デジマ担当者のためのリードが獲れるコンテンツマーケティング実制作の秘訣 第1回
1記事1ミッションとすべし!
多くの企業のコンテンツマーケティング支援をおこなうカスタムメディア本部第二編集部長の雨宮健人は、こう言い切る。コンテンツマーケティングの効果を最大化する秘訣はコンテンツの作り方にある。ターゲットに望ましい態度変容を促し、リード(将来的に営業対象となる顧客)として獲得するには、優れたユーザーエクスペリエンス(UX)をコンテンツで提供するしかないからだ(マーケティング用コンテンツ設計・制作を参照)。
しかし、企業がコンテンツマーケティングを実行していて最初にぶつかる壁もまた、コンテンツだ。担当者の悩みにズバリ答えよう。
聞き手:清水 秀起(コンテンツコミュニケーション・ラボ)
コンテンツマーケティングのWebコンテンツ制作案件では、どのようなお客様から悩み相談や、課題解決の依頼を受けることが多いですか。
雨宮 今回は、Webコンテンツの基本である記事、読み物を中心に話します。コンテンツマーケティングという言葉を伴った記事制作の依頼や相談が増え始めたのは、2014年あたりからです。それまでは紙メディアでの提供がほとんどでした。Webを軽視していたわけではないものの、Webに載せるのは冊子で掲載したコンテンツの二次掲載、二次活用という考えが多かったからです。
2010年ごろから見られ始めた、米国発のコンテンツマーケティングのサクセスストーリーに追随しようという流れもあったと思います。Webサイトのアクセスログ解析により、ユーザーの行動履歴をある程度追えます。行動履歴に合わせて的確なコンテンツを配信できるツールを使える環境が整ってくると、さてどんな記事を当てはめるべきかという段階になります。
最初は自分たちで記事を制作してみる。するとなんとなく効果がありそうなのが分かる。でも、継続的に記事を作るのは難しい。それは、本来業務との兼ね合いでなかなか時間が割けないという稼働面での意味合いが大きいですが、だんだんネタ切れになってきて、品質面でもちょっと厳しくなってくるんです。相談を受けるのはたいていその段階だと思います。
「商品が解決できる課題」を出発点にする
そうした段階の相談に対してはどういう提案が効き、また喜ばれますか。
雨宮 コンテンツマーケティングに限らず、雑誌や書籍でもそうですが、一番大切なのは「誰に」「何を」伝えるかをまずは明確にすることです。ただ、コンテンツマーケティングの最終的な目的は、リードを獲得して、自社の商品の購入や導入につなげることです。
ですから、ブランドや商品の購入・導入で解決できる課題から逆算して、多くの企業が持つ一般的興味につなげる作業を行います。ここが私どもプロの編集者の腕の見せどころ。単に興味・関心を得られても、商品と関係なければ意味がないですから、その間を埋めるコンテンツは何かを突き詰めて考える。それが一番求められるといえます。
ユーザーの心の進行を7段階に分け、その過程で人数が増減することを表す図です。Webを漂う潜在層にコンテンツで働きかけ「認知」させる段階から、「興味・関心」「理解」「検討・比較」を経てリードとなり、「購入」へ至ります。その後、商品・サービスに「満足」して知人へ「推薦」する段階へ進みます。
実際にWebコンテンツ制作を請け負う際、大切にしていることは何ですか。
雨宮 簡単に言うと「捨てる勇気」です。相手に伝えたい情報を入れ過ぎると、逆効果になるケースが多い。かえって情報が伝わりにくくなります。これがよくいう「プロダクトアウト」なコンテンツです。あれも入れたい、これも書きたい、となりがちな企業からの要望を、私たちのほうで整理するようにしています。
例えば名刺に何か文字を載せるとしましょう。会社名と名前だけなら、かなり大きな文字で印刷できます。でもそこに住所とメールアドレスも入れたい、加盟している団体も入れたい、役職も全部入れたい、となると、どんどん文字は小さく、見にくくなってきますよね。とにかく詰め込みたくなる気持ちは、すごく分かりますけれど。それと同じです。
1記事1ミッションにする
具体的にはどのように実行するのがポイントでしょうか。この記事をお読みの、企業の担当者様へのヒントにもなるように教えてください。
(雨宮)
雨宮 コンテンツマーケティングにおいては、1つの記事に多くの情報をつめこみ過ぎず、1記事あたり1ミッション、つまりアピールする内容を1つに絞り、役割を持たせることがポイントです。まさに「捨てる勇気」です。これは企業の担当者様にも覚えておいていただきたいですね。
この記事は、ターゲットの一般的な興味に呼応して、必要性に気付かせて集客するコンテンツ、この記事は興味を深めたり比較検討に役立てる接客コンテンツ、これはリード情報の取得に役立て、自社営業への送客を目的にするコンテンツ、という具合に、記事ごとにミッションを分けて制作します。それぞれの機能を果たしやすくなるからです。
例えば、マーケティングオートメーション・ツールに代表されるコンテンツマーケティングのツールは、「この記事を読んだらこのメールを出す」という設定ができます。つまりターゲットユーザーに合わせ、ふさわしいミッションを持った記事にメールで誘導できるのです。
やりたいことや伝えたい情報が多いなら、長い記事にまとめるよりも、ミッションごとに記事数を増やす選択肢を取るべきと言えるでしょう。
企業の担当者様が注意すべきことはありますか?
雨宮 陥りがちなのが、1つの記事に過大な期待をかけてしまうことです。これはお勧めしません。
ターゲットの一般的な興味・関心を引く集客力がありつつ、自社のブランドや商品の訴求もできて、あわよくば問い合わせにもつなげたい。このような万能なコンテンツ、いわば“神記事”には、残念ながら出合えるケースはめったにありません。成立するのは、商品に話題性があるなど、商品自体が絶対的な魅力を持つコンテンツである場合に限るといってもよいでしょう。
1記事1ミッションとする理由はもう1つあります。
友人の家に行って本棚を見れば、興味分野が分かりますよね。こういうジャンルが好きなのかと。そこに例えばなぜか何冊か相続の本があったとします。なんでこの本読んでるの?と聞くと、実は相続を近々することになって調べているんだ、と。求める情報から、興味分野を推測できます。
今はこういった情報収集がほとんどWebに移行しています。かつてはこのページに何人が訪れた、というページ単位での解析が主流でしたが、昨今のコンテンツマーケティングのツールでは、この人はこういうページをこれだけ見ているから、このジャンルに興味があるはずだという、ユーザー単位での解析が可能になりました。その人の家の本棚が見えるようなものです。
ちなみに、その人が買った商品や、調べた商品に関連するオススメ商品を出すアマゾンなどのレコメンド機能は、こういった解析を自動化して表示したものですね。
だとすれば、コンテンツ制作の際は、興味分野の分析を行いやすくするように作るべきということになります。
つまり「A+B+C+D」の要素を持ったコンテンツを作ってしまうと、そのコンテンツを読んだ人の関心事が「AかBかCかDのどれか」というあいまいな分析しかできません。ですが「A」「B」「C」「D」とコンテンツを別々に制作して、その人が「A」と「D」のコンテンツを読んだのなら、関心事は「AかつD」と絞り込めるわけです。
このようにコンテンツマーケティングにおいては、1つの記事に多くの情報をつめこみ過ぎず、1記事あたり1ミッションとしたほうがよいことが、仕組み上の観点からもいえるでしょう。ですがこのポイントはWebコンテンツ制作の秘訣の第一歩にすぎません。最も大切なのは、コンテキスト、文脈です。売りたい商材から逆算して、ターゲットの興味・関心に結びつけるコツを身につけることです。
次回は、リードが獲れるコンテンツマーケティング実制作の秘訣、「広告・宣伝色を控えるべし!」に続きます。
コンテンツ本部 本部長雨宮 健人
経営層へのIT活用をメインジャンルに、2007年からB2Bマーケティング、社員・OB向けインナーブランディングの媒体制作に携わる。2016年まで「ANA AZURE」(ANA)編集長、「Biz Clip」(NTT西日本)編集長、「周年事業ラボ」(日経BPコンサルティング)編集長などを歴任。
連載:デジマ担当者のためのリードが獲れるコンテンツマーケティング実制作の秘訣
ブランド・ジャパン企画委員会からの提言
- 第1回 1記事1ミッションとすべし!
- 第2回 広告・宣伝色を控えるべし!
- 第3回 「商材」と「ターゲットの興味・関心」をつなぐ