再考、食の安全マーケティング

「無添加」はかえって危ない!?

2014.01.15

コンテンツマーケティング

  • カスタム企画出版本部 第一部 プロデューサー 中野 栄子

「無添加」はかえって危ない!?
食品の虚偽表示が問題になっています。一流ホテルや有名百貨店が虚偽表示をしていたことを発表し、その規模の大きさに大変驚かされました。実は今回の一連の事件は、食関連事業者などが、これまで手掛けてきた「間違ったマーケティング」に共通する原因が見え隠れしています。本稿では、企業のCSRやモラルはひとまず置いて、マーケティング的に今回の問題を考えてみます。

「実際の価値」と「消費者が信じる価値」にギャップ

一連の虚偽表示事件は、いずれも実際は価値が低い商品なのに、消費者が高い価値であると認め、信じている商品と偽っているところに共通点があります。

「絞りたてフレッシュジュース」と聞けば、ホテルの厨房で高級、新鮮なフルーツをオーダーが入ってから絞って提供しているとイメージしますが、実際は紙パック入りの加工品であるジュースを開けて注いだだけのものでした。価値としては量販店で売られているジュース程度のものを、ホテルの料理人の手をかけた価値の高い商品だと偽って売り込んでいたのです。

商品の価値を最大限アピールするのはマーケティングの1つの手段ですが、一連の事件では、この限度を踏み超えていたと言えましょう。実際、「ザ・リッツ・カールトン大阪」の謝罪会見では、「アピールしたいという意識が強すぎた」との弁明がありました。マーケティングといえども、行き過ぎれば法の裁きの対象にもなります。

価値を実際以上に著しく高く見せることを「優良誤認」と言い、不正競争防止法に抵触することになります。たとえ意図しなかったとしても、処罰の対象となり得るものです。今回の事件に際し、同法を所管する消費者庁では、今後の規制強化の方針を明らかにしています。

バナメイエビは本当に芝エビに劣るのか?

一連の事件では、外国産の「バナメイエビ」を国産の「芝エビ」と称した事例も多く報告されました。昨今の中国産食品へのバッシングにも象徴されるように、とかく外国産の食品は忌避されがちなため、外国産を国産と偽るのは今に始まったことではありません。

加えて、バナメイエビは養殖で安価なのに対し、芝エビは天然で高級感が漂っていることも強調されました。ちなみに、日本の中国料理の世界では、小ぶりのエビをすべて「芝エビ」と表示するようにしていたという組織の勝手な都合もありました。

「芝エビ」の問題は、「絞りたてフレッシュジュース」より少し複雑です。と言うのも、消費者の感じる価値が、実際の価値に必ずしも見合っているわけではないからです。バナメイエビは輸入の養殖ものゆえ安価とされていますが、最近は感染症の発症のため生産量が激減し、価格が高騰しているそうです。

また、生産量はごくわずかですが、新潟県で農林水産省の主導する農業の6次産業化を目指して研究開発され、うま味成分が輸入バナメイエビの2倍以上も含まれる国産バナメイエビもあります。

つまり、芝エビの方がバナメイエビと比べて、高級、国産、天然、美味しいというのは必ずしも正しくはないのですが、消費者はそう信じているので、事業者は消費者の誤解を前提に、よいエビを表現する「芝エビ」を強調するマーケティングを展開していたと言えます。

「無添加」は消費者の誤解を利用している

さて、こうした消費者の誤解に基づくマーケティングを展開する食関連企業は実に多いのです。食品スーパーに行けば必ず目にする「無添加」と表示された食品も、これに当たります。

「無添加」食品とは、人工保存料などの食品添加物を使っていない食品。恐らくこれをお読みの方は、「食品添加物は何やら健康に悪影響を及ぼす悪いものだろうから、食品添加物を使っていない『無添加』食品は、安全でよいものに違いない」と認識されているのではないでしょうか。そこまではっきり認識していなくても、漠然と「危ないのでは」と思っている方は多いと思います。

しかし、実際は違います。そもそも、日本は食品衛生法の下、食べて健康被害にあうようなものは流通させてはいけないことになっていますから、日本の食の安全は、確実に守られていると言ってよいでしょう。

日本では、毎年食べたものが原因で亡くなる人が10人弱ほどいますが、いずれもフグ毒や毒キノコを間違って食べたことによる自然毒の中毒死だけです。食品添加物によって亡くなる人は、世界中を見渡しても、これまでに報告された例がありません。

こう書くと、「食品添加物は食べてすぐ死ななくても、長年食べているうちに蓄積してがんになったりするのでは」と反論する方もいるでしょう。しかし、これも違います。やはり食品衛生法に基づき、食品添加物は動物実験などによって発がん性や遺伝毒性などを調べ、科学的に安全性を確認しています。しかも、使う量が決められており、厳格に管理されています。

動物実験では、人間に換算するとバケツ一杯の食品添加物を一生涯食べて続けてもがんが発症しないことを確認したりします。ですから、食品添加物と比較すると、普通の食品の方がよっぽど危ないものもあります。

例えば、食塩は人間が生きていくのに欠かせない食べ物ですが、食塩を多く摂り過ぎれば高血圧症から生活習慣病を発症するのは確実ですし、一度に大量に摂ればショック死してしまいます。食品添加物は食塩よりも、よほど安全なのです。

「食品添加物=危険」は科学的に間違い

つまり、食品添加物を使っている食品が危ないということは、科学的には間違っていると言えるでしょう。そればかりか、意外に思われるかもしれませんが、「無添加」の方がかえって危ない面があることも見逃せません。

保存料は食品の腐敗や変敗を防ぎ、食中毒のリスクを下げるという役割があるので、保存料を使わなければ、逆に食中毒のリスクを高めることにもなります。保存料を使わなければ、安全に流通させることすらできない食品もあります。また、食品が早く腐敗するため廃棄量も増えて、経済的にも好ましくありません。

ところが、食関連事業者は「安全のために保存料を使用しています」という説明を、消費者には積極的にしていません。消費者は保存料などの食品添加物には漠然とした不安を感じているので、そうした消費者におもねって「これは無添加ですから安心してください」と逆の説明をしたほうが、支持が多く得られるからです。

事業者が「無添加」商品をたくさん出せば、消費者は「無添加」商品を多く目にするので、「添加物は悪いものだから無添加を強調しているに違いない」と誤解を深め、ますます「無添加」を求めることになります。こうして、消費者にとって「無添加」が1つの商品価値として確立し、その価値を訴求する「無添加」マーケティングが食関連事業者の有効な販促策として定着してきたのです。

不況の時こそ信頼感を重視した経営を

不況の折、食関連業界でも競争が激しく、ほかの商品との差異化に各社は必死です。ほかの商品にはない高い価値を強調することで、消費者の支持を得ようとするのは経営上の当然の努力として認められるものです。しかし、間違った価値を訴求したり、消費者の誤解につけこんで価値を訴求するのは、今回の一連の事件のように、行き過ぎたマーケティングだと言わざるを得ないでしょう。

しかも、消費者は「食品添加物は危ないもの」という誤りを信じることで、食に対して本来抱く必要のない不安にも悩まされることになります。こうした食への不安は、食関連企業への信頼を崩すことにもつながりかねません。

「無添加」を標榜するマーケティングは一時的に食関連事業者にメリットをもたらたすかもしれませんが、結局は消費者の信頼を裏切ることになり、必ずそのツケは回ってくるものと思います。消費者との健全な信頼関係を保つことが、厳しい時代の経営に欠かせません。そのためにも、この機会に「無添加」マーケティングについて再考してみてはいかがでしょうか。

2011年、食品添加物に対する世間の誤解を解消し、正しく理解することで安心してもらうべく、書籍『無添加はかえって危ない~誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない~』をプロデュースさせていただきました。「無添加」マーケティングをなぜ見直すべきなのか、本稿と併せてお読みいただき、そのヒントをつかみとっていただければ幸いです。

無添加はかえって危ない誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない

無添加はかえって危ない誤解だらけの食品安全、正しく知れば怖くない

価格:1,760円(税込み)
ISBN:978-4-901823-82-1
発行元:日経BPコンサルティング

中野 栄子

カスタム企画出版本部 第一部 プロデューサー

慶応義塾大学文学部心理学科卒、日経BP社で『日経レストラン』副編集長、『日経イベント』副編集長、『FoodBiz』コンテンツマネジャー、『BiotechnologyJapan』副編集長、専門ウェブサイト『FoodScience』編集責任者などを務め、2010年から日経BPコンサルティングへ出向し、メディアプロデュースを手掛ける。専門分野は食・健康・医療。特に「食の安全」分野では、執筆、講演を多く手掛け、厚生労働省、農林水産省、東京都、埼玉県などの食の安全関連の委員会委員を歴任。現在、農林水産省農林水産技術会議評価専門委員、東京都食品安全情報評価委員。著書は『食品クライシス』(日経BP社、共著)など。(※著者の肩書きは記事公開時のものです)

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