連載:変革するデータ活用 第1回
MyData 2018 in Helsinki レポート
2018年8月29日から31日の3日間、「MyData」に関するシンポジウム「MyData2018」が開催された。このシンポジウムは、2016年に第1回が開催されて以来、年に1回の開催。第3回となる今回は第1回と同じく、ヘルシンキ(フィンランド)で開催。著名な建築家アルヴァ・アアルトが設計した「文化の家」が会場となった。3日間の会期中に、「文化の家」にある8会場を使い、11のテーマに対し、130名以上の登壇者による50以上ものセッションがもたれた。日本からも学会関係者や報道機関などが多数参加、また富士通やNTTデータといったICT領域におけるトップランナーが登壇するなど、注目度の高さがうかがえた。
背景には、世界規模で競われるデータの活用が挙げられる。わが国でも、来春には個人データを収集・管理した「情報銀行」の事業者認定が始まるなど、パーソナルデータの活用は喫緊のテーマとなっている。また、2018年の5月には、欧州で「EU一般データ保護規則」(GDPR)が適用開始されたのも記憶に新しい。これまでは、良くも悪くも、個々人のパーソナルデータは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など米国のプラットフォーマーのもとに蓄積され、無意識のうちに広告などの企業サービスに利用されてきた。これに対してGDPRでは、「個人のデータは個人に帰属するもの」と明確に宣言している。
また、GDPR適用と前後して世間を揺るがしたケンブリッジ・アナリティカ社をめぐる疑惑もあった。4月にはFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOが、米国上院の公聴会に出席。Facebookから約8700万人分の個人情報が流出した問題を受け、ザッカーバーグ氏自らが、公聴会で証言することとなった。
MyData2018では重ねて批判の対象となった。GAFAが自由主義的な米国発とするならば、個人が主体的にパーソナルデータを管理すべきと考えるMyDataにおいては、前向きな扱いではなかったのは当然のことと捉えられる。
BLTSの議論
MyData2018では、「BLTサンドイッチ」になぞらえて、議論は進行した。Bは、Business(パーソナルデータをビジネスに活用すること)、LはLegal(GDPRをはじめ、規則/法律などにかかわること)、TはTechnical(パーソナルデータにまつわる技術的なこと)、SはSocietal(社会に関すること)だ。
Business
はじめにBusinessについて。ビジネスと技術は密接にかかわっていて、技術の進歩に合わせて、それに見合う新たなサービスを検討している段階といえる。
「Energy Data Sharing Workshop」のセッションでは、各国の電力会社による、顧客(個人)のエネルギー消費等に関する活用について議論された。例えば、オランダでは「エネルギーID」という基盤づくりの実証実験が進められている。顧客が、エネルギーデータを含む自身のパーソナルデータをそのほかのサービスプロバイダにも共有できるよう整備する試みで、事業者間の切り替え、移行をスムーズに実現するのが狙いという。
また、スウェーデンからはエネルギーデータをもちいて、個人のスマートメーターのデータだけではなく、幅広い製品やサービスとそれらのデータをつなぎ合わせることで、新たな価値を創造するといった事例が紹介された。
そのほか、イギリスの公共放送BBCでは、リビングルームにおけるパーソナルデータを集め、それを利用者に還元することで、利用者に最適な空間を提供するためのメディアを探求する取り組みについて報告がもたれた。こうした取り組みの共通の課題は、パーソナルデータを管理・活用するために、個人(ユーザー)から同意を取得することの難しさが挙げられていた。GDPRが適用された欧州においても、パーソナルデータのビジネスへの活用は現在進行形であることが分かる。
一方、日本ではパーソナルデータを分析・活用したサービスとして、「情報銀行」の取り組みが注目を集めている。この分野では、日本のほうが欧州各国よりも先行しており、日本のビジネスパーソンに状況をヒアリングする場面も多く見られた。
Legal
続いて、Legalの側面から。会期冒頭の「Legal Landscape」というセッションでは、データの保護について、これまでの法律の変遷から言及され、その時々のインパクトはどのようなものであったか、また加速度的な技術革新にともなう未来像について議論が深められた。ここで指摘されたのは、適用開始されたばかりのGDPRがすでに時代に追いついていないのではないか、という問題提起だ。2012年に一般データ保護規則提案が公表されてから、すでに6年という月日が経つ。その間に、インターネット人口は全世界で1.5倍ほど増加し、全世界人口の50%近くが活用するまでになった。同時に、スマートスピーカーの家庭への浸透をはじめとしたIoTの進化や、ビットコインの流通量が増加するなど、テクノロジーだけでなく、消費者の志向が大きく変化したことなどが要因だ。ただし、GDPRに通底する個人の情報を守るという思想・解釈は、これからも有効に活用できるとの理解は示された。
また、データの主体者となるべき個人は、主体者に見合うだけの知識、スキルを持つ必要があると、警鐘が鳴らされた。
Societal
最後にSocietalについて。前提として、MyDataでは、以下の宣言を掲げている。
- パーソナルデータにおける「人間中心のビジョン」を目指す。
それは、 - ●信頼 (trust and confidence)
人と組織の間だけでなく、人々の間のバランスの取れた公平な関係に基づくもの - ●自己決定 (self-determination)
法的保護だけでなく、個人とデータの力を共有する積極的な行動によって達成されるもの - ●パーソナルデータの便益の最大化
組織、個人、社会の間での公平な共有によるもの - に基づく公正・持続可能・豊かな情報社会の条件である。
「Personal Data for Common Good」(公益のための個人データ)というセッションでは、パーソナルデータを管理する者に求められる資質や、パーソナルデータの活用がどのように世の中を変えていくかについて議論された。パーソナルデータが公益に使われる場合、当然ながら管理者には公平性が求められる。また、とりわけ高い倫理観が重要視される。そしてこの倫理観が作用するためには、ユーザーからの信頼が欠かせない点が指摘される。一方で、民間サービスにしろ行政サービスにしろ、ユーザーがパーソナルデータとの付き合い方に慣れ、理解が深まると、それに応じるかのように、信頼されるべき情報も公開されるようになるとの指摘もあった。
来場者の関心は、Societal視点
事前に決まっていたプレゼンターとは別に、来場者が自ら議論するテーマを提案する形のセッションが、53件も実施された。こうした運営からも、本シンポジウムはどこか欧州の大学、サロン的な雰囲気が漂う。
「BLTS」の4テーマでわけると最も多かったのが、「Societal」に関するもの。26テーマとおよそ半分ものテーマがこれに関してのものとなった。たとえば、「データの管理者をどのように設定すれば良いか」「デジタルの知見に弱い人にどのようなアプローチをすべきか」といった、社会課題を見通したテーマ設定だ。パーソナルデータとはじめて向き合うときに欠かせない視点である。
続いて多かったのがBusinessに関するテーマ。起業家やビジネスパーソンによる提案が多かった。たとえば、金融、大学、EC、ヘルスケアなどの分野でユーザーに対してどのようなサービスを提供できるか、サービスプロバイダとマイデータプロバイダの双方の視点から検討するワークショップなどは、活発な議論が展開されていた。
また、GAFAと一括りにされて語られることの多いGoogleの担当者からは、データポータビリティを簡易に実現するモックが紹介されていた。
MyData Global発足
MyDataのローカル組織は、欧州、米国を中心に世界各地にあり、なかでも日本(MyData JAPAN)は世界からも先進的な取り組みとして注目を集める存在だ。情報銀行への関心も高い。なお、MyDataはグローバルの活動組織である「MyData Global」をこの11月に発足。パーソナルデータに関する自己決定権を向上させることによって、個人に権限を与えることを目的としている。
主催:一般社団法人オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン
共催:国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)
国立研究開発法人理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP)
日経BPコンサルティングは、オープンイノベーションを推進します!
パーソナルデータ、情報銀行の勉強会を開催!
「CCL.」でご案内します
SDGsデザインセンター コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)
これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。