「ブランド・イメージをすぐに上げるための施策は…」と考え始める前に、そもそも自社のブランドは、どのようなイメージの集合によって形成されているのか、その要素を分解して捉える必要があります。現状抱えている課題を的確に把握しなければ、有効な手立てを具体化することも難しいからです。今回は、BtoC分野を対象に「ブランド・ジャパン」で用いている4つのブランド評価指標やそれらの見方を紹介します。
消費者や顧客の頭の中に形成されるブランド・イメージ。目に見えるものではないため、企業内でブランドづくりの議論をする際も、各自の持論や観念論が先行し、雲をつかむような状態が続くなど、検討が前に進まない場合も多いのではないでしょうか。
ブランド・イメージの開発は、パレットの上で数多くの絵の具を自由に混ぜ合わせ、そのブランドの“独自色”をつくり出すことにたとえられるかもしれません。
見えないものを共通言語化する
2001年から続く「ブランド・ジャパン」では、捉えづらい「ブランド」を出来るだけ「見える化」し、その結果を少しでも扱いやすいものに整理整頓して提供することを目指しています。人々の頭の中、心の中を映す“鏡”として、また、社内で異なる立場の関係者が同じ認識を共有しながら議論するための“共通言語”として活用いただけます。
今回は、企業ブランドのみならず、製品・サービスブランドも含めた1000ブランドを、一般消費者が毎年評価する「ブランド・ジャパン」のコンシューマー市場(BtoC)編について、どのような共通言語が用意されているのかを確認してみましょう。
消費活動を「4つの因子」で読み解く
コンシューマー市場(BtoC)編では、最終指標とする「ブランド総合力」を算出するに当たり、「フレンドリー」(親しみ)、「コンビニエント」(便利)、「アウトスタンディング」(卓越)、「イノベーティブ」(革新)という4つの因子を使っています(図1)。「ブランド総合力」や各因子のスコアは、調査した1000ブランド全体の平均を50とする偏差値です。
図2~5には、「ブランド・ジャパン2014」コンシューマー市場(BtoC)編における各因子のランキングトップ10と、その中から当該因子の特徴が際立っている(他の因子と比べて当該因子の評価が特に高い)ブランドのイメージパターンをレーダーチャートで示しました。
これらの実例を眺めながら、それぞれの因子がどのような質のイメージを表しているか理解いただければ、これまでブランドを構成するイメージ要素として漠然としていたものが、より具体的に感じていただけると思います。
フレンドリー(親しみ)
この因子は、顧客との接触機会やユーザ自体が多く、好感度が高いブランドが評価を集めます。例年、食品や飲食店など、日常生活に馴染んだブランドが特に高く評価される傾向があり、「ブランド・ジャパン2014」でも、トップ10のうち「ディズニー」と「スタジオジブリ」以外はすべて食にまつわるブランドでした。
なお、「カルビー」の首位は3年連続。実はカルビー株式会社では、「ブランド・ジャパン」をブランド力の指標として長らく活用いただいており、特にこの「フレンドリー」を注視されています。(参考:「日経ビジネス」2013年7月22日号、p.68-73)
コンビニエント(便利)
商品やサービスの持つ品質や有用さへの評価が、大きく影響する因子です。ソフトウエア、小売店、機能性衣料品、宅配サービス、ネット通販、食品、ネット検索と、高評価のブランドに比較的業種の偏りはありません。「ブランド・ジャパン2014」では、「セブン-イレブン」が「コンビニエンスストア」として初めてこの指標で第2位を獲得し、名実ともに「コンビニエント」と評価されました。
アウトスタンディング(卓越)
他の競合ブランドを上回る魅力や強みを表す因子。海外のいわゆる“高級ブランド”が上位に名を連ねるのも特徴です。
とは言え、高価格なブランドだけが上位に来るわけではありません。個性が光るブランドも評価されます。トップ10からは外れますが、第11位にアイスキャンディーの「ガリガリ君」(80.5pt)が入り、第10位の「ルイ・ヴィトン」とわずか0.1ptの差。価格の低いブランドでも、高級ブランドに負けない支持を集めています。
イノベーティブ(革新)
ブランドが持つ勢いや取り組み姿勢が、ユーザに伝わっていることを表す因子です。時流に乗って急成長しているようなブランドが評価される指標で、他の3因子と比べ、やや先行指標的意味合いを持っています。
ですので、私たちはこの因子を、「ブランドづくりのエンジン」と考えています。ここ数年はIT・通信関連のブランドが特に高く評価されており、「ブランド・ジャパン2014」でも、第10位の「ユニクロ」以外はすべてIT・通信関連ブランドが並びました。
ブランドづくりに“唯一無二の正解”はない
こうして各因子の特徴を確認すると、「自社は、どの因子やイメージを強化すべきなのか」という疑問が湧いてくるかもしれません。「フレンドリー」のトップ10には、食にまつわるブランドが多く並んでいましたし、「イノベーティブ」のトップ10ではIT・通信関連が大半を占めていました。このように、業種によって磨き上げるべき因子がある程度決まることもあります。業種全体が評価を受けている因子については、力を抜かないことが望ましいでしょう。
しかし、“唯一無二の正解”が存在しないのがブランドづくりの難しさ。食に関するブランドは「フレンドリー」が強くなりがちなものの、一見縁遠そうに感じる「アウトスタンディング」でも、「ハーゲンダッツ」が第5位に、先述した「ガリガリ君」も第11位にランクインしています。「ウチの業種は○○だから、△△因子が強ければ問題ない」と、杓子定規な判断は避けた方が得策です。
実は、今取り上げた2つのアイス。「ブランド・ジャパン2014」コンシューマー市場(BtoC)編における「ブランド総合力」で、「ガリガリ君」は第14位(77.9pt)、「ハーゲンダッツ」は第15位(77.7pt)と、大変高い評価を獲得しています。
図6には、業種「食品」に分類された75ブランド中の平均と、この2ブランドのレーダーチャートを示しました。2つのアイスは、「フレンドリー」と「アウトスタンディング」に加え、「ガリガリ君」は革新性を表す「イノベーティブ」でも、「ハーゲンダッツ」は品質感が関係する「コンビニエント」でも、業種平均を超える高い評価を受けていたことが分かります。
「アイス」という同じ食品であり、しかも「ブランド総合力」でほぼ同じ評価を受けながら、強みとするイメージがこんなにも違っています。両ブランドは、それぞれ異なる魅力を打ち出しながら、「このアイスは期待を裏切らない」と思わせることに成功しているわけです。こうしたところに、ブランドづくりの醍醐味があると言えます。
「ウチには関係ない」と思い込んでいるイメージはないでしょうか? もしかすると、今まで気にも止めなかったイメージや因子に、自社の魅力や製品・サービスの付加価値を高めるブランドづくりの可能性が眠っているかもしれません。