伝える=閲覧ではない!
企業価値を「つたえる」コツは最適な文脈作りにあり
伝える=閲覧ではありません。企業の価値を「伝える」ためのポイントは、ターゲットが欲しいタイミングで、欲するコンテンツをお届けするという文脈を作ることです。この文脈をつくるためのポイントをまとめます。
「つたえる」≠「認知」ではありません。ターゲットが理解して行動したときにはじめて「つたわった」と言えます。腹落ちしてもらえる内容を、ターゲットのスイートスポットに刺さるストーリーで届けないと、理解し、行動してもらえません。言い換えれば、価値ある情報を、価値を感じるタイミングで、価値を感じるヒトに届けるという文脈を作ることになります。
「つたえる」ことを現実のものとするためには、ターゲットと接点、媒体などの種別によって、最適化を行います。どのような気持ち、立場で閲覧、閲読しているかを想定し、そのタイミングで欲しい情報を的確に提供するわけです。同じことを伝えるにしても、ターゲットの気持ちや立場によって、提示すべき内容への導き方が違います。
コンテンツは体験別に最適化を
Webサイトであれば検索エンジンで悩みを解決するソリューション、手段を探しているターゲットに対して、寄り添うように入り口ページをヒットさせること、つまり悩みをベースにして検索エンジンへの最適化を図ることが大切でしょう。潜在顧客を取り込むためのSEO設計が重視されています。「今の業務の効率が悪いなあどうしよう?」のような悩みに対応して、自社サイトへ呼び込みます。
一方パンフレットは、機能の詳細を知らせるためのツールです。ターゲットは、ある程度課題が明確な状態で接します。「このソリューションは、どんな機能があるのだろう」という要望に対し、具体的にどんな機能を提供してくれるかをすぐに伝わらないと、ターゲットにいらだちを覚えさせかねませんよね。
伝えたい商品・サービスが同じであっても、Webサイト、広告、SNS、メール、パンフレットなどごとに、内容を体験別に最適化する「CXO(=Contents eXperience Optimization)」を施し、顧客と適切なコミュニケーションを行なうことが、「つたえる」ためには非常に重要です。
「つたえる」以外のことも意識しよう。木も森も見るのがキモ。
「つたえる」ことまで意識した成果物をつくるためには、それぞれの情報媒体、接点について、統括的に施策を施すことが求められ始めています。これが第一のコツです。
最近のマーケティングの活動は、さまざまな分野の専門家が寄り集まって施策を進めます。それぞれの守備範囲で専門的な力を発揮してくれても、全体として見た場合、最適解かどうかまでは考えることができないのは当然です。
統括的な施策を組み上げるためには、各施策担当者のチカラを集結させることが出来る全体統括者がいるとベストです。触媒となって反応を早め、作業を効率化し、イノベーションを引き起こせるPM(=プロジェクトマネージャー)です。フェーズ・組織を横断的に動き、各メンバーの持ち味を活かして、自らも活かされるべく動ける人です。
そんなスーパーマンはいないよ、というのが本音でしょう。そのとおり、めったにいません。
全体を俯瞰するためのツール「ジャーニーマップ」
いないときには、リアル、デジタルの接点を横断的に俯瞰できるジャーニーマップを作ることをお薦めしています。ジャーニーマップは、需要が発生して、検索、認知、比較、トライアル、契約などのマーケティング、営業の一連のフローとして、ターゲットと企業との接点をまとめたチャートです。
ジャーニーマップの書籍をごく最近、発行しました。ジャーニーマップについての詳しい話は、書籍をご一読いただけると幸いです。お読みなりたい方は、申し込みフォームからご請求ください。お送りいたします。ただし、ご同業の方はお断りすることもありますが、ご了承ください。
閲覧後の行動を促すための受け皿をしっかり作る
第二のコツは、受け皿をしっかり作ることです。受け皿が穴あきバケツでは困る、ということです。受け皿とはコンテンツのことです。
コンテンツが脆弱だと穴の空いたバケツ状態になりがちです。図は穴あきバケツ状態のコンテンツを作った場合のアクセスログです。キャンペーンを張ると一気にピークが来ます。しかし広告キャンペーンの効果が一過性に終わってしまい、すぐに下がってしまう。何度もキャンペーンを行っても、こういった体験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。
穴開きバケツ型コンテンツのPV推移
本来は、Webサイトに集めたユーザをファンとして蓄積し、アクセスログとしても積み重ねていきたいものです。企業の価値を感じてくれる人を増やす方向、ファンを作っていくような、積み重ね型のキャンペーンです。単発で終わる、一時的なキャンペーンではありません。
日経BPグループでは、BtoBの業界別に媒体を発行してきました。BtoCでも、興味対象別に情報提供を重ねています。穴あきバケツではない、受け皿としてのコンテンツを作るお手伝いを得意としています。
「モノ軸」「コト軸」からマーケティング4.0を意識した「ヒト軸」目線へ
「つたえる」ためのデジタル施策には、もちろんSEO(=検索エンジンへの最適化)は欠かせません。ただし、価値を顧客の立場で表現することが重要です。着眼点を「モノ軸」から「コト軸」に変えろ、と言われてきました。昨年のコラムでは私も「コト軸」をお薦めしました。
しかし最近では、自己実現欲に対応するための「ヒト軸」での提示が注目されています。
たとえば抗菌洗剤のサイトのSEOを考える際に、これまでは洗剤の潜在需要を受け止める「コト軸」提案がメーンでした。臭い服をどうにかしたい、という需要に対して悩みを解決するソリューションとしての提案です。抗菌洗剤の場合、臭いの原因である部屋干しによる菌の増殖を防ぐので、「モノ軸」から「コト軸」への脱皮が、潜在的な需要への対応として行われてきました。
自己実現をサポートするヒト軸目線
なぜ臭い服が嫌なのでしょうか?そこには「ヒト」の意識が介在し、なぜなのかをとらえる必要があります。
コトラーが提唱するマーケティング4.0は、顧客の自己実現欲に訴えかける手法です。「いつまでも清潔感のある女性でいたい」、「嫌われるかもしれない臭いの要素を排して、気になるだれかと仲良くなりたい」などの自己実現のための欲求が根底にあると考えられます。つまり、顧客に「自分の理想像」をイメージさせるコンテンツづくり、つまり「ヒト軸」のコンテンツが必要になるということです。。社会が成熟してきた今、人々の欲求が自己実現に向いているのです。
冒頭にも書きましたように、コンテンツマーケティングにおける「つたえる」は、認知だけではありません。理解して、行動してくれて初めて伝わったと言えます。
ページを閲覧したとき、1秒2秒見てもらって帰ってしまっては「つたわった」とは言えないでしょう。理解して行動してもらったら「つたわった」ことになるでしょう。「つたえる」行為を完遂するためには、価値を感じさせたいターゲットに、価値を感じてくれるタイミングで届ける策を、「モノ軸」「コト軸」「ヒト軸」を意識して講じていくことです。
どんな内容を、どう「つたえて」いくかの設計も、私たちにお任せください。
(吉森大介=コンテンツコミュニケーション・ラボコンサルタント)
※この連載は、2019年2月に開催した、マーケティング・テクノロジーフェア2019におけるミニセッションを再構成したものです
マーケティング本部 コンテンツコミュニケーションラボ・コンサルタント
吉森 大介
デジタルエージェンシーで、映像編集・ディレクション・PMを担当。
コーポレートサイト制作、映像制作、アプリ制作、キャンペーン施策など企業のデジタルコミュニケーション施策を実施。2011年 証券会社の資産管理サービスにてGoodデザイン賞受賞。
近年は、消費財メーカーのオウンドメディアの立ち上げと運用を担当。
2018年7月日経BPコンサルティングに入社。
連載:マーケあるある解決法
- 第1回 SDGsで企業の未来とブランドをデザインする
- 第2回 Webサイトでブランドアップするコツ
- 第3回 企業価値を「つたえる」コツは最適な文脈作りにあり