激動アジアのグラデーション「ブランド・アジア」

ベトナムで“代名詞”となった日本のブランド

2014.10.02

ブランディング

  • コンサルティング本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント小山田 誠

ベトナムで“代名詞”となった日本のブランド
アジアの消費者の“今”を、「ブランド・アジア」の結果から読み解く第2回のターゲットはベトナム。ベトナムでは、日本の企業ブランドがある製品カテゴリーの“代名詞”として用いられている。そのブランドの強さの現状を確認するとともに、背景にあるベトナムのブランド事情を解説する。

メコン川を一目見ようと、ホーチミンから南へ下る国道1号線を車で走った。郊外の道の両脇には、ベニヤ板に「HONDA」と書かれた看板がひたすら並んでいることに驚く。バイクの“青空修理工場”といったところか、タイヤやオイルが山積みの露店が、ともすれば500m~1kmくらいおきに現れるのだ。

ホーチミンから南へ下る国道1号線

ただし、店先に並んでいるのは“ホンダ”の製品だけではなく、当たり前のように他社製品も連なる。どうやら郊外にある看板の「HONDA」は、メーカーとしてのホンダ(本田技研工業)を表してはいない。そう、ベトナムで「HONDA」は、もはや「バイク」の代名詞と化しているのだ。

ベトナム国道1号線とその沿道にあるHONDAの店
ベトナム国道1号線とその沿道にある“HONDA”の店
HONDAと書かれた看板

「HONDA=バイク」のブランド力

国道1号線はハノイやホーチミンなど、南北の主要都市間を結ぶ幹線道路だけあって、自家用車やトラック、バスなども走っているが、それでも目立つのはバイク。保有率は3人に1台と言われるほど高い。

ベトナムにおける大卒者の初任月給が日本円にして3万円前後の中、安いものなら5万円、一般的なグレードでも10万円程度で新車を購入できるバイクは、庶民にとって手が届く日常生活の足として十分機能している。

市街地では幅が広い道路も、朝夕のラッシュ時には全面をバイクが埋め尽くすほど。ベトナムでは道路環境が必ずしもよくない上に、状態の悪い中古車に乗る人も多い。国道沿いの“HONDAショップ”は、長距離を走る人々の大きな安心となっているようだ。

ホーチミンの生活の足はバイク
ホーチミンの生活の足はバイク
市街地の道路を埋め尽くすバイク

こうした環境の中で、バイクの“代名詞”として用いられている「HONDA」について、企業ブランドとしての力を「ブランド・アジア」の結果から見ていく。

今回で3回目を迎えた「ブランド・アジア2014」において、ベトナムにおける「HONDA」は83.8pt(偏差値)を獲得し、同地域におけるブランド総合力の首位に初めて輝いた。初回調査の「ブランド・アジア2012」では82.8pt、2回目の「ブランド・アジア2013」では81.3ptと、両年とも第2位だった。

「HONDA」は1997年にバイクの現地生産を開始。今回は、満を持しての首位獲得といったところだろうか。いずれにしても、調査開始以来偏差値で80を超える非常に高い評価を3年間キープし続けている。

今回の83.8ptというスコアを地域横断で比較すると、全12地域内の1160ブランド中で第2位という非常に高い評価である。ベトナム国内の結果で見ても、第2位で77.8ptを獲得した「Nokia」を6.0ptも引き離しての首位だ。

加えて、本調査内には、いわば利用率を表す「最近使っている」といった設問もあるが、「HONDA」は51.7%と実に高い。この利用率は、全地域で見ても今回調査したのべ135の自動車関連ブランドで最も高い値(インドネシアにおける「YAMAHA MOTOR」も同率)であり、37.5%で次点となったマレーシアの“国民車”「PROTON」とは14.2ポイントも差をつけた。

もちろん「HONDA」はベトナムでも自動車を展開しているので、すべてがバイク利用者と言えるわけではないが、いずれにしてもベトナムの2人に1人が何らかの形で「HONDA」を使っている。その大半がバイクならば、代名詞化してしまうことにも納得がいく。

「HONDA」以外で強いブランドは

では、なぜ「HONDA」は、ベトナムで高い評価を受けているのだろうか。「HONDA」以外のブランドがどのように評価されているのかを見ることで、その要因をあぶり出してみたい。図1では、ベトナムで調査した100ブランドのブランド総合力を5pt刻みで数え上げ、その分布をヒストグラムで示した。トップ10程度の上位を示すため、65pt以上のブランド名を記している。

図1 ベトナムにおけるブランド総合力分布と上位ブランド
図1 ベトナムにおけるブランド総合力分布と上位ブランド

第2位の「Nokia」以下、「Google」「SAMSUNG」「SONY」「Apple」「Microsoft」、そして第12位に入るベトナム最大の移動体通信事業者「Viettel」と、トップ12ブランド中、半数以上の7ブランドを携帯電話やITに関係するブランドが占めている。一方、残りの4ブランド、「Vinamilk」「pepsi」「Trung Nguyen」「Coca-Cola」は、すべて食品・飲料系である。

灰色で示したのは全1160ブランドの平均的な分布傾向だが、これと比較すると、ブランド総合力が突出しているブランドが他地域よりもやや多い一方、低いブランドも他地域よりも多い傾向にある。

ブランド全般の認知が低いベトナム

図2 各地域で調査したブランドの認知率平均図2:各地域で調査したブランドの認知率平均

地方発の商品開発はそもそも「作り手目線」に陥りやすい構造的な問題があります。

こうした結果となる一因は、ブランド力形成の土台とも言えるブランド認知の状況から確認できる。下に、図2「各地域で調査したブランドの認知率平均」と図3「各地域の1人当たり名目GDP」を示した。これらを見ると、ブランド全般に対する認知率平均が極端に低いインド、ミャンマー、ベトナムは、1人当たり名目GDPも他地域に比べて特に低いことが分かる。

ベトナムでは、1986年に導入した「ドイモイ政策」によって社会主義経済体制をやめ、市場経済へと移行したものの、依然として賃金水準は低い。こうした環境から、消費生活を豊かにするブランド全般についての認知もまだ低いと思われる

図3 各地域の1人当たり名目GDP図3:各地域の1人当たり名目GDP

さらに、図4として業種分類ごとの認知率平均を、全地域平均とベトナムについて示した。ベトナムについては、該当ブランド数が少ない業種もあるので参考データとして参照いただきたいものも含まれる。

図2において確認されたブランド全般に対する認知率の低さを割り引けば、業種分類ごとの認知率平均は全地域平均と概ね似たような傾向だと分かる。しかし、ベトナムの線形近似とのズレを確認すると、「運輸・物流」に1ブランドのみ該当したナショナル・フラッグ・キャリア「Vietnam Airlines」を除けば、全地域平均と比べ「インターネット関連」「多角化経営」が低い傾向にある一方、「自動車」「食品・飲料」は全地域平均よりも高い傾向にある。

図4 業種分類ごとの認知率平均
図4 業種分類ごとの認知率平均

文化や生活事情に根差したブランドが強い

図5の通り、「自動車」という業種分類にはバイクブランドも含まれるため、「自動車」と「食品・飲料」の2業種の認知が高いことは、先ほど確認した上位ブランドの特徴と合致する。実際、「TOYOTA」を除いて認知率が高いのは、「HONDA」「SUZUKI」「YAMAHA MOTOR」と、いずれもバイクのラインアップを持つブランドである。

図5 「自動車」「食品・飲料」ブランドの認知率とブランド総合力
図5 「自動車」「食品・飲料」ブランドの認知率とブランド総合力

ここで、「食品・飲料」において、認知率の高いものの中から、日本ではあまり知られていないベトナムローカルのブランドについて幾分補足をしよう。「Bia Sai Gon」「Bia Ha Noi」は、名前の通り現地で愛飲されているビールであるが、「Vinamilk」(乳製品)、「Trung Nguyen」(コーヒー)、「Kinh Do」(パンや菓子類)については、単に食品・飲料のメーカーであるだけではなく、いずれも単独で路面店を持つ顧客との接点を重要視しているブランドである。

「Vinamilk」「Vinamilk」

特に「Vinamilk」は、1976年に設立された国営企業を前身とする会社で、2006年に株式公開をして以降大きく躍進。現在はベトナム国内のミルク市場で約40%のシェアを持つほか、ヨーグルトやベトナムコーヒーには欠かせないコンデンスミルクでは、シェアの大半を占める状況にある。

「Trung Nguyen」
「Trung Nguyen」
「Kinh Do」「Kinh Do」

「Trung Nguyen」は、コーヒー文化が根づくベトナムにおける現在のトップブランドであり、1996年に設立されたコーヒー豆の製造やカフェを展開する企業。1998年のカフェ1号店オープンを皮切りに、2010年までに1000を超える店舗を国内外に広げた。海外60カ国にも商品を輸出している。

タンソンニャット国際空港(ホーチミン)の車寄せ(柱に掲げてあるすべてが「Trung Nguyen」の広告/2014年1月撮影)タンソンニャット国際空港(ホーチミン)の車寄せ(柱に掲げてあるすべてが「Trung Nguyen」の広告/2014年1月撮影)

2003年にはG7というインスタントコーヒーを開発。ブラインドテストにおいて「Nestlé」よりも高い人気を得ているという。こうした中、2013年2月には「STARBUCKS COFFEE」がホーチミンにようやくベトナム1号店を出店。店舗を増やしつつあるものの、「Trung Nguyen」の存在感はそれをはるかにしのぐ。

色あせるのを防ぐのは「好感度」と「満足度」の高さ

このように、ブランド全般に対する認知が低い中でも、ベトナムの文化や現在の生活事情に深く根差したジャンルのブランドは認知が非常に高く、この認知がブランド力を下支えしていることが分かった。ただし、単に認知が十分なだけでは、強いブランド力は生まれない。

今一度、図5を確認すると、認知率が同様の「HONDA」と「SUZUKI」では、ブランド総合力には39.0ptもの開きがある。加えて、バイクの“代名詞”にまでなっている「HONDA」。確かに日本でも、「バンドエイド」「ウォークマン」「ゼロックス」「ホチキス」など、本来は固有の社名や商品名である名前が、製品カテゴリー全般を指す語として用いられることが多くある。

だが、こうしたブランドは、代名詞として使われていくに従って、オリジナル製品のイメージや特徴が競合製品に埋もれていってしまう危険性も併せ持っている。とは言え、「HONDA」に今のところそうした気配は全くない。

ブランド総合力の算出に関係する15のイメージ項目を、4つの中間指標に束ねた「フレンドリー」「コンビニエント」「アウトスタンディング」「イノベーティブ」という因子のそれぞれのランキングにおいても、今回「HONDA」はすべてで首位を獲得している。

15のイメージ項目でも、先に紹介した「最近使っている」で51.7%を獲得しているほか、「興味がある」(66.7%)、「好きである、気に入っている」(60.8%)、「品質が優れている」(60.8%)、「親しみを感じる」(53.3%)、「共感する、フィーリングが合う」(50.0%)と、実に6項目で50%以上の得票率を得ている。

ロイヤルティに関する「最近使っており、満足している」「購入したい」「他者に勧めたい」「大ファンである、あこがれている」という4つの設問においても、「大ファンである、あこがれている」で「Apple」の後塵を拝し第2位だった以外、やはりすべてでトップの評価(各ブランドの認知者をベースとした集計)を受けている。

特に「最近使っており、満足している」では、認知者のうち実に約半数の49.1%から評価されており、これは自動車関連ブランドの中で全地域を通して最も高い満足度である(なお、これに続く第2位は、マレーシアにおける「HONDA」で32.5%。第3位はミャンマーの「HONDA」、第4位はタイの「HONDA」と、満足度トップ4はすべて「HONDA」が占めている)。

現地法人であるホンダベトナムカンパニー・リミテッドは1996年3月に設立され、1997年12月に現地生産を開始。2014年3月21日にはバイクの累計生産台数が1500万台を突破。500万台突破は設立11年後の2008年、1000万台突破はそれから3年後の2011年なので、近年生産ペースが大幅に増加していることが分かる。2013年のベトナム国内での販売実績は187万台。一方で輸出分はおよそ4万台であり、いかにベトナム国内で消費されているかが分かる。

ベトナムにおける「HONDA」の強さの根底には認知の高さがある。その上で、強く興味を抱く人が多く、そのほとんどが「好きである、気に入っている」、そして「品質が優れている」と感じている。このような評価を土台として、最後には非常に高い満足感を持たれていることが、庶民のニーズにマッチする製品を展開する中で、単なる代名詞化に留まらないブランド力の強さを形成している。

ブランド・アジア2014

アジアにおけるブランドの“今”を読み解こうと、2011年から弊社が取り組む大規模な国際ブランド価値評価調査プロジェクト。ノミネートした各ブランドについて、「好きである、気に入っている」や「親しみを感じる」などの15のイメージ項目に関する各地域の一般消費者から生の声を集める。

▼ブランド・アジア2014
https://consult.nikkeibp.co.jp/branding/solutions/brand-asia/

直近の「ブランド・アジア2014」(2013年12月~2014年1月実査)では、グローバル展開する60企業を全地域共通で対象とし、これに各地域独自の企業も加えて、全12地域(国)においてのべ1160ブランドを調査した。ベトナムでは、ハノイとホーチミンの2都市において街頭調査を行い、20~40代の男女計1200人から回答を得た。

▼「ブランド・アジア2014」の結果をリリース――アジアでのApple、SAMSUNG、Googleなどスマートフォン関連ブランドへの評価高まる 日本ブランドはSONY、HONDAが健闘するも、全体的に低調
https://consult.nikkeibp.co.jp/info/news/2014/0530ba/

小山田 誠

コンサルティング本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント

企業のブランドづくりに関する調査・コンサルティングを担当。日本最大級のブランド価値評価プロジェクト「ブランド・ジャパン」のほか、同プロジェクトをアジア地域に展開した「ブランド・アジア」、個別企業へのコンサルティングにも取り組む。(※著者の肩書きは記事公開時のものです)

RELATED ARTICLE関連記事

ブランド・アジア

日経BPコンサルティング通信

配信リストへの登録(無料)

日経BPコンサルティングが編集・発行している月2回刊(毎月第2週、第4週)の無料メールマガジンです。企業・団体のコミュニケーション戦略に関わる方々へ向け、新規オープンしたCCL. とも連動して、当社独自の取材記事や調査データをいち早くお届けします。

メルマガ配信お申し込みフォーム

まずはご相談ください

日経BPグループの知見を備えたスペシャリストが
企業広報とマーケティングの課題を解決します。

お問い合わせはこちら