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サバイバル分析イベントレポート〈ブランド・ジャパン発行18周年記念ブランドセミナー〉

共感を生む“らしさ”を意識したコミュニケーション

  • 文=平野優介
  • 2018年07月09日
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共感を生む“らしさ”を意識したコミュニケーション

2018年6月1日(金)、日経BPコンサルティング主催「ブランド・ジャパン発行18周年記念ブランドセミナー デジタル時代のブランドマーケティング」が、都内で開催され、約500人が来場した。セミナーには、今回の調査で第1位(BtoC編)に輝いたGoogleや100位圏外からトップ10位内(BtoB編)になる驚異的なブランド力向上を見せた日立製作所が登壇。彼らのブランド・コミュニケーションの秘訣に、来場者は真剣に耳を傾けた。その様子をハイライトで紹介する。

ユーザーの共感がブランドを育てる

グーグル日本法人執行役員コンシューマーマーケティング本部長の小池渉氏

はじめにグーグル日本法人執行役員コンシューマーマーケティング本部長の小池渉氏が基調講演で登壇し、「Googleのユーザーフォーカス・マーケティング」をテーマに、同社が重視する価値観やイノベーションを生み出すポイントを語った。

同社のマーケティングミッションは、「ユーザーを知り、プロダクトを使うことで生まれる魔法のような感動へとつなぐ」。その実現のために、「Googleならではの価値」を「ユーザーへの徹底したフォーカス」に基づいて提供する。

Googleの検索を利用してもらうことを狙いに展開された広告動画にも、徹底してこの信念が息づいている。同社では、Googleの検索に関するユーザー調査の結果、“忙しくても家族で楽しむことを妥協したくないと考える反⾯、出かける場所などの情報を検索するのは⾯倒くさい”と考えるユーザーが多くいるというインサイトが得られた。このインサイトに基づき、Googleの検索は簡単かつ気軽に使え、家族によりそうパートナーである、ということを伝えるための施策として、動画広告を展開した。

(参考)Google アプリ:いっしょに水族館へ行きたい篇

「実在の家族に出てもらい、自由な言葉とやり方で検索をしてもらいました。派手な伝え方ではありませんが、ユーザーの共感も得られ、検索の利用率を向上させる結果につながりました」と小池氏は振り返る。

「ブランド・ジャパン2018の結果でも、フレンドリースコアの上昇がGoogleを1位に押し上げた要因とされています。この部分は、目標として取り組んでいたことですので、非常にうれしい」と話し、笑顔を見せた。

セッションの最後に小池氏は「会社のミッションを追求しながら、“自分たちらしいやり方”で価値を提供・発信することで、ユーザーの共感が得られると考えます。ブランドは、その結果として育つものではないでしょうか。Googleはこれからもユーザーに対してより便利で価値のあるサービスやイノベーションを提供できるよう努めていきます」と締めくくった。

ブランド・ジャパンを「未来を読み解く鍵」に

ブランド・ジャパン企画委員会委員長の阿久津聡氏

セミナー中盤は、ブランド・ジャパン企画委員会委員長の阿久津聡氏(一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授)が登壇。ブランド・ジャパンの成果蓄積を背景として、新たに「総合力の安定均衡圏」というテーマを設定して解説した。

「今回は、2018年の上位ブランド群がBtoBとBtoCという両軸の中で、これまでどのようなバランスを取ってきているのか、その推移に着目して考えていきます。未来を予測する1つの指針になれば」と語り、AmazonやApple、Google、任天堂、パナソニック、日立製作所といった企業のブランド戦略の方向性を説明した。

ブランドコミュニケーション部ブランド・ジャパンプロジェクトマネージャーの石原和仁

ブランド・ジャパン2018の結果については、ブランドコミュニケーション部ブランド・ジャパンプロジェクトマネージャーの石原和仁が解説。「今年は生活の質を向上させるブランドが上昇しています。昨年からの傾向で、今年はさらにそれが強まりました」と分析。そのほかBtoC、BtoBのトピックスを解説した。

(参考)ブランド・ジャパン総合力ランキング

創業精神を核にグループアイデンティティを明確化

日立製作所ブランド・コミュニケーション本部長の平野泰男氏

セミナーの最後は、日立製作所ブランド・コミュニケーション本部長の平野泰男氏が「日立のブランド・コミュニケーション活動」をテーマに講演。

日立製作所は、近年、社会イノベーション企業として躍進を続け、海外にも広く進出を図っている。ブランド・ジャパン2018の結果においても、それらの取り組みが奏功し、3桁の上昇を見せた(2017年119位→18年6位)。日立製作所がブランド・コミュニケーション活動を本格化させたのは、2013年頃からのことだ。平野氏は当時をこう話す。

「2012年の段階で、世界の各地域でバラバラのブランド活動でしたし、マス広告が中心でした。広報や宣伝のやり方や展開方法も部分最適な状態で、全体としての統一感に欠けていました」

日立製作所は2008年のリーマン・ショックもあり、2011年まで苦戦が続く。脱却を図るため、2012年に新たな中期経営計画を策定。そして2013年、ビジネスモデルの変化として「モノからコトへ」成長を目指し、社会イノベーション事業を次世代の成長エンジンとする戦略を本格化させた。ここには急速なデジタル化や、持続可能な社会といった時代の変化が重なる。

「モノからコトへとビジネスモデルがシフトする中、お客様との対話の場を構築しつつ、日立の課題解決能力を可視化することが重要になりました。そこで、経営トップを巻き込んだ意思決定や、グローバルに通用する統一メッセージの発信が実現できる体制へと転換していきました。デジタルコミュニケーションにも積極的に取り組み、特設サイトの立ち上げやSNSの発信体制も構築し、タイムリーかつ積極的に情報を発信しました」と平野氏。

インターナルコミュニケーションにも力を入れた。「1人ひとりの行動の結果がブランド」とのメッセージを強く打ち出した日立グループアイデンティティを2013年に設定。平野氏は「M&Aで日立グループとなった海外の企業も多くあります。そこで創業の精神を1つの核にアイデンティティの浸透を図っていきました」と話した。

(参考)日立グループアイデンティティ

「現在は、変化が常態化した時代。社員1人ひとりの力が問われる時代でもあります。日立の歴史を紡いできた『和・誠・開拓者精神を発揮して、お客さまや社会に貢献』するというアイデンティティに基づく行動が、これからも日立のブランド価値を高めていきます」とセミナーを締めくくった。

Googleと日立製作所の事例に共通するのは、時代の変化に機敏に対応しつつ、一体感のある戦略が功を奏している点だろう。ブランドの価値を高めるカギは、社会にどんな価値を提供できるかを出発点に、自分たちらしさを再認識することではないだろうか。

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  • 2018年07月09日
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