企業研究医療分野に押し寄せるゲームチェンジ(2)
ゲームチェンジで成長を続けるロート製薬120年
- 文=内野侑美
- 2019年02月19日
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日本が抱える社会問題のひとつに人口減少があげられる。これはそのまま市場の縮小につながる。国内企業も、世界で戦える目を養っていかなければならない。そんな中、業績を伸ばす企業は、どんな企業だろうか。医療分野にかかわらず、日々巻き起こるプレーヤーチェンジについて日経BP総研副所長を務める藤井省吾氏に聞いた。
絶大な安心感を強みに異業種へ参入
― 製薬会社の営業利益は下がっていると聞きます。
藤井:はい、その通りです。ところが、その中でも成長を続ける企業が、いくつかあります。前回、紹介した中外製薬もそのひとつですが、本年120周年を迎えるロート製薬も注目すべき取り組みをしています。
― ロート製薬はどのように成長してきましたか。
藤井:もともと目薬や胃薬などOTC医薬品(一般医薬品)で成長した会社です。90年代の売り上げは400億円でしたが、17年度の売り上げは1717億円と過去最高です。その理由は、事業形態を広げてきたからです。2001年に肌を内側から整えるオバジを導入。スキンケア領域を広げた結果、売り上げ構成比の65%をスキンケア関連が占めるまでになりました。ご存じの通り、ロート製薬はもともと目薬を開発していた会社です。高品質な点眼薬をつくる、良質な液体づくりのノウハウを持っていました。その技術を生かし、さらに「ハダラボ」という化粧品ブランドを立ち上げました。“製薬会社が作る化粧品ならば高品質”という認識から、一般消費者にブランドが広がり、市場で成功を収めています。現在、販売網は110ヵ国以上です。売り上げ構成も約4割が海外市場で、特にアジア圏が好調です。
― 今後は再生医療に注力するそうです。
藤井:化粧品を作る過程で、細胞を無菌的に丁寧に扱える技術を養ってきました。その結果、ADR-001という脂肪由来幹細胞を増やして人体に戻すことによって肝硬変を治す生物製剤を開発しました。これは2020年にも厚労省の承認を得られる見通しです。再生医療のフィールドは世界で15兆円規模と言われていますから、新たな事業拡大が期待できるでしょう。
― ロート製薬の他の取り組みも教えてください。
藤井:ロートは昨年末、大々的に「健康経営宣言」の記者会見をしました。社員の行動を変え、生活習慣病への意識を変えようと、社会的な取り組みをしています。男性には肥満率の軽減、女性には栄養バランス指導など、人生100年時代の中で健康寿命への意識を訴えています。
プレーヤーチェンジは必ず起こる
― 医療業界のプレーヤーチェンジはどう進んでいますか。
藤井:1990年代の初め頃は、衛星中継で最新手術画像がリアルタイムに中継できると一大ニュースになりましたが、今では、当時配信していたような画像は誰でも撮影できます。誰もが参入できるチャンスがあるといっても過言ではありません。5Gが軌道に乗ったら、手術の上手な先生の動画を撮影し、VRで体験できれば手術の技術を向上させられます。先日、開催された米国の見本市CESでは、医療補助ロボットが大きく紹介されていましたが、拡張現実で臓器の場所を表示し、人体のCT画像を重ね合わせ、まるで透視しながら手術するような技術も発表されていました。今まで医療産業とは無縁だった企業が、画像処理の分野で参入が可能になったのです。
― チャンスを見逃さないためには。
藤井:日経BP総研では、医療研究会の事務局を行っています。例えば、医療ビックデータコンソーシアムという研究会で、医療ビックデータの活用に向けて、産官学で課題に取り組む支援をしています。これからの超高齢化社会は、医療費の増大など課題が山積みです。そうした課題解決のために、産業界の人と医療界の人を結びつける役割を担っています。こうした研究会を活用するのもよいでしょう。
プロフィール
藤井省吾
89年東京大学農学部卒業、91年東京大学大学院農学系研究科修士了、農学修士。91年日経BP社入社。医療雑誌『日経メディカル』記者、健康雑誌『日経ヘルス』副編集長を経て、2008年~13年まで6年間『日経ヘルス』編集長を務める。14年~17年3月まで、ビズライフ局長・発行人として働く女性の雑誌『日経WOMAN』、健康・美容雑誌『日経ヘルス』、共働き向けウエブマガジン『日経DUAL』、女性を応援するウエブ『日経ウーマンオンライン』を事業推進。2014年には健康・医療の最新情報サイト『日経Gooday』を立ち上げた。18年4月から日経BP社執行役員、BP総研副所長コンサルティング局長。
- 2019年02月19日
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