザー課題」の設定に顕著だったのが、「主語」の置き方でした。「奪い合い」「顧客の流出が懸念」「囲い込みが必要」といった業界目線・企業目線での回答が目立ちました。そうした中で、安定した電力供給(社会課題)から、スマートメーターの発展的共創利用(課題解決)を一貫した思考でつなげた回答を、近藤氏は高く評価。「徹底した顧客目線。顧客単独ではなく、業界改善に連なるもの」(近藤氏)とコメントしました。
一例を挙げます。ある大手SI企業の中堅社員は、社会インフラである電力の安定供給に課題認識を表明し、スマートメーターの(30分値)の可能性に言及しました。
- Q:自社事業(顧客事業)が直面する【社会課題】は?
- A:電力需給のリバランスを最適化できず、ロスや厳冬時の電力不足などが発生する可能性がある。電力はライフラインの1つであり停電を起こせないため、配電設備の維持・更新を計画的に実施する必要がある。
- Q:自社事業(顧客事業)が直面する【業界課題】は?
- A:新規事業者の参画により、小売事業者宛てに電力の融通を行う必要性が発生しており、電力需給の最適化を行うことで電気の安定供給をより強く行う必要がある。
- Q:自社事業(顧客事業)が直面する【ユーザー課題】は?
- A:30分ごとにスマートメーターを経由して検針データ(30分値)が取得可能となった。30分値データの利活用により、配電設備状況をいち早く分析し、電力需給のリバランスを行いたい。また、上記30分値の活用を幅広く進め、配電設備の使用の効率化や老朽化検知などに活用していきたい。
次の問いでは、プロジェクトや事業を進める上でのコミュニケーション──経営と現場のコミュニケーションを円滑にするために、始めること・止めること・続けること──を問いかけました。設問を設計した背景には、電脳交通の創業ヒストリーが大きく関係します。創業者である近藤氏は講演の中で、経営者兼プロジェクトマネージャーとして奮闘するご自身が、開発責任者の坂東氏とどのようにリレーションを築き、プロジェクトを進めてきたのか、コミュニケーションの勘所に触れながら言及。経営と開発、あるいは電脳交通と顧客企業が、常に目線合わせを行う──DXの目的は何なのか──リレーションを構築しながら、「信用を貯めていく」(近藤氏)姿勢が語られました。
そこで、電脳交通が構築したリレーション、ストーリーについて、受講者はどのように消化し、今後の業務へと発展的させていくのか、その方向性と意気込みを見たいと考え、設問2、3として設定しました。また、受講者の大半が「次世代マネジメント層」であることも要因の1つです。日ごろ、経営と現場を結ぶ人材にとっての、コミュニケーション方法の変化を知れたらと考えました。
受講者の問題意識として発露されたのが、「経営と現場の意見のぶつかりあいを避けるべきではない」や「新たな試みには仮説に対するトライ&エラーが必須のため、裁量を現場に権限委譲し、任せてもらう必要がある。現場に出ないと真の課題を体感することができない」という指摘でした。近藤氏も、「間を取り持つ立場としての媒介者になるのではなく、モノを作っては改善するというのを繰り返すためには、常に前線でコミュニケーションを取ることが必要です」と賛同しました。
近藤氏の所感 ── 受講者の課題評価、勉強会を通じた学び
近藤氏は、拠点を構える徳島県からリモートで講演した
勉強会の講師を務め、また受講者の課題提出を評価した近藤氏にコメントを寄せていただきました。
「時折、誤解されることがあるのですが、実は電脳交通は、『タクシー業界を変えます!』と声高に主張したことがありませんし、きっとこれからもしないと思います。あくまでも、『変わろうとしている』事業者様をDXでサポートするという立ち位置、表現にこだわっています。その点で、今回の参加者の多くから、『顧客との伴走の再認識、並走の大事さを再認識した』というコメントが多くいただけたのは、素直に嬉しく思います。
とりわけ、プレイングマネージャーとしてプロジェクトをけん引する際の要点として、『コミュニケーション』の重要性を指摘する回答には、共感を覚えました。私自身、新しい時代のリーダー像として常にフロントにありたいと考えて、動いています。本気でこの事業、業界にコミットして、オーナーシップをもって取り組んでいます。なので、規模の拡大に伴って顧客との接触をなくしていく経営者ではなく、一番リアルな情報を的確に把握して、決断していきたい。そうした姿勢が、コロナ禍のようなドラスティックな変革期を迎えた現在に求められる、リーダー像の1つなのではないでしょうか。
一方、『DX=ツールの活用』という手段先行型、部分最適なDX、という考え方も見られ、少しもどかしく思った部分もありました。『社会課題は?』という問いに対して、『顧客離れ、利益が下がっている』という自社視点から出発しているのは、『現場の情報』を把握できていないことが理由となっているのかもしれません。プロジェクトが目指すゴールは何なのか、どういう課題を解決し、社会に対してどのようなインパクトを与えていくのか、そこに至る過程において、自社はどんなアセットをもっていて、足りないアセットは何なのか(共創の視点)といった視座も参考になると思います。
そう遠くない未来に、高齢化や既存の交通インフラの撤退など、大きな社会課題の解決に向けて共に取り組めることを期待しています」
受講者が取り組んだ事後課題
- 【設問1】
- 自社事業(顧客事業)が直面する【社会課題】【業界課題】【ユーザー課題】は、どのような課題でしょうか?
- 【設問2】
- 設問1で検討した課題を解決するために、どのような取り組みを進めますか。自社アセットのほか、パートナー企業や自治体、社内連携などの「共創」を前提に考えてみてください。
- 【設問3A】
- ウェビナー後の【Try・Start】について、教えてください。DXや個別プロジェクトを進める際に、経営と現場のコミュニケーションを円滑にするために、どのようなことを始めたり、取り入れたいと思いましたか。
- 【設問3B】
- ウェビナー後の【Problem・Stop】について、教えてください。DXや個別プロジェクトを進める際に、経営と現場のコミュニケーションを円滑にするために、「やめよう」と気づいたことは何ですか。
- 【設問3C】
- ウェビナー後の【Keep・Continue】について、教えてください。DXや個別プロジェクトを進める際に、経営と現場のコミュニケーションを円滑にするために、「続けよう」と改めて思ったことは何ですか。
受講者の感想(一部、抜粋)
- 大手SI企業
- DX推進というワードで焦ってIT化、先端技術の適用を行っていくのではなく、あくまでお客様の課題を解決するためということを念頭に置いて、よりよい施策を探していくことが重要だと思いました。
- 大手ICT企業
- 経営/現場の両視点でのDXプロジェクト推進シナリオについて大変参考になりました。
勉強会概要
日時 | 2021年3月2日 |
---|---|
テーマ | DX人材プログラム「DX実現に欠かせない『経営・プロジェクト思考』を磨く」 |
講師 | 近藤洋祐氏(電脳交通・代表取締役社長CEO兼Founder) |
形式 | Webセミナー(講演後に、受講者は課題提出) |
電脳交通 代表取締役社長 CEO兼Founder
近藤 洋祐氏
徳島市生まれ、メジャーリーガーを目指しアメリカ留学から帰国後、吉野川タクシーに入社、2012年に代表取締役に就任し、債務超過寸前の状態からV字回復を実現、2015年電脳交通を創業し代表取締役に就任。徳島大学客員教授。
マーケティング本部 コンサルティング部
石井 健介(いしい・けんすけ)
シニア通販誌で編集・商品開発を担当後、金融、住宅建築、化粧品など複数業界で編集、マーケティング支援に従事。リアルとデジタルを分断することなくコミュニケーショプランを企画・実行。2016年8月、日経BPコンサルティング入社