サバイバル分析経営者の誤解(2)
これからの経営者は“等身大”か“ほら吹き”か
- 日経BP総研 望月洋介所長
文=菅野和利 - 2017年08月25日
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ビジョンを現実化する米国企業
日本企業の経営者は、米国企業と比べてビジョンでビジネスを引っ張っていくのが苦手といわれる。アップルをはじめアマゾン、テスラと世界トップクラスの米国企業の経営者には、人、物、金、情報を集める圧倒的な吸引力がある。成長のスピードも早い。テスラに至っては、2017年4月に時価総額でゼネラル・モーターズ(GM)を抜き、全米首位の自動車メーカーに躍り出た。2003年の設立からわずか14年である。「21世紀の最も有力な自動車会社となる」というビジョンを成し遂げつつある。
テスラと自社を比べられても……と思う経営者もいるだろう。しかし、日経BPのシンクタンクである日経BP総研の望月洋介所長は、日々、日本企業の経営者と出会う中で、経営者の意識が変わらなければ日本企業は存続できないという強い危機感を抱いている。「グローバルで日本が苦手な領域がどんどん増えている。日本企業はその変化に気づかなければならない」(望月所長)
日本企業の苦手な領域を次のように望月所長は挙げる。「PR戦略重視、情報戦重視」「ビジョン作成」「“超高速”の事業立ち上げ」「オープンイノベーション」「異業種連携」「IT駆使型プラットフォーム事業」――。例えば「PR戦略重視、情報戦重視」の領域について、望月所長は日本企業のよくある悩みをこう述べる。「よい技術を持っているのに知られていない、展示会でもブースが閑散としている、技術はあるのに顧客がどこにいるか分からない」。グローバルなビジネス環境では、よいものを作れば売れるわけではない。よさを知らせて売るためのPR戦略がますます重要になっている。このトレンドを知らなければ、今後生き残れない可能性もある。
「“超高速”の事業立ち上げ」は、日本企業にとってより深刻だ。ビジネスのスピードはかつてないほど速くなった。フットワークの軽い企業では、朝食会でアイデアが出たら、夕方にはチームをつくって検討を始める。じっくり議論して、よいものが出来上がるまで待っていたら、その間に市場に入り込む余地がなくなってしまう。スピードが求められる市場では、腰の重い日本企業は太刀打ちできないかもしれない。
日本企業が苦手な領域が増える
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周年のタイミングで積極的にビジョンを発信
今、グローバルレベルで経営ルールが変わりつつある。日本企業の経営者もその流れに乗っていかなければならない。まずは経営者がビジョンを持って、ビジネスを引っ張ることだ。
5年、10年、20年先を見据えたビジョンづくりの際は、“ほら吹き”になるくらいの気持ちで臨みたい。ビジョンは現状に沿った等身大のものになりがちだが、できれば大きいほうがよい。ビジョンが大きいほど、人、物、金、情報が集まってくる。多少“ほら吹き”と呼ばれるのを恐れてはいけない。
経営者はビジョンをどんどん社内外に向けて発信すべきだ。特に周年のタイミングなら、社外で発言の機会も多くあるだろう。海外の著名経営者のように華々しく登壇しなくても、地道に何度もビジョンを語れば、自社のビジョンが伝わり、人、物、金、情報が集まるようになる。あなたが周年事業の担当者であれば、経営者がビジョンを語れたり記したりする機会を数多く創出するのが、何よりの役割となるはずだ。
何度もビジョンを語るうちに、確固たる裏付けがなかった“ほら”に、少しずつ細い道筋が付き始めるかもしれない。ない道を行くのには不安がつきものだ。過去の成功をなぞるほうが、道は舗装されているように見えがちだが、未来の道はそもそも舗装されていない。異業種の知見を踏まえたビジョンは、未来の道をつくり出すものになる。経営者は自信を持って“ほらを吹くべし”だ。
- 2017年08月25日
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連載「経営者の誤解」
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